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20:覇王と超越者<1>

番号サーセン

 トマの実力はそこらへんの武人程度ではないことは同じ強者系武人として

わかっているのであまり加減せずにバシバシ肩を叩くエルムートゥス。


「本当に来ると思わなかったが! 殿を抜け出して放蕩しておった甲斐が

あったぞ! ふははははは!」

「…エルム殿、痛いです」

「ぬはははは! 大したことも無かろうに?」


 何気に相変わらず幽鬼みたいなカリーファもエルムートゥスの傍にいたが

トマ以外はライラが漸く気づき、さっきまで全く気づかなかったエルマヴィが

「どをぅあ!?」とカリーファを見て盛大に驚く。


「エルマヴィ殿。その驚き方は失礼です」

「いや、だってエルムさんの存在感が半端ないから…!」

「ぬははは! 実はカリーファは余の影の者! すまんかった! がははは!」

「そういうの一応先に言ってくれると俺も喜びますが?! って痛い痛い!?」


 豪快に笑いながらエルマヴィの肩をバシバシするエルムートゥス。


「ところでお前たちは何時首都に? 一応余は今朝から探してみたのだが?」

「朝から探していたのですか…」


 トマはカリーファを見ると力なく首を振る。


「…お互い苦労しますね」

「…あまり嬉しくはありませんが…」


 と言いつつ握手を求めてきたので応えるトマ…


―はぁーホントもうなんでエルム君っていっつもこうなのまぁそんなところも産まれた頃から好き好き大好き超愛してるこの間もカッコよかったし凱旋は何時見ても濡れるし年を経る度に先代様以上の燻し銀感漂ってくるし匂いもすっごいあぁ早くエルム君の子ども産みたい死ぬまでに百人以上産みたいなのに最近になって急に後宮ハレム通いとかマジ死んでいいえやっぱりこの手で殺して永遠に私のモノいいえちゃんと子どもは五人産ませてもらってからちゃんと殺してそれからうふふふふふひひひひひひひ…


「ぅ、を……!?」


 トマは流れ込んできた強烈な邪の波動を纏ったかのような思念に驚くが

どうにか表面には辛うじて出さないようにしてカリーファとの握手を笑顔で

どうにか乗り切った。


「…どうしました?」


 ほとんど表情が無く首を傾げるカリーファ。


「いえ…強いヤミの魔力をお持ちで」

「はぁ…まぁ先天属性が闇なのは今更否定はしませんが」

「ぬははは! 影なのだから当たり前だろう!?」


 今だけはエルムートゥスの肩バシバシがトマの気持ちを叩きなおしてくれる。


「しかし、やはり唯のエルム様ではないようですね」

「それはお互い様だろうトマ殿?」


 笑ってはいるが先の盛大さはないエルムートゥスがトマを優しく見つめる。

何かエルムートゥスの影で無表情だが鼻息を荒くしかけているカリーファが

目に入ったが見なかったことにした。


「いや、しかし会えて嬉しいぞトマ殿。昼も過ぎてしまったし、

てっきり足早にベルクダート行きの船に乗ってしまったかと思うたわ」

「ベルクダート行きは明日の午後らしいのでその心配は杞憂でしたね」

「うむ……所でトマ殿? お主らは昼食は済ませたのか?」

「そーいやぁジャラジャラやらかしたせいで食ってなかったなトマ氏」

「余計なことを言うなマヴィ…」

「ほう、ジャラジャラとな…? また面白そうな事を仕出かしたようだな?

折角なのでちと遅いが余の友人宅で饗しつつ聞かせてもらおうか?」


 エルマヴィを軽く睨むトマ。両手を合わせて謝ってくるエルマヴィ。


> > >


 エルムートゥスが友人宅と言ったところは、まぁ予想通り

どこぞの貴族の屋敷だった。エルムートゥスが呼び鈴をオラオラと鳴らして

 出迎えに慌てて出てきた男はクルチカーシ・ルズギャルヴァーディシーという

大王国の法衣子爵でエルムートゥスの幼少期からの付き合いだそうだ。

 以下、わたわたと通された食堂でのことである。


「全く…エルムー…君は相変わらず傍若だな…!」

「そうは言ってもだなクルチ…余には友人と呼べるのがお前しかおらぬのだ」

「それにしたって家格の差があるだろう…まぁ、どうせ君は

死ぬまでそのままなんだろうけどさ」


 エルムートゥスが暇を見ては尋ねてくるのに慣れているのだろうか、

ルズギャルヴァーディシー子爵は両手を鳴らすと、あれよあれよと

出来立ての料理や飲み物を次々運んでくる。


「うむ! やはり温かい食事は良いな! 家の冷めた料理などゴミのようだ!」

「冷めてても君の家のほうが良いもの出してるだろ…」

「冷めた飯など食うくらいなら市井の屋台で粗野なケバブでも食ってたほうが

随分とマシだ! 大分大分マシだ!」

「また街中にも出たのかい…?」

「ぬははは! 彼奴トマに会えるかと思って早朝からな!」


 ルズギャルヴァーディシー子爵は「貴方も災難ですね」と目配せし

「いいえ、貴方に比べれば…」と返すトマ。


「よし! では全員座ったな? 今日は時間も時間なので祈りは日輪皇国式の

"イタダキマス"で簡単に済ませて食そうぞ!」

「やれやれ…教主さまが聞いたら嘆くだろうな…」


 と言いつつ子爵は両の手を合わせる。

何気に「不幸せ(節合わせ)」にならぬようにしているのが

彼も大分エルムートゥスに振り回されてきたことを物語っていた。


「では、えー…"ウィタダキマァス"!」

「「「「ウィタダキマァス」」」」

「…戴きます」


 ちゃんと言えたのはトマだけだった。まぁ外国語なのだから仕方が無い。


 最初はエルムートゥスがわしわしと(しかし食器の扱いは異常に丁寧)

料理を口に運び、口直しに茶も何度か啜る。

 子爵やカリーファはまぁ付き合いの長さから食を進めている。

ライラはトマ以外に遠慮するのはあまりないので此方もそんな感じ。

となれば食が微妙になるのはトマとエルマヴィばかりである。


「んぐ……そういえばジャラジャラやらかしたという話だったが

一体全体どういうことなのだ?」

「…どうしても聞きたいのですか?」

「どうしても聞きたい。余は流石に賭博場そのものには入れぬのでな」

「ぐぬ…」


 仕方が無いのでトマは「300万ほど喜捨してやろうとしたら

逆にジャラジャラと5500万稼いでしまった」事を多少掻い摘んで話す。

 この話は子爵もカリーファも手が止まった。子爵に至っては「こ…今月の

国家予算の一割を二時間足らずで…?!」と呟くほどだ。

そんなのは聞きたくなかったトマ。


「むはは…! それはアレだな! 間違いなく景気良い喜捨に

天の神がお喜びになったのだろう! その金は大事にしておけトマ殿!

っていうか故郷に錦を飾ってしまえ!」


 頼んでないのにトマのコップが空と見るや冷やし珈琲をダクダク注いでくる

エルムートゥス。


「大王国の金塊が帝国に流れてしまうのは良いのですか?」

「勝ち取ったものを返せなど無粋な真似よ、まぁ 一 大 王 国 民 としては

帰るまでにばら撒く様に使って余の国の経済を大いに回してくれると

有難いが……それも野暮である!」


 一大王国民を強調してきたがスルーするトマ。だからカリーファ…は分からんが

子爵はさっきからハラハラしっぱなしである。気づいてないのはエルマヴィ

唯一人だというのに…。


> > >


 結局そのまま菓子や茶も出され、「いっそ泊まっていってはどうだ?」

と自分の家のように言うエルムートゥスに「いや、もう宿を取りました…

45万ほど宿に喜捨しました」と皮肉っぽく言えば「ふははは!」と

笑って一蹴される。単なる話し相手だとやり難い事この上ない。

このエルムートゥスは脳筋っぽく見えるだけでやはり知見ある大王なのだ。


「まぁ、夜くらいはゆっくりするが良いさトマ殿。では、余らはそろそろ

己が家に帰宅する。クルチ、何度もすまぬな。表立っては

お主の言を聞いてはやれぬが、何かあれば文をドンドン出せ。

世話になっている分の倍は返してやるから」

「今でも十分だよ…君がお節介で僕は子爵として独立しちゃったんだぞ?」

「ぬはははは! 余はお主の足かせを取ったに過ぎん! 子爵位も独立も

お主が戦果や成果を実力で勝ち取ったものぞ!」

「やれやれ…気をつけなよエルム」

「要らぬ心配だ」


 そう言い終えると互いに背を向けてそれぞれの居場所に向けて歩き出す二人。


「………」


 背中が見えなくなるまでずっとそうしてようと思ったら後ろ向きのまま

ザザザザと台所に出るアレみたいな感じでトマに寄ってきたエルムートゥス。


「こら、お主も宿までは同じ道だろう」

「いえ、大所帯はどうかと」

「ええいわからんやつめ!」

「ぐわーっ!」


 エルムートゥスはトマをヘッドロックっぽく押さえつけてそのまま歩き出す。

別に振りほどけないことも無いが、それをするには少々力を解放せねばならないので

エルムートゥスの腕前がまだハッキリしてない以上下手に動けない。


「ぬぐわーッ!(ぐぬぉを?! さり気に嫌なケモノ臭いがするぅぅぅうう!!)」

「トマ様ぁ!?」

「あららー…アレは下手に動いたらゴキッといくなトマ氏…神のご加護を」

「エルム様…もう…!」


 トマが開放されたのは宿の受付に辿り着いてからだった。


> > >


 トマ達が宿から発とうとして王都の様子が昨日までとは

打って変わっていることに気がついた。王都内でやたらと走り回る

大王国兵の姿が頻発するのだ。


「およ…? 何か…不穏じゃね…?」


 珍しく長耳をピクピクさせている(っていうか動かせるのか)エルマヴィ。


「トマ様…耳を…」


 ライラに言われたとおり耳を澄ますトマ。


―西北の異教徒ディンシス連中…ついに夜襲をかけて来たそうだ…!

―北都ダーペストは半占領状態だって…?!

―北西のヴェイフォグラットでも依然交戦中…?!

―あいつ等暗黒大陸征伐の情報を掴んだんじゃないのか…?!

―おお、神よ…我らをお守りください…!


「不穏な情報が錯綜しておるな」

「マジかよ…」

「マヴィ。とりあえず定期船を確認しに行くぞ」

「はいよ!」


 三人はケンスダンディニスから最も離れている定期船乗り場を目指すが、


「オイ、待ってくれよ! 馬車すら動かせない!?」

「南征で軍馬すら満足に用意できねえっていうから軍の連中は

輜重隊用の馬だけでもと根こそぎ持ってっちまって…老馬なんかも

寝たきりの奴とか臨時糧食としてさぱっと…」

「ふむ…」


 まさか馬車すら動かせないとは…であれば定期船は今動くのだけ出させて

残り全ての運行を大央河の協商連合たちが大制限ないし完全停止してしまうだろう。


「金はあるんだ! 大金貨も二十までなら出す! だから…」

「勘弁してくれ! 使える馬なんか何処にもねぇんだよ他を当たってくれ!」

「…クソッ…!」

 

 力なく爺さんを放すエルマヴィ。

 うらぶれた厩の爺さんでこうなのだから他を当たるだけ無駄だろう。

何しろ情報はまだ確定していないものが錯綜しっぱなしだ。

風の噂ではエルムートゥス自身が軍を率いて防衛に向かったなどという

流石にそれは…ありそうでなさそうに思えない噂さえ流れている。


「一度宿へ戻るぞ…」

「今は、それしか方法がねぇか…」


 そう思っているのはエルマヴィだけだった。


> > >


 隙を見てエルマヴィに眠りの魔術をかけ、一筆したためるトマ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ブューククラクマエル=マヴィカプラン・ネーリンキープス殿


 まず第一に謝罪を。大王国が不穏な中、知り合って間もない

外国の小僧相手に決して見下すような真似をせず、一商人と客という

関係を以ってわしらに接してくれたこと、嫌な顔…はどうだったか

分からぬがそれでも仕事を降りることなく職務を完遂せんと奮闘せし事、


真に感謝極まりない。


 本来であればちゃんとした形で正当な報酬を別れる時に渡したかったが

このような形になって申し訳ない。この文とともに

3000万アクリ分の金塊を入れた鞄(収納魔術付与)を置いていく。

エルム殿の言を借りれば「これで故郷に錦でも飾ってくれ」だろうか?


長々と申し訳ない。儂は文は読むほうが得意なのでな。


 最後になるが「生き延びよ、汝は此処で滅ぶ定めではない」


それではさらばだ…お前の夢が叶い、幸福なる冥福を迎えられんことを。

非常多謝、マコトニアリガトウ、チェク・テシェキュウ・エデレム。


大王国暦683年 新次の月 第三週 小天日の日


全央帝国ハルマローシュ伯爵子:トマ・ハルマローシュ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…………こんの…ばっかやろうが!」


 エルマヴィはトマの残した文を叩きつけようとして…

寝床にあった鞄を開ければ確かに100万アクリ相当の金塊が

きっちり30個入っていた。


「…開業記念サービスはまだ終わってねぇぞトマ氏…!

俺のモットーは依頼主が死ぬか俺が死ぬか

職務完遂まで絶対に降りないことだ!!」


 荷物を背負い、宿を飛び出していくエルマヴィ。


「大王国商人を…! ネーリンキープス家のブューククラクマエル=

マヴィカプラン・ネーリンキープスを見縊んなぁあぁああ!!」


21:に続く

次回予告が当てになるのはストック(当然今は無いよ)があるときだけだぁぁっぁあ!

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