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Herr Deutsch  作者: 樫宮穂月
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第二話 学科オリエンテーション

 入学式の翌日には、各学部や学科に分かれて新入生向けのオリエンテーションが開催された。学生番号で振り分けられた席をホワイトボードを見ながら探し、椅子を下して着席する。私は配布資料に欠損がないかを確かめた後、後ろの方の席から教室全体を見回した。我が学科の人数はざっと百人と言ったところか。

 開始時刻になると教員らしき人達がずらずらと教室に入ってきた。その中の一人がマイクを受け取り壇上に立つ。

「えー、この度はご入学おめでとうございます。人文学部人間文化学科にようこそ」

 それが、私の選択した学科である。人文系の学問を幅広く学ぶことができるというのが魅力で、入学前から哲学を中心に政治、倫理、思想など様々な学問に触れたかった私にはぴったりのところだ。

 挨拶が終わると配布資料の説明に移り、大学での四年間、学内の施設の案内と使い方、履修登録の仕方などなどについてのレクチャーを受けた。県外からきている学生が多いからだろう、ごみの出し方についてまで注意された。

「最後に第二外国語を選んでもらいます。今から紙を配るので、書いた人から前に持って来て下さい。今日はこれでおしまいなのでそのまま退出していただいて結構です。質問のある人は前にいる教員に聞きに来るように。以上」 

 予定の時間にはまだ三十分ほどあったが、入学式に引き続きオリエンテーションもあっさりと終った。あとは自分でどうにかしろ、ということだろう。おんぶにだっこの高校までとの違いをひしひしと感じる。

 回された紙を見ると、ドイツ語、フランス語、中国語の四つの選択肢があった。え、四つ――?私はシャーペンを回しながら眉を顰めた。三箇国語しかないはずなのに、どうして――と思いつつ確認すると、ドイツ語の欄が二つあった。


・ドイツ語

・ドイツ語(ネイティブ)


 これはつまり、ドイツ人の先生に教えて貰えるということだろうか。ドイツはグリム童話や『果てしない物語』などで親しんでいたし、その迫力のある音も割と好きだった。中国語にも興味はあるが、哲学をやるならドイツ語かフランス語が理解できるようになっておいた方がいいだろう。しかし、フランス語の京都弁のように気取ったところが苦手だったので、選択肢からは消えた。

 問題は、どちらのドイツ語にするかだ。

 生の発音を聞いて勉強するほうが身に付く気がする。それに、体格が良い人が多いという噂のドイツ人に会ってみたかった。

 ただ不安なのは、この先生が日本語が使えるのかということだ。大学に入りたてでドイツ語が自由に使える人なんて私を含めそういないだろうから、ドイツ語で授業をされても困る。まさか英語で教えるなんてことはないだろうが、どうにも心配だったので念のために聞いておくことにした。

「あの、第二外国語について質問があるのですが、このネイティブの先生の授業って全部ドイツ語でしたりはしないですよね?」

 私は人の波を避け、ドアから離れたところで書類を読んでいる先生に尋ねた。

「ああ、ドイツ語の授業のこと?授業を聴いたことはないけど、一年生向けに開講されているんだし大丈夫だと思うよ。彼は日本語ペラペラだし、優しいからその気があるんだったら受けてみたらばどうかな」

 先生は私の気持ちを見抜いたように、にっこりと笑ってそう言った。そこまで言われては引き下がれない。私は先生にお礼を述べ、「ネイティブ」の横に丸をして教壇に提出した。


 未だ片付かぬ寮の自室に帰り、私は今日貰ってきた資料を備え付けの勉強机に広げた。シラバスをぱらぱらとめくり、気になった科目を片っ端から丸していく。履修登録は明日からとのことなので、今晩は寮の先輩に相談しつつじっくり考えよう。

 夜遅くに帰ってきた同じ学科の先輩は、朝五時まで付き合って下さった。無論、何時間もずっと履修登録について話していたのではない。大学の情報や教授達について雑談をしていたのだ。

 私はその日、昼過ぎまで寝てから履修登録に行くことになった。



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