42:新たなる本拠にて
エユスタチエ伯爵に知識系で融通を利かせてもらえるのならば、何も無理して
王都グランカリマに留まってなくても良いのでは? と西フランカリマ滞在
4ヶ月目にして今更気が付くトマ。
「……そうだ…拠点を変えよう」
「「「「え?」」」」
自称ないし通称:第一~四使徒以下ドヴェルグと灰エルフ達に有無を言わさず
トマは借りていた場所を借りる前の状態に“復元”し、西フランカリマと
中部フランカリマ国境近くにあるルージュ=ビアンコ山脈の
血汚しのギヨーム山中腹に本拠を構えることになった。
「一応名づけるとして…適当に深山泊とでもつけておくか」
他にもぶつくさ言いながらトマは中腹をガンガン掘り進めては以前の内装を
あれよあれよと再現というか復元し、ドヴェルグたちが精魂込めて作り上げた
工房ですらものの十数分で持ち出しておいた道具すらそのまま復元する。
「「「「「………」」」」」
「さて、持ち出した荷物は亜空間から順不同で出していくから、お前たちは
自分たちのものを持って行ってくれ。なんだかんだで所々斜面だから
放っておくと仕事道具も落ちて行ってしまうぞ?」
口をパクパクさせながらも体を動かして再復元された持ち場へ
各々の荷物を運んでいくドヴェルグと灰エルフ達。
「……っと、そうだな…これもオマケでやっておくか」
荷物を運んでいた彼らを一旦静止し、歩きやすいよう
念動力を用いてなぎ倒し形を整えた太い木々で歩道も設えるトマ。
何人かは考えるのを放棄して持ち場へ働きアリが如く荷物を運びこんでいく。
ちなみにライラとセシールが目をキラキラさせるのはもうデフォだ。
なのでトマは一瞥して無反応を決め込む。
ということで知識収集と依頼、最低限の行商以外では
ルージュ・ド・ギヨーム山中腹に移した本拠…通称「深山泊」にて、
トマはまったり肉体強化術式施工に外部記憶内に蓄積された
本筋とは関係ないが興味深い知識が著された本や書類を
茶や珈琲片手にだらだらと読破する毎日を送ることとなる。
暇ではあるが、今までの騒がしい日々に比べれば本来は余計な関わりを持たずに
気長に異世界放浪しつつ世界知識制覇していく…という計画にも合っているので、
トマにとってはまぁまぁ悪くない日々が続く。ドヴェルグや灰エルフ達も
以前に比べればある意味では気ままに暮らせるのでトマの動向以外では
一切合財気を揉むことのない生活に少しずつ慣れていった。
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そしてある日のこと、そろそろワーカーの仕事や防具卸売をしに行こうかと
馬車を走らせていたのだが…
「止まれぇっ!!」
「死にたくなかったら身ぐるみと女子供を置いてけやぁ!!」
トマ率いる「森山座団」の馬車は野盗に囲まれた。
普通なら馬車内外で狼狽が起こるのだろうが、森山座団の面々は
単純に面倒くさそうに設えてもらった武装や護身用具を構える。
「あん…? お頭!? こいつら人間じゃ――
最初に異変に気付いた野盗その1の頭は矢の生け花となって地に倒れる。
弓を構えた数人の灰エルフが呑気に欠伸しながら次の矢を放つ。
「うどゃ!?」
「や、やべげ?!」
「オェェ?!」
「問題なさそうだ。ドヴェルグ白兵戦隊。蹂躙しろ」
「ご注文、承りました!」
「「「承りました!」」」
灰エルフ達の先制精密射撃に動揺する野盗達を見てトマがそう一言。
すると即座に返事が返り、トマ作の戦闘用手甲ディスジルベリオンを模した
手甲を始め、どう見ても魔法金属製の重装備なドヴェルグ男子や
逆に何処の忍者だと言いたくなるような格好のドヴェルグ女子が次々と野盗を
抵抗の暇も与えずにサクサクドブシュウッグサグサゾブリと必殺していく。
どうにか逃げれそうだった最後の数人は灰エルフ達の狙撃でハリネズミにされる。
「おぉー…お見事です」
パチパチと拍手するのはライラ。
「死したる先は唯一至高神の元で最終審判をお受けなさい…」
野盗の亡骸がアンデッド化しないよう祝詞を唱えつつ浄化していくセシール。
「ふむ……まぁ僕らのことを知らなかったのも仕方ないか。悪いことをしたか?」
リーダーと思われる野盗の遺体から記憶を読み取っていたトマはそう呟く。
「トマ様に刃を向けた時点でこの野盗共は死ぬしかないのです(^_^)」
「ここで地獄へ落ちるのは彼らの定めであり救済なのです(^.^)」
「「「「………」」」」
いい顔してそんなことを平気で言えるライラとセシールにはトマ以下
ソピア姉弟とリョート兄妹らはやはり慣れないし慣れたくない。
「……とりあえず野盗達の遺品を整理でもするか…」
とりあえず野盗達の遺体や馬車を漁り、目ぼしいものを物色していたのだが…
「あ、あのー…お館さま…」
一番遠くに待機していた馬車から戻ってきた忍者スタイルのドヴェルグ女子から
ちょっと見てほしいと言われたので見に行くと…
「あぁ…たまにあるな…」
馬車には詰め込まれていた手枷足枷首輪付きな多人種の女たちが
ブルブルガタガタ震えながらこちらを見る。幌の布が薄いから
飛び散った血がべったり付いてるのも裏から見えただろうから
多感な世代と思われる子らの数人は粗相をしていたようで、
額をトントン叩きながらトマは彼女らに浄化魔術をかける。
「西側ではエルフとドワーフ以外は未だに亜人扱いだったな…」
帝国は一応獣人種も人権はあるが一応でしかないので他国を糾弾する資格は無い。
「まぁ…狼人族に虎人族…兎人族…こちらは蝙蝠人族…この子に至っては
トマ様の人としての故郷の全央帝国の竜魔人族縁の者では?」
「………やれやれ、何とも兵隊のごった煮鍋な面子だ…」
「主様…流石に笑えませんよ…?(<〇> <〇>)」
「やめろ…! その目で僕を見るな…!」
頭を掻きながら皮肉じみた言葉を言ってしまい、セシールの静謐虚無眼に
見つめられて思わず腰が少し引け…るかと思えばボスッと小さな何者かが当たって
引けなかったトマ。
「ん…? …ッ!?」
腰にぶつかってきた小さな何者を見て一瞬足に半端じゃない膂力と魔力を
込めてしまったが、条件反射的に記憶を読んだお蔭でそれが前世の
戦線で互いに喰らい合った星海邪神族では無かったと知り、
一安心しつつも困った表情になるトマ。
「………(〇_〇)」
顔を埋めていたかと思えばこちらを見上げてじーーーーーっと見つめてくる
星海邪神族に似た異人種族の幼女ないし少女。
「………(-_-;)」
「………(〇_〇)」
「………(-_-;)」
「………(〇_〇)」
「………(-_-;)」
「………(〇_〇)」
「何時までそうしていらっしゃるのですか?(<〇> <〇>)」
「そういうことは私としてくださいねトマ様(<〇> <〇>)」
「ぬわぁッ!?」
どうしたもんかと睨めっこしていたらW静謐虚無眼が
W氷点下ボイスとともに刺さったので幼女を引きはがしつつ三歩下がるトマ。
「あー…と…『Ποιος είσαι εσύ; Έχετε ένα όνομα που λέτε;
(君は誰? 名前は言えるかい?)』」
「…西部語でだいじょぶ…私はセア…名はセア=ハロス=アディス。
家名はズィミウルギア=プロエレフスィ…生まれは西弐大陸南部の海洋帝国…
クルヴルフルー神星水帝国クルヴルヒ深海大公の娘…先月で満九歳…(〇_〇)」
「ぬ…その国は全く知らぬ…しかし…やはり西ないし東の果てに大陸があったか」
「わたひも…東の辺境に貴方ほどの大いなる存在が居てビックリ(〇_〇)」
「ぬ…!?」
弱冠九歳にしてトマの奥に潜めている何かを知ったような物言いをするこの
幼公女に少し警戒の色を見せるトマ。後ろの二人は正直今くらいは自重してほしい
別な意味でしか警戒していない。
「あー…と…であれば君は海魔人族という種族で良かったか?」
「……広義では間違いない。正確には海忍者族(〇_〇)」
「スキュラ族か…」
服の上からでも分かるが確かに彼女の背中や腰から普通の人種はまず持ちえない
自身の太腿並の太さの触手数本と耳にあたる部分には大きな鱗みたいなのがある。
大きな目は魚介類の一般的な形状に近く、瞳は一部の蝦蛄等のように
普通の人種には見えない光線類が見えていそうな感じだ。だから見つめられると
普通の人種は耐え難い怖気が走りそうである。トマからすれば
真珠みたいで綺麗な部類だが。
「お前たちはスキュラ族とかクルヴルフルー神星水帝国とやらに聞き覚えは…」
振り返ったトマの質問に無言で首と手を左右に振って知らないと返す面々。
「アーリエタニアから来た行商の方が西にはまだまだ未開領域があると
聞いたことはあるのですが…」
「かつての食い殺されてざまぁなクソボケ白蛮族主人から暴言交じりに
聞いたような気がしますが、要領を得ません」
「ふむ…どうしたものか…」
> > >
ただでさえ未だ暗黒大陸なんて呼ばれているアーヴリクファがある。
なのでそれ以上に存在すら疑われる西の果ての弐大陸なんて
誰も知らないし、そんな所からやってきた此方では完全に異邦人種な
スキュラ族のセアの行き場なんて皆無に等しい。
「………(〇_〇)」
「………(-_-;)」
「………(〇_〇)」
「………(-_-;)」
「………(〇_〇)」
「………(-_-;)」
「………(இ_இ)」
見つめてきたかと思えばいきなり目に涙を溜めだすセア。
「……ッ!?」
両目に零れそうな涙を湛える幼女相手なトマに選択肢など無かった。
「「(<〇> <〇>)(<〇> <〇>)」」
「………大人げないぞ、お前たち…」
こうしてトマ率いる「森山座団」メンバーに新たな人物が増えた。
43:に続く
そろそろ物語が大きく動くはずですが…人物が思ったように動いてくれぬ…!




