プロローグ
はじめまして、何故か頭に浮かび、唐突に書きたくなったので投稿させていただきました。
文才も表現力も無いので、暇潰し程度に読んでいただければ幸いです。
「なんでだ…俺が何をしたっていうんだ…」
高校1年になってからはや3ヶ月、粕田 正真は己の人生に絶望していた。
中学に上がってからだろうか。優秀で優しい双子の兄、大器といつも比べられ、両親からは疎まれ、同級生からは常に馬鹿にされるようになったのは。
それが嫌で、地元から遠い高校ならばと思い、死に物狂いで勉学に励んだが、まるで狙ったかのように兄も同じ高校に入学。さらに、進学早々同じ中学の同級生から、あらぬ濡れ衣を着せられる。
(なんで皆あんなでっちあげを信じるんだ…)
元凶はいつも優しかった兄であった。誰も信じられなくなり、頭に自殺の文字がちらつくように。
(クソ兄貴…俺の何が気にくわないんだよ…)
唯一、話し掛けてくるのは、幼馴染みで誰とでも明るく接し、困っている人を放っておけないという性格の、角井 杏だけであった。
その日、放課後の屋上で暴行を受けていた正真を、杏が大器を連れ、現場に駆けつけた。
(角井さん...それにクソ兄貴…?…それにあの顔…)
大器は何故か不機嫌だった。同行してきただけであのような顔になるのかと言うほどに。
「角井さん…これは彼らの問題で、僕たちが口出し出来る事じゃないと思うよ?」
「嫌です。どんな理由であれ、抵抗しない1人を複数人で殴る蹴るなんて、やっていいことじゃありません。それを見過ごすなんて、以ての他です!」
「ハァ…相変わらずだね。そこが良いところでもあるんだけど。本当、不出来な弟ですまないね。」
ニヤァ、と下卑た笑みをこちらに向けてくる。
まるで獲物を前にした捕食者のような目に、正真は憤りを覚えた。
(ふざけるなよ、その不出来な弟に仕立て上げたのはお前だろクソ兄貴!)
憎々しげに睨み付けるが、その態度が気にくわなかったのか、周りの生徒から腹に蹴りを入れられる。
ドカッ!
「ウッブッ!…ガッ…ッヅ…」
「おいおい正真クゥン?何余裕ぶってんの?あ?」
「しっかし、なーんでこんなのが大器さんの弟なんだ?マジで信じられねぇわ」
「女の子に派手にぶつかって謝りもしないとか、マジなんなの?痴漢と盗撮じゃ満足出来ねぇってか?」
「こわーい、今変な目で見られたー」
入学初日の濡れ衣、それは大器を慕う女子達が、恐らくは彼の依頼で、正真に痴漢と盗撮疑惑を掛けた事である。この事件で、正真は家族や学校に泥を塗った不名誉な人間として蔑まれ、一方で大器は弟を庇う心優しい兄として、周りからの評価をさらに上げた。
事件は解決したが、いまだにこうして、男女問わず難癖をつけてくる輩は多い。今回は、女子がすれ違いざまに正真に軽くぶつかり大袈裟に倒れ、さも正真に非がある様にしたのだった。
「あれは…そこの女が勝手に…!」
「うるせぇ!この変態野郎が!」
「もうやめてあげて!」
流石に見かねたのか、杏が割り込んできた。
あの事件の後も、演技で庇う大器以外に、杏だけは正真を気にかけてくれていた。
「か、角井さん…」
「角井…」
「もういいでしょう!?たった1人に寄って集って、恥ずかしくないの?…粕田君、大丈夫?立てる?」
「ゲホッゲホッ…ごめん…角井、さん」
杏が正真に肩を貸し、立ち上がらせようとするが、
痛みのせいか思うように動けずにいる。
「チッわかったよ…良かったなぁ正真クン、女の子に助けて貰えて…よ!」
ドスッ!
「ぐぅ…う!」
「な…いいかげんに…!」
「…か、角井さん、いいんだ...大丈夫だから...」
杏は去り際に、正真の腹を殴った生徒を引き留めようとするが、それを正真が止める。彼女まで被害を被る必要はないと思ったからだ。
「粕田君…」
「…そろそろいいかな?正真、彼らには僕から謝っておくよ。もうこんな時間だ、帰ろう。」
「...あぁ、わかった」
「...そうですね」
「あぁ、角井さん、ちょっといいかな?」
「はい?なんですか?」
一瞬ギロリ、と正真を睨んで杏を呼び止める。
(お邪魔虫は帰れって目だな…クソッ)
「…俺は先に帰るよ」
「え、あ、粕田君!」
「大丈夫だよ。正真はああ見えて結構タフなんだ、あれくらいどうってことないよ。それよりもあの話だけど…」
「!…あ、あの…その」
杏の顔が曇る。どうやら、色々立て込んだ話のようだ。正真は荷物をまとめ帰ろうとするが、痛みで体がふらついてしまう。
(いっつつ…そういえば、そこら中蹴られたんだっけか…足とか、ひび入ってなきゃいいけど...)
「…まだ帰らないのかい?正真」
「す、少し休んでいったら?せい…粕田君。」
「…大丈夫、ちょっと歩きづらいだけ…」
足に力が入らず、思わずフェンスに寄りかかった。
その瞬間ー
バキバキベキィ!!
(なんだ…?今のは何の...音...って)
「...は?」
老朽化しているのか、フェンスが根元から折れ、寄りかかる体勢のまま正真は落ちそうになる。
「正真君!!」
「ちょ…角井さん!?正真の奴...!面倒な事をしてくれる!」
間一髪、なんとか身を乗り出し正真の手を取った杏と、まだ折れていないフェンスを掴み、杏の体を支える大器。
「ぐ…角井…さん!」
「正真君!絶対離しちゃ駄目よ!大器さん!なんとか引っ張りあげ」
「ぐ…だ、駄目だ…このままじゃ…僕らも危ない!」
「そんな…!」
(…嘘、だな。クソ兄貴の体力なら、少し前に乗り出せば、上半身だけでも引き上げられるだろうに。…ハハ…顔が笑ってるぞ、クソ兄貴。成る程な、目障りな俺には丁度ここで事故死してほしい、と。)
血の繋がった兄弟に見殺しにされようとしている。
その事実に、正真は、体が、心が急速に冷えていくような感覚を覚えた。
(…もうどうでもいいや。何もかも。)
こんな世界で生きていても、自分の居場所なんて何処にも無い。
(…あぁ、でもせめてーーー)
せめて彼女だけでも、助かってほしい。
(こんな良い人を道連れとか、それこそ死んでも死にきれないよな)
自分の意思で、掴んでいる手の力を抜いていく。
「正真君!?何を…!もっとちゃんと掴んで!」
「…角井さんは、俺と違う。こんなところで死んじゃいけないよ。」
ズル…
落ちる。体が、心が堕ちていくように。
(本当、なんでこんな世界で生きてきたんだろう…もういいや。この高さだ、どうせこれでーーー)
「正真君駄目ぇ!!」
「角井さん!!クソッ!!」
(な…嘘だろ!?)
杏が、正真を落とすまいと、支えている大器と共にさらに前に乗り出す。がーーー
バキバキィ!
「え…きゃああああ!」
「しま…!うわああああ!」
3人分の重さに、長くは耐えられなかったのか、とうとう大器が掴んでいたフェンスまでも折れてしまう。
(なんで…このままじゃ…!)
このままでは、彼女まで死んでしまう。そう思ったその時ー
(う…!?な、なんだ?)
3人は、突如目も開けられない程の眩い光に包まれる。
(何が起こってーー)
そして、一瞬の強烈な浮遊感を最後に、3人は意識を失った。
取り敢えず、今回はプロローグという事で、異世界に召喚されるまでの経緯と、主人公である正真の周りの環境を、皆様に知っていただけるようにしました。人間1人寄りかかっただけで壊れるフェンスは、色々ありますので突っ込まないで頂けると有り難いです…投稿は不定期(気が向いたら)ですので、あまり期待はしないで下さい。orz