第1話 中編 【召喚ーちょうせい】
ちょくちょく見てくださってありがとうございます。長い。長いけどこの辺りしっかりやらないと進まない。しばらく解説やら会話やら続きます。
「...功だ!」
「..良く....た!...いや...だ?!」
「これは.........!」
(なんだ...?騒がしいな...)
正真の耳に、慌ただしい声が入ってくる。ゆっくりと目を開き、体を起こすと、目の前に、見たことの無い格好をした人々がいた。
(...ここが...管理人さんが言っていた、異世界なのか...?)
この世界に来る前、正真は、管理人さんなるモノから、自分が異世界へ召喚されている最中だと、既に聞いていた。その世界に対する肉体の適応化も、管理人さんがしてくれたのだ。
(しっかし...凄いな...これ魔法陣か何かだよな?)
美しい大理石のような床には、この世界の文字か何かが、大きな円を描き、その中に一筆書六芒星が描かれている。その六芒星の各角と中心部に、肩で息をしたり、座り込んで頭を押さえたりしている、7人の黒いローブを着た人達が居る。
「う...ん...?」
「...ぐ...な、何が...」
「...っ!角井さん!...と、兄貴...」
真後ろから、二人の男女の声が聞こえた。正真が振り向いた先に居たのは、共に屋上から落下した、杏と大器だった。管理人さんの話では、二人は正真より先に召喚元に転送した、ということだったが、転送事態にタイムラグは無かったらしい。そして、その他にもー
「...ボクは...どう、なったんだ...?」
「な、何ッスか...自分は...」
「オレ...確か、人を庇って...バイクに...」
「熱っ!熱ぅいっ!あつ、あれ?熱くない?」
「...わたし、まだ生きてるのね...」
自身の状況に、困惑している5人の少年少女達。こちらは皆、各々の学生服を着ている。どうやら、正真達を含めた8人が、この世界に召喚されたらしい。
「う...私、確か正真君を助けようと...」
「角井さん!」
「え?せ、正真君?」
「...正真?」
「あー...と、兄貴。無事?体はなんともない?」
杏や大器は、正真とは違い管理人さんと話をしていない。当然、何が起こったのかもわかっていない。
勿論、二人の体に異常が無いのは、管理人さんから聞いている。だが、管理人さんの事は、喋らない方が混乱を避けられると思った正真は、敢えて何も知らないように、杏達に尋ねた。
(まぁ、俺がいきなりこの異世界の事を話したら、変な目で見られるだろうしなぁ...)
「...うん。大丈夫だよ。なんともないみたい。」
「...僕もだ。それで?ここはどこなんだ?正真」
「いや...俺もさっき起きたばっかで...というか、一緒に落ちた俺が知ってるわけないだろ!」
「...それもそうだな。...期待した僕が馬鹿だったか。」
「ぐ...!」
(このクソ兄貴...!よくもまぁいけしゃあしゃあと)
「何故だ...?予言書にはこのような...一体...」
(ん?なんだ?)
頭に豪華な王冠を被り、真っ赤なマントを羽織り、立派な髭を生やした初老の男性が、何事か呟きながら、よろよろと魔法陣に歩み寄ってきた。
(...格好からして、王様かな?なんか顔が真っ青だけど...予言書がどうとか...)
「うぅむ...そんな筈は...だが召喚した人数が...うぅむ。」
召喚された者と魔法陣を交互に見ながら、初老の男性は苦い顔をしている。すると、その後から1人の鎧を着込んだ騎士風の男が、その初老の男性の斜め後ろにひざまづく。
「王...まずはこの者達を。」
「...ん?...おぉ!そうだな。まずは言語の簡易転写をせねばならんな。」
(言語の簡易転写...て、あぁそっか。俺には、管理人さんから貰ったコレがあるから、普通に聴こえるけど、他の人は違うのか。...ていうか、所持してるだけで機能するんだなコレ。)
"全ての言語を翻訳し、会話を成立させるイヤーカフ"。管理人さんから貰った物は、この世界に来て間もないが、既に正真の役に立っていたのだ。
「では始めてくれ。このままでは話しも出来ん。」
「はっ。転写師をこちらへ!」
(あ、流石に機械とかじゃないんだな。)
管理人さんの話では、この世界には、大気中に"オド"と呼ばれる魔力が存在し、魔物や魔法も存在するという。恐らく今聞いた転写師というのも、その魔力で簡易転写を行うのだろう。しばらくすると、銀髪にベレー帽、片眼鏡をかけ、灰色のローブを羽織った美しい女性が、騎士風の男数人に連れられやってきた。正真や、他の召喚者達の視線は、その女性のある一点に釘付けとなる。
「な...」
「あ、あれって...」
「耳が...耳が尖って...」
「ま、まさか"エルフ"ッスか!?本物!?」
「...ファンタジーね。」
(あれ...どう見ても、"エルフ"だよな...?)
そう。美しい容姿も異彩を放っているが、それよりもさらに、尖った耳が、正真達の目を奪っていた。"エルフ"、漫画や映画でしか見たことのない存在が、目の前にいる。それは、自分達が居た今までの世界とは、全く別の世界にいるのだということだ。正真はともかく、他の者達は、その事実を初めて思い知った。連れられてきた女性は、騎士風の男達と共に、初老の男性の前でひざまづく。
「王よ、転写師の方をお連れいたしました。」
「...転写師、"サウバ・リフトリーズ"、ここに。」
「うむ。ではサウバよ、早速だがこの者達に、言語の簡易転写を頼むぞ。」
「はっ。かしこまりました。」
そう言うと、女性ーサウバは立ち上がり、ローブから複数枚の紙を取り出した。大きさはハガキ程で、紙には何か文字が書かれている。
(…言語の転写なんて、どうやるんだ?管理人さんの言ってた、魔力ってやつかな?…っと、来たか。距離が近いから、俺からなのかな?)
準備が終わったのか、サウバは、手袋をはめながら正真に歩み寄って来る。
「せ、正真君!」
「き、君!迂闊に動かない方が良い!何をされるか...!」
「で、でも正真君が…!」
「くっ...!」
普通、得体の知れない存在が、いきなり近寄ってくるというのは、恐怖を覚えるものだ。杏達も、正真が何かされると思ったのか、狼狽えている。だが正真だけは、自分が何をされるのか理解している。余計な心配をかけぬように、正真は杏や他の者達に、余裕の態度を見せた。
「あー、その多分、大丈夫だと思います。この人?は、悪気はないみたいだし。」
「いや、そうは言ってもだね...」
「いやまぁ、なんとかなりますって。角井さんも、心配しないでいいから。」
「そんな…正真君...」
「君...」
「...度胸あるな。それともただ能天気なのか?」
「はは...」
(まぁ、実を言うと、ちょっと恐いんだけど。それよりも、興味の方が強いんだよね。うーん、本当どうやるんだ?)
手袋を両手にはめたサウバが、右手に紙を持ち、左手を正真の額に近づける。が、中々触れようとしない。その顔は、緊張しているのか、若干強ばっている。
(おいおい...まさか失敗とか、しない...よな?)
正真も、サウバの様子を見て少し不安を覚えた。
「......っ」
(あー...これは...焦れったいな。なら...)
「あ、えっ!?」
この微妙な空気に、堪えられなくなった正真は、サウバの左腕を掴み、自らの額に触れさせた。サウバはその行動に驚いたのか、小さく声を上げた。
(...これなら、嫌でも"転写"せざるを得ないだろ。)
「......っ。」
正真は、真っ直ぐサウバを見て、無言で頷いた。それを見て意を決したのか、サウバも正真を見て、頷く。
「...これより、転写を開始します。」
サウバが目を閉じ、開始の宣言をする。そして、徐々に手袋が淡い光を放ち始める。よくみると、手袋の甲の部分に、床にあるものとはまた違う魔法陣が描かれており、光はそこから放たれていた。
「その他の媒体より本体へ、亜人言語を抽出。...抽出完了。これより注入に移行。」
一瞬右手に持った紙が白く光り、その光が右手から女性の頭部に移り、そしてそのまま左手へと流れて行く。
「注入、開始。」
「ぅおっ?」
女性が、注入開始の合図を宣言した瞬間、正真の額から、頭の中に何かが入り込んで来る感覚がした。
(...これはあれだな。熱覚ましのアレを、額...というより、額の内側に張ったような感じ、かな。)
時間にして、2分程経過した頃だろうか。次第にその感覚が弱くなり、完全に無くなった。
「...注入完了。言語の転写、終了しました。失礼、お体に何か違和感はありませんか?私の言葉が解りますか?」
「...えーと...お、お疲れ様でした?」
「...はい。ありがとうございます。」
おぉっ!と、周りから声が上がる。サウバと正真の会話が成立したということは、言語の転写が成功したということ。それによる安堵の声がザワザワと起こる。
「...ハァ...良かった...成功したわ。」
サウバは、誰にも聞こえないような小さな声で安堵の声を吐露する。
「な、なぁアンタ...大丈夫か?...というか、何?何語?話してんの?話せるの?」
「...正真、どういうことだ?何をされた?」
他の者達は、正真の身に何があったのか気になるようで、質問攻めにあう正真。
「...どうも、今のであの人達と話が出来るようになったらしい。なんか頭に、直接情報が入ってきたみたい、です。」
「え、マジ?あんな少しの間でか?」
「...ますますファンタジーね。」
「なんともない?大丈夫?正真君。」
「あ、うん。なんか、熱覚ましのアレを、少し張ってたような感じだったよ。...ん?」
正真が他の者と話をしていると、少し離れて、その様子を見ていた初老の男性がサウバに近づき、声をかけていた。
「良くやってくれた、サウバよ。」
「は、はっ。勿体なき御言葉、感謝致します。」
「うむ。」
サウバがまたひざまづき、応答する。下を向いた顔には、笑みが見える。そして初老の男性が、正真のもとへとやってきた。
「...さて、異世界の召喚者殿。これで会話は可能だな?」
「...はい。大丈夫です。」
「うむ。では、我から先に名を名乗ろう。我は、この亜人の国"セーフェリア"の国王、"アーカイン・ドゥ・ポーセン・セーフェリア三世"である。」
正真達の他の召喚者や、亜人のことについては後々説明が入ります。リアルが忙しく、投稿は遅くなります。申し訳ないです。