それぞれの戦い(4)
***
朝、理戸市にある志染探偵事務所。
所長である志染真は助手、未来鈴と共に向かい合って獅蛇京介尾行の反省会。
「どうするんですか? 早速ばれましたけど」
「ああ、こんなに早く悟られるとは、あの獅蛇とか言う人、なかなかやるな」
「って、恰好つけている場合じゃないですよね!?」
昨日、確かに時間帯もあり人通りは少なかったが暗がりでもあったし、それなりの距離も取っていた。だが、あの獅蛇京介という人物は尾行を突き止めたのだ。何度も角を右に曲がり続けたのだから、意図的に尾行を割り出そうとしていたのだろう。
「尾行に気づくなんて。彼は尾行される覚えがあるから気づいたのかもしれませんよ」
「確かにな……何か隠している事、やましい事がある故に周りに注意を払っていたと」
だが、どちらにしても向こうは誰かが尾行していると言う事にはもう気づいている。極力依頼人との接点を隠し、獅蛇に湊からの依頼だと悟られないようにする事も優先される。これは、もう少し周りで情報を集める所から始めるべきなのだろう。
「じゃあ、今度はばれないように違う変装を」
「うん、だからと言って星型のサングラスはないと思うぞ、鈴。あとマスクもやめい!」
「なら、今度は角から角、電柱から電柱と陰に隠れながら姿を見られないように尾行を」
「んな漫画みたいな素人の尾行すれば、余計ばれるわい!」
「え!? あれって、漫画だけの話なんですか!?」
「ごめん、いっそのことクビにしていいか?」
「冗談ですよ~。コーヒーを真さんのソフト帽にこぼしたくらい冗談ですから~」
「ダァアアアアア!?」
ひょいと鈴に渡されたのは昨日かぶっていたソフト帽。コーヒーの匂いが染みつき、鍔から液体が少し垂れている…………。
「てめ、俺の大事な帽子に何してくれる!?」
「真さんがその大切な帽子を壁にもかけないで机に放置したまま寝落ちしたからです」
「……ま、それもあるけどな……」
だが、どうせこの帽子はもうかぶるまい。尾行時に気づかれたときにかぶっていた帽子だ。ただでさえ服装並みに頻繁に変える物。別の帽子をかぶる以外の選択肢はまずない。
「お前も帽子、別のにしろよ」
「と、いいながら真さんはソフト帽のこだわりだけは捨てないんですね」
壁に掛けられた違う色のソフト帽を手に取りながら、少し手を止めてしまう。こだわりだから仕方がない。モチベーションが上がらないのだ。
だからこそ、その帽子をかぶり、鍔を人差し指でクイッと上げた。
「まあ、どちらにしてもしばらくは獅蛇から離れる。奴の尾行はなしだ。周りからの聞き込み調査を始める所からやり直しだ」
「ま、そうですよね」
差し当たり、獅蛇と言う人物に近いであろう麻布田高校の前に来たが、そう簡単に生徒片端から声を掛ける訳にはいかない。忽ち、うわさが広がって獅蛇の耳に聞き込み調査されていることが入りかねない。だとすれば、まず声を掛けるのは必然的に二人に絞られる。
「今思ったけど、鈴なら制服さえ着れば違和感なく潜入できそうだな」
「……ケンカ売っているんですか? あ、来ましたよ」
鈴の声に反応し、その方を向く。早速、二人のうちの一人である龍巳が登校してきた。秋角の方は一緒じゃないがいいだろう。この二人はここの生徒で唯一面識がある。
「やあ、龍巳君、ちょいと暇あるか? 直ぐに終わる」
龍巳はこちらの声に気づくと俺? とでもいうように指を自分に向けて指すとわざわざ向こうから駆け寄ってきてくれた。
「探偵さんが俺に何か用ですか?」
「あります、あります。ちょっと聞きたいことが!」
「不安だから鈴は黙っててくれ。俺が話す」
「真さんも格好つける癖に」
「るせぇ、重要な事だぞ、お前に任せてられっか!」
「……あの……」
「あ、ごめんよ。本当に時間はとらせないから」
凄く迷惑そうな顔をされかけ慌てて龍巳をなだめ、自分は考えるため顎に手を置く。
さて、直接聞くのは彼に獅蛇に対する妙な不安的感情を抱かしかねないが……。
「龍巳君。獅蛇京介先生について何か変わった事はありませんでしたか?」
「あ、こら、バカ!」
ガチで直球勝負しだした鈴の口を塞ぐがもう遅い。「格好つけて言うのを渋るから」なんていう鈴を黙らせるが、案の定、龍巳は面食らったような顔した。
「別に……変わった事はありませんけどね。むしろ、獅蛇先生は生徒思いの普通に良い先生だと思っていますけど……あ、そういえば、前にも校門でいましたよね。獅蛇先生を見てたんですね。でも、何かあったんですか?」
「いや、別にたいしたことじゃない。探偵ってのは何も悪人の調査をするのが仕事と言う訳では無いからな。俺はあくまで街探偵。獅蛇先生の味方でもあるし、君の味方でもある」
「こら、格好つけてますよ、はぅうん」
鈴の言葉を手で紡いで、気にするなと手を振って龍巳を学校に見送る。そして去っていくのを見届け、誰のいなさそうな道にまでサッサと鈴を連れていく。




