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2:全央帝国にて(幼年)

普段はこれくらいの方が良いですよね?

全央チャンヤン帝国統一皇暦1690年…鋼輝コウキ29年。


 終末を迎えた前世より異世界に転生した超越者ことトマが、

この世界において列強種族と思われる「完美ワンメイ族」なる魔人族が支配する国家、

全央帝国の帝都:空曠クァンクォ大華龍ダーファロンの中央…全皇チャンファン城から見てやや東東北にて…

通称「寛容公クァンロンコン」と呼ばれ慕われる偉丈夫ことハルマローシュ伯爵に拾われ、

驚いたことに伯爵の義息ぎそくとして育てられる事となってから三年ほど経った。


 自分はこの国では劣等種として扱われる人間種アントロポスなのだが、

ハルマローシュ伯はこれまでに見てきた呆れすら通り越して

もはや清々すがすがしさすら感じる程の他多種族を見下す魔人族とは違い、

一々無駄に憎しみを買うような愚行はしない良識者だった。


 ただ彼はそんな男ゆえに他種を差別するのが当たり前な同族達

(特に悪辣系の貴族)には相応に気に入らぬ人物として捉えられており、

ちょっとした嫌がらせを受けていたりした。とはいえハルマローシュ伯は

魔人族としては珍しい光の魔術の素養に長けており、これまでの全央帝国の

従軍や盗賊退治等でも無視できない戦果を多々挙げており、

また自身の私兵もこれまでの行いから彼を慕い、彼のためなら死ねるような

者達ばかりで構成されているため嫌がらせも大したことはされていない。

 精々が彼の人の良さにつけこんで面倒な仕事を押し付けたりする程度だ。


 また、彼自身の戦闘能力の高さも上から数えたほうが早いほどの実力なので

どこかから差し向けられてきただろう暗殺者なども

トマが手を出すまでもなく蹴散らしている。


 通称通りの寛容さと申し分のない実力にいぶし銀な魅力も出始めた偉丈夫。

色々揃ったこの男は確かに「完美族」という民族に相応しい男なのだが…


「む…むむむ…」


 そんなハルマローシュ伯はさっきから落ち着かずに部屋をうろうろしている。

隣の部屋の様子を壁越しに聞いてみようとしたり、あーでもないこーでもないと

呟きながらついには隣の部屋に入ろうかと思って貫禄ある侍女長に怖い笑顔で

止められたりしている様は、前言を少々撤回しても良いのではと考えるトマ。


「旦那様。奥方様は初産なのですから、何卒ご勘弁を」

「いや、しかしだね瑠璃リォリィ(侍女長の名前)…初産なればこそ…」

「しっかりしてください旦那様。気付けにお茶でも淹れましょうか?」


 ハルマローシュ伯が落ち着かないのは、この度正妻に迎えたセム公爵の娘、

鵜美都テァミトが子を出産することとなったからだ。


「一昨年のエアメルドゥク様がお生まれになる時もそうでしたが、

帝国の極光天魔卿ジーガンテンマーティンと誉れ高い旦那様が狼狽ろうばいなされると

他の家人達にも要らぬ心配を助長させますよ?」

「いやいやいや、だからねリォリィ…何度も言うがテァミトはまだ十s…」


(全く…何かあったとしてもわしがどうとでもしてやれるというに…)


 実際トマなら爆発四散ないし木っ端微塵など即死でなければ…

より具体的には魂などの霊的な部分含め脳さえ無事であれば

その他を完治以上にすら施すことさえ造作でもないことだった。

 

 とはいえそんな上位神級の神業をこの場で易々とできるのはトマだけである。

トマの知る世界に比べれば医療も魔術も録に進んでいないこの世界は

かなり命の扱いが軽い。この間など銅貨数枚のために殺傷事件も起きたのだ。

 そんな命の軽い世界で、まして全央帝国では妊婦の出産という一大事に対して

確実に母子共に万が一の自体でもない限り無事でいられるという手段など

帝国では確立どころか理論の実証すらされてないのだ。


「ごしゅじんさま…てぁみと様あぶないの?」


 前世では悠久の時を生き、幾万の修羅場も幾億の猛者も容易く蹴散らしたが、

今はわずか三歳(帝国は数え年なので四歳)の男児であるトマは、

ちょっとは落ち着いてもらうべく物事も知らぬ存ぜぬな幼児を装って

さっきから目すら泳いでいるハルマローシュ伯に心配そうに声を掛けた。


「…っ!? ……す、すまんな我が小公子シャオコンツゥトマ…

私としたことが…いや、大丈夫だ。腕利きの産婆は五人ほど呼んだし、

子を産んだことのある侍女達も付ける者は可能な限り付けてるし、

万が一のためにも白魔術師に薬師くすしに祈祷師だって呼んだのだ。

ここまでして何かがあるなど…いや、あってたまるか…!

私の二人目の子は今日無事に生まれる天命でなければならんのだ…!」


(ふむ、少しはマシになったか)


「ごしゅじんさまがそう言うならだいじょうぶです」

「う、む…そうだ、そうでなければな…」


爸々(ぱーぱ)、げんきでた!」

「おお、我が上小公子(シャンシャオコンツゥ)エア…パーパは元気だぞ!」


 二歳になったばかりのハルマローシュ伯の実子エアメルドゥクも

トマに続いて喋ってきたので、微笑みながら頭を撫でてやるハルマローシュ伯。


「………」


 エアメルドゥクを撫でながらもちらりとトマの様子を伺うハルマローシュ伯。

ハルマローシュ伯の視線に気付くもトマは気付いてない振りをし、

にこやかにリォリィに伯爵の為に茶を淹れてもらうよう頼む。


「では、少々外しますので。旦那様、いえハルマローシュ伯爵閣下。

決して先走ったことはなさらぬようお願いいたしますね?」

「お、おう…ぜ、善処しよう」


 普通なら侍女長ごときに伯爵がこのように気圧けおされるべきではないのだが

トマは知っていた。この侍女長リォリィ。侍女業務は兼業であり、

元は帝国の最高位親衛隊である『第八皇盾ディーバーファンダン』師団の次席団長という

途轍もない実力を持つ超武闘派な女傑諸侯である。


 実際、魔術なしの近接戦闘においてはハルマローシュ伯を数段も上回る。


 ぶっちゃけ取っ組み合ったらハルマローシュ伯は百戦九十八敗二分である。


 ハルマローシュ伯のプライドは当の昔にフルボッコである…。


 というかどうしてそんな女傑が彼に仕えてるのかさっぱり分からん…

とは元・超次元存在だがそういう機微は年相応に

無知であり興味も無いトマの個人的見解である。


「よし…トマ、エア。私の膝に座りなさい」

「あい!」

「……はい(何が悲しくて中年男の膝上に腰掛けねばならんのだ)」


 待合室として使っている客室の長椅子に深く腰掛けた

ハルマローシュ伯の膝上にいそいそと座るエアと渋々座るトマ。

 二人が座ったのを確認すると二人を強く抱きしめるハルマローシュ伯。


「うぅ…ぱーぱ。くるしいよ」

「………(力を入れすぎだ伯爵。今のわしらは幼児ぞ)」

「す、すまぬ我が小公子たちよ…」

「ぱーぱ? だいじょぶ?」

「…ごしゅじんさま?」

「うむ…私は大丈夫だ二人とも…というかトマ。今は私達しかおらんのだ。

今は私を父と呼んで構わぬ………むしろ爸々ぱーぱって呼んでも良いんだぞ?」

「…はぁ…? (やれやれ…)…では父上。ぼくは隣に座りたいのですが」


「ぬ、ふぅっ…?!」


「……(大概にしろ小心者ちちうえ…)はぁ…」

哥哥ぐーぐ(お兄ちゃん)? ぱーぱ、やーの?」

「…そんなことはないよエア。でも父上のぎゅーぎゅーは痛いだろ?」

「んー……ん! ぱーぱ好き! ぎゅーぎゅーも好き! どっちも好き!

 でもいまのぱーぱのぎゅーぎゅーやーの!」

「ぐふぅ…!?」


 子供とは時に無邪気ゆえの残虐さがある。

世の父はこうして一進一退していくのだろうか。


「あらあら…仲睦なかむつまじき事で。旦那様、エア様。トマくん。

お茶をお持ちしましたよ。取って置きの水菓子もありますよ」

「やったー! おかし! おかし! おちゃはおさとーたっぷり!」

「ありがとうリォリィ。じゃあ林檎りんご餡餅シェンビン(パイ)を下さいな。

ちt…いえ、失礼しました。ご主人様は何をめしあがりますか?」

「ぬあっ…?!」


 甘味を察知したエアメルドゥクは残像を見せるが如くリォリィの元へ行き、

一拍子おいてトマも俊敏シュバッと参じた。


 ハルマローシュ伯は涙目になりそうだったがリォリィの手前、色々頑張った。


「………私は蜜柑で良い。あと茶は濃い目で頼む」

「承知いたしました。少々お待ちくださいね」

「はやくー! はやくー!」

「エア…様。リォリィをかしたらダメですよ」

哥哥ぐーぐ? なんでエアに“さま”つけるの? へんだよぐーぐ?」

「ふふ…エア様。トマくんはお行儀が良いのですよ。

だからエア様も見習いましょうね」

「おぎょーぎ…やーの。おさとーたっぷりのおちゃと、おかし、まだー?」


 一部を除いて西方諸国も全央帝国もお茶は欠かせないものだ。


「「「ふぅ…」」」

「あらあら…ふふふ…」


 菓子をつまみ、茶をすすり、同じ間隔タイミング

一息を入れた父子三人を微笑ましく見つめるリォリィ。

ようやく平穏が訪れると思われたが、


「おぎゃぁあああ! おぎゃあああああああ! おんぎゃああああああああ!」


「ぬぉぉッ?! っ熱ちゃちゃちゃちゃッ!!」

「んにゃぁんぐ!!」

「……む」

「ああ!! これは!!」


 その平穏は半端ではない声量の産声でかき消された。

ハルマローシュ伯は驚いて未だ熱い茶を膝にぶちまけ聴牌テンパり、

驚いたエアメルドゥクは菓子を喉に引っ掛けそうになり、

落ち着いていたかに見えて実は隠れ聴牌ダマテンだったリォリィは

膝に茶をぶちまけて覚束おぼつかない足元からツルリと

立直リーチ一発転倒イッパツズッコケ自摸ツモ一向聴イーシャンテン

いや目前のハルマローシュ伯と隣のテァミトのお産の最後の様子を

伺うか否を酷く迷う。


「エア様。湯冷ましを」

「んぐ! んぐ! ぷひゅー…」


 冷静なのは今は三歳児のトマだけとは、第三者が見たら何と思うだろうか。


「て、テァミト…ッ?! …あ!? アーッタタタタタタッオワタァッ!?

ぬ!? ぬッ?! グワーッ?!」

「あぁ! 閣下!? 大丈夫で…キャッ!?」


 矢も盾も堪らぬとテァミトの元へ行こうとするも足元には茶がこぼれており、

完全に転倒フラグをツモってしまったハルマローシュ伯は盛大に転ぶ。

 そしてダマテンをうっかりリーチしてしまい大いに取り乱したリォリィは

先に転んだハルマローシュ伯の安否を確かめようと動くのだが、

この状況下で全く動じていないトマの様子が目に入ったことに驚き、

普段なら絶対に間違わない足捌きを思っクソに乱して

自分の足で転ぶというドジっ娘にありがちな行為をやらかし、


転んだ拍子にハルマローシュ伯を下敷きにしてしまう。


「うわらばッ?!」


 その一撃が止めとなったか、ハルマローシュ伯は完全に気絶する。

まぁトマが見るに二人ともこの程度なら大丈夫だろう…と、判断していた。

 なのでトマはエアメルドゥクが気管に異物を詰まらせてはいないか

念入りに確認することを優先することとした。


「旦那様ッ! 皆様! 生まれましたよ! 元気な女の子です!

奥様も無問t――えっ?」


 テァミトのお産に居合わせた侍女の一人が吉報を知らせにきた時、

なかなかにカオスな状況になっていた。


 生まれてくる際に本人は悪くないが、周りの者達がカオスな状況を

生み出したことが切っ掛けで、まるでそれが古の南西

(帝国は南蛮・西夷族とお決まりの呼称)諸国に伝わる

天地開闢かいびゃく神話かと説教された時に

「ならばこの子はきっと最後は天の神々に愛される運命なのだ」と

前途多難を悉く退け多幸な人生であるようにとの願いを込めて

ハルマローシュ家に新たに加わった女児は、

南西諸国風にエンリルエリシュ=エヌマと名づけられたそうな。


「……(由来を知った娘がどう思うかは知らぬ。

わしは知らぬ、存ぜぬわ)」


3:に続く

マージャンネタとか色々すみません…むこうぶちとか浪漫でしょう?(意味不明)(´・ω・`)

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