第一話 入学式
薄紅色の桜が舞う中を、下したてのスーツを身に纏い歩いていく。花も恥じらう十八の春、私は憧れの大学に入学した。地元を離れての進学で親や友人は健康を崩さないか、ちゃんと食事は作れるのか、まさか餓死なんてしないだろうか――などとずいぶん心配したが、当の本人は気楽なもので、必要とあらば炊事洗濯体調管理などの基本はどうにかなるだろうと何の根拠もなく思っていた。
今日は待ちに待った入学式である。これで私もこの大学の一員になったのだと思うと感慨深いものがある。学長や在来生の簡潔な挨拶に新入生代表の若々しい宣誓、卒業式まで二度と歌うことのなさそうな学歌をたどたどしく歌い、あっけなく入学式は終わった。小中高と記憶にある限り最も短い式であった。
ビラ配りに演奏といった嵐のようなサークル勧誘の波を通り抜け、これからの生活に必要なものを揃えるため、私は学内の地図を見ながら生協に向かった。こちらへは昨日着いたばかりなので、部屋の片付けもまだ十分もすんでいない。しかしまずは、勉学のために必要なノート類を手に入れなくては。
生協には食堂やカフェテリアが引っ付いていて、お昼時ということもあるだろうが割と賑わっていた。春休みなのにもかかわらずこれほどの人だかりとは、授業が始まったらどうなるのか考えるのが恐ろしい。腹は空いたが外食は高くつく。なので私は辺りに漂うカレーの香りを必死に無視にして売店に入った。
本に雑誌、文房具、食べ物に飲み物、そして白衣やゴーグル、スケッチブックなども取り揃えてあった。各学部の学生が授業で使う物のほとんどがここで手に入るらしい。どこに何があるかを一通り確認して、私はノートとファイルを購入した。授業が始まるまでにはしばらくあるが、自分で勉強することはできよう。
いったん寮に帰って荷物を置き、今度は調理器具でも買いに行こう。だが、その前に軽く何か食べたい。もう十二時を回っているし、朝が早かったので腹ペコだ。確か母が送ってくれた荷物の中にお菓子が入っていたはずだ。
そうして私は、部屋のインテリアを考えつつ覚えたての学歌をくちずさみ、大学を後にした。