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僕は思う君は

彼の物語。

大切に思う誰かを失ったことはない、身近で人が突然なくなったことはない。たとえ失ったとしても覚えている、そうすれば悲しみも和らぐはず。

僕、鈴池獅音すずいけしおんが彼女と初めてあったとき僕の世界が変わった。そんなありふれたほどの一目惚れ。彼女、目盛梓めもりあずさは同じ高校の同級生。僕は彼女のことが好きだけど、彼女はどう思ってるんだろう。梓が思っていることはいつも読めない、突然これがしたいあれがしたいと突拍子もなく言い出す気分屋な性格だ。そんな彼女だからこそ僕は惹かれているのかもしれない、この子の気持ちが知りたいという好奇心が「好き」という気持ちなのかもしれない。僕は自我を出す性格ではなく、彼女に合わせている。それでも彼女と過ごすことが楽しいため、僕は満足している。

 「獅音?」

梓はいつも僕の名前を読んでから用件を言う。

「わたしはいつも気分次第でどこに行くか決めてるから、あなたも今一番言いたいこと、聞きたいことを言ってもいいんだよ?」

、、、彼女は超能力者なのだろうか。実はもう全ての思考を読まれていて、遊ばれてるのだろうか、僕は彼女のことを一つも読めないのに。少し彼女に嫉妬(?)しながら答える

「な、なんで?僕は君といれるだけで楽しいから君の気持ちに従うだけだよ僕の意思は二の次だよ」

「じゃあ、思ってることはあるんだね」

、、、彼女が超能力者なのではなく僕の心がむき出しだったみたいだ。

「いつかは聞けるかなホントの言葉」

「ホントの言葉?」

「獅音の本音。ホントの言葉」

僕は、本音を隠しているのか?僕のことなのに彼女は僕以上に僕のことを知っているようだ。むき出しな僕の心を彼女は理解しているが僕は理解していない。


 あれからずっとその言葉が残っている。「ホントの言葉」。彼女は僕のホントの言葉を聞いて喜ぶのだろうか、なんのことかはわからないがホントの言葉を彼女が求めているならそれを探すのも僕のやりたいことかのしれない。合わせて行きている今の僕は彼女の好みではないのかもしれない。

 その日の夜、梓から電話がかかってきた。

「獅音?」

「もしもし梓?聞こえているよ」

毎回行われるこの会話から梓が要件を付け加える。

「今日、わたし獅音を怒らせたかな?」

「全然そんなことないさ、むしろ少し考えさせられたよ。今も自分の意志?やりたいことを見つけていたんだ。」

本心だ

「そうだ、こんど僕が計画を立てるから、どこかに遊びに行こう。それで梓も気に入るか知りたいんだ」

「獅音は私が何が気に入るか知りたいんだね。」

やはり彼女の前で不用意な発言は許されない

「じゃあ私も知りたい。獅音がどうやって私を楽しませてくれるか」

今まで僕が計画したことは一度だけ、大失敗だった。

その日は雨で、中止になる予定のイルカショーが有名な水族館へいって室内水槽で楽しんだ。けどやはりメインがないと、と思ったので途中で映画館に行った。映画はつまらなかった。それよりもイルカショーが行われていたのだ。梓は「残念だね」と寄り添ってくれたけど、ほんとは楽しくなくて幻滅しているような気がした。それ以来遊びに行くときは梓に意見を求めるようにしてきた。

「楽しませたいかぁ」

こぼれ落ちた言葉はホントの言葉だったそのホントの言葉を聞いて梓は嬉しそうにしている。これはがっかりさせるわけには行かないと、僕も気合が入った。

それから2日間。上書きしてそのことしか頭になかった。そもそも遊びに行くならどこが定番で楽しめるのかわからない。定番でいいのか?あんなに意気揚々と計画すると意気込んで、まんまテンプレートだったら期待外れに思われるだろうか。梓の好きなもの、いままで希望していことを思い出して、その中でとても楽しそうにしていたものを考えた。よく行きたいと言っていたのは町外れの商店街。そこでブティックのように古服を見たり、レストランのように昼食を取ったり、ゲームセンターのように輪投げをしたり、やっていることは古臭いかもしれないけど大きくは違わない、でも僕はそこについて彼女より知らない、行き慣れているであろう梓をエスコートできる気がしない「一番言いたいこと、聞きたいこと言ってもいいんだよ」梓の言葉、僕のしたいこと、ホントの言葉。梓はどんなふうに思ってるのだろう、まるで宇宙のように未知ででも美しくてふわふわしている。

、、、宇宙か。行き先が決まった。不安はあるが僕の出した場所、宇宙のような梓をイメージして考えた場所「プラネタリウム」梓が星が好きかはわからないが、星を見る梓を僕は見たいと思った。それが「ホントの言葉」。


 当日、三回ほど忘れ物がないかを確認して遅刻しないよう30分前につくように家を出た、、が、待ち合わせ場所にはすでに梓がいた。

「早いな梓」

情けなさを醸し出しながらぼそっと言う

「別にやることもないし、早く起きちゃったし、獅音もこの時間に来ると思ってたから、、、負い目を感じてるなら気にしないでいいよ。私が勝手にしたことだから」

こっちの表情を見て慰めをもらった。かなりカッコ悪いが切り替えていくことにした。

「いや、ポジティブに考えることにした」

「何が?」

「ふたりとも早く来たおかげで、博物館を回る時間も増えた」

「、、、ふふ」

彼女は軽く笑ったあと歩き始めた。少し歩いたあといつものアレから話し始めた。

「獅音?」

「何?」

「獅音は星が見たかったの?」

ここで「星を見る君が見たかった」とは言えないができる限りホントの言葉をひねり出すと

「梓って宇宙みたいだよなって考えてたらプラネタリウムが浮かんできた」

「へぇー」

相槌のあと少し間があって

「私って宇宙みたい?」

「梓は宇宙みたいに未知で美しいって意味だよ」

自分で聞いてもキザで恥ずかしい

「へー」

心なしかさっきより少し暗い声で相槌が帰って来たような気がした。

しばらく沈黙が続いた。この沈黙の時間が耐えきれなくなって、僕は話題を出した。

「えっと、梓は博物館でなにか見たいものはあるの?」

「うーん」と少し唸ってからボソリと答えた

「獅音が見たいもの」

やはり梓の考えはわからない、でも今回は僕が企画して、僕が梓を楽しませないといけない。それが梓がのぞんでいることなら。

 プラネタリウムが始まる1時間ほど前に博物館についた。僕はまず化石館へ行こうと提案して梓も同意、向かうことにした。

「獅音?」

「何?」

「化石って何のためにこんなに大々的に展示されてるんだろう?」

少し考えて僕の思想を答えることにした

「、、、忘れないようにするためじゃないかな」

「忘れないよう?」

興味を持てくれた様子の梓に僕は続けた。

「ここにいる化石になった生物は今は存在していない。だけど今僕たちには認知されている。それはこの骨格と大昔に覇者だったという迫力があるから何じゃないかな?」

長々と語ってしまった。少しめんどくさいやつと思われたかと思ったけど、梓は今までに見たことないぐらい目を輝かせて

「獅音、化石って面白いね」

と純粋な「ホントの言葉」で言ってくれた。

人間も一緒だ。たとえ梓と離れ離れになっても、僕は彼女のこの輝きと思い出を忘れない、そうすればこの化石のように楽しかった思い出は残り続けるから。

 そうこうしてるうちに星を見る時間になった。今回のテーマは「夏と冬に見える星」小学生で習った夏、冬の三角形のように2つの季節で地上も空も全く違う。それに改めてよく気付かされる。公演は30分ほどで星が動いたり突然空が変化したりする演出には目を見張るものがあった。梓も同様なようで、空が変わったとき思わず「おー」と感嘆が漏れ出ていた。公演が終わり

「獅音?」

と呼びかけにあうと

「とても良かった、ほんとに想像してたよりすごく良かった」

こんなにうれしそうな梓を見るのは初めてかもしれない。プラネタリウム未知である宇宙と梓の両方を知ることができた。この嬉しそうな梓を見れるなら僕が自我を出すのも悪くないかもしれない。


 その日の夜まだあの様子が頭に残っていた。これからも梓を楽しませるためなら何だってやってやる。そう思わされるような一日だった。

、、、梓と初めてあった日のことを思い出した。梓は明らかに周りとは違った。それは浮いているとか孤高とか高嶺の花とかそういうことではなく、みんなといたり、クラスで話していても梓だけは輝いていた。たぶん僕の視点だけで、世界だけで。初めての梓との会話はとても不思議なものだった。

「鈴池獅音?」

「何?目盛梓さん?」

「あなたはよく周りを見れてると思う。」

「?」

チャイムが鳴って、去っていった輝く人はますます僕の興味をひいた。次の空き時間今度は自分から話した。

「目盛さん周りを見れてるって言うのは?」

「あっ困惑させてごめんなさい、鈴池さんはとても配慮できていていい人だと思ったの」

「どうして急に?」

「急じゃないよあなたはいつも周りに合わせてる」

「、、、それに気づく目盛さんもよく周りを見れてるね」

「私は、、、」

何かを言おうとして止めた彼女の表情は変わっておらず、僕は怒らせたかもしれないと、とっさに謝った。

「ごめん、知ってるかのように言って」

「いいえ、違うわ、なんでもない」

どこかしどろもどろになってしまった彼女は少し落ち着いて、

「また今度お話しましょう。あなたと話すとなにか見つけられる気がする」

輝く彼女は何かを見つけたいようで僕はその手助けができるようだ。願ってもない。

「もちろん」

次の日、昨日話した内容の整理をすることにした

「目盛さん、周りが見えてるってどういうことなんだろうね」

「昨日、あなたを見て率直に思ったこと、とにかくマイナスな意味はないわ」

「そんなことは思ってないけど、周りを見れてることはそんなに大事なことなのかなって」

「一つの長所として言えるほどは、、、」

そこで止まってうなるほど目盛さんは本気で考えていた。僕の些細な疑問に、だから僕も考えることにした。この一つの長所を。そして僕らの出した結論は「人間観察が好きな変人」ということ。まず梓が

「鈴池さん?」

「はい」

「昨日も言ったけど、やっぱり気配りできる人のことだと思う」

と答えた。そこに僕は賛同しなかった。

「でも僕はあまり人に優しくないよ」

謙遜ではない。僕は困ってる人を見過ごせないなんて大層な考えは持っていない。優しくないそれは自己判断たけど本心だ。そして僕の考えを述べた

「探究心があるんじゃないかな?」

「探究心?」

興味を示してくれた

「この人を知りたい、仲良くなりたい、と思うならよく見て観察することが大事だと思うんだだから周りをよく見ている人はみんなと仲良くなりたい人なのかなって思うんだ」

自分や梓が含まれていることも忘れて熱心に語ってしまう

「、、、あっ。もちろん目盛さんの意味も含まれてると思うし、、、」

弁解しようとしたところ梓が止めて

「やっぱりあなたと話すとおもしろい、わたしにはない視点を持っている」

「えっと、僕も目盛さんと話すのはとても楽しかったし、あの良ければまた話したいなと」

自分でもびっくりするくらいガチガチで恥ずかしい

「獅音?」

「は、はい」

いきなり名前で呼ばれてびっくりして、先生に呼ばれたときのように返事をしてしまう。

「あなたも私も、ヒトに探究心のある変なヒトね」

変な人、悪い意味で使われることが多いこの言葉は二人を結ぶ褒め言葉だ。それに付け加えるように結論をつけた。

「人間観察が趣味の変人だね」

「それ、とってもしっくりくる」

ふたりで初めて笑った。そこから仲良くなってたくさん遊んでたくさん話した。僕は梓が好きだ、それは恋愛対象でもあり友達としてでもある。この好きは曖昧であり心地いい。一緒にいれる幸せを噛み締めながらもどかしい気持ちになる。それは自分が梓に何を求めているかがわからないから。

梓はどうなのかわからないだから踏み出せない、壊れたくないから、壊したくないから。でもいつかは来る、はっきりしないといけないときが、自分の気を打ち明けないといけないときが、そのときもし壊れても彼女との思い出は消えない。

大切に思う誰かを失ったことはない、身近で人が突然なくなったことはない。たとえ失ったとしても覚えている、そうすれば悲しみも和らぐはず。

でも、失うよりも辛いことが起こったときのことを僕は考えていなかった。

それは、「僕が失われること」。


 ある日の夕方、梓から電話がかかってきた。でもそれはいつもとは違った

「獅音?」で始まると思っていたその電話は多くのガヤと焦った様子の女性の声。

「鈴池獅音さんですか」

「、、、はいそうですが」

嫌な予感がする前に結果が告げられる

「目盛梓さんがトラックとの衝突事故に遭い意識不明の重体です」

頭が真っ白になった何も聞こえなかった、でも情報だけ頭に入る。

梓は赤信号を無視した宅配会社のトラックにひき逃げされ、意識不明の重体で、病院に運ばれる、携帯電話の一番上の番号に電話をかけ、それが僕。梓の両親への連絡と両親が来るまでの付き添いを頼まれ、承諾。

電話を切り急いで病院に向かう。梓が消えて無くなる前に。今まで自分はたとえ梓と離れ離れになっても、と思っていた。でもその別れがこのようなものになろうとしているとは考えもしなかった。おめでたい頭でヒトが強く、長生きする生き物と考えていた。毎日人が死んでも自分の身近で大切なヒトが突然なくなるなんて考えていなかった。それが僕の弱みであり、幸せだった。ただ今梓を失うかもしれないという気持ちを受け入れられない自分は息も忘れて走っている。一秒でも遅れれば梓はもう死んでいるかもしれない。日常は壊れた。大切なヒトを失う気持ちに初めて触れた。

病院につくと看護師が迎え入れてくれ、案内してくれた。梓の両親はもう先についていて、医師と話していた。梓は衝突によるショックと頭部から着地したことによる頭部出血により命が危険にさらされている状態で、早急に手術を行う事になった。

高校生のひき逃げということでメディアも食いついて、梓の両親に話を聞いている。自分たちの娘が危険にさらされているのにそれを放送のためとはいえ追い込もうとするのは、いくつか不快に思うことはあるが、今はそれより梓がどうなるかまだわからない状態で何もできない、事故のとき何もできなかった自分に反吐が出る。そんな僕に梓の両親は感謝してくれた。

「獅音くんありがとうこんなに早く駆けつけてくれて」

「いえ、事故のときそばにいてあげれず申し訳ないです」

母親は僕の手を握って

「梓がどうなったとしても、あなたが責任を追う必要はない。獅音くんは優しい人だから気にするとは思うけど、どんな結果でも前に進むの」

梓と同じように母親も僕へクリティカルな言葉を送る。自分が一番つらいだろうに、メディアや僕へ気を回す。その言葉でこのざわめきが止むことはなかった、ただ受け入れる気持ちはできた。前の僕の価値観を取り戻すことができた。たとえ大切なヒト、、、梓を失ったとしても、僕が梓を忘れないでいたら悲しさは和らぐ。

、、、和らぎはしない。でも前に進む悲しみと思い出と記憶を背負い。

 手術室前で4時間ほど、時刻は10時を過ぎる。扉が開き医師が梓の両親を呼んだ。彼らが話している間に、僕は院内の販売店でおにぎりをかって食した。手術中はとてもじゃないが何も喉を通らなかった。食事を進められたが、断って気を遣わせないよう少し離れた場所を歩いていた。梓、、、無事だろうか、いまどのような会話が行われているのか、死期か、成功か、慰めか

もし彼女に余命ができたとしたら僕はどうするだろう。彼女のやりたいことをやらせるのか?いやそれでは今までと変わらない。、、、「ホントの言葉」を

理解した。今までは壊れるのが嫌だったから伝えられなかった。でも言い渋っていてもいつかは壊れるんだ、なら怖がらずありのままな心の「ホントの言葉」を話そう。彼女は目を覚ます。そう信じているからこその決意だった

 医師の話を梓の両親から聞いた。

「手術によって頭に入った傷と傷ついた脳は施術したみたいだけど、脳への負荷とショックの影響でまだ危険な状態みたいで、梓もまだ、、、」

母親が口を止めると父親が話す

「まぁ一旦手術が成功してよかった。まだどうなるかわからないが、獅音くんも見守っていてくれ」

まだ残っている無力感を払拭するために口走る

「僕、梓さんの見舞いにまた来てもいいですか」

母親はニコッと笑って頷いた

「梓さんが目覚めるまで僕のできることをします」


 5日経った、梓はまだ目覚めない。僕は花瓶の水を変えたり、陽の光や室温の調節をしたり、たまに看護師さんの手伝いをしたり、とにかく梓が不快にならない範囲で自分のできることをした。やることがないときは梓がいつ目覚めてもいいように、隣りにいた。心電図はまだ動いている。、、、いつか止まってしまうかも、いや今止まってもおかしくない。後悔したくない。自分の知らないうちに梓を失いたくない。自分の中にあった無力さは消え、前には進んでいた。その道は梓の死への道かもしれないでも進むしかない。それが僕のやりたいこと、「ホントの言葉」だから。

 看護師から現在の梓の状況とひき逃げの犯人について聞いた。

「目盛さんに今外傷はないの、でも身体、特に脳への負荷が計り知れないものになってて最悪の場合体全体が機能を失って死に至るかもしれない。確率は低いけどね。」

「そうですか、梓が治るとしたらその原因というかターニングポイントは何になるのでしょうか」

何もなくても構わなかったが、あるかどうかだけは聞きたかった。

「感情論になってしまうのだけど気持ちの問題が一番大きいかな、目盛さんがどれほど「生きたい」という気持ちがあるか、そこくらいかな」

生きたいという気持ち。梓はどんな世界を生きていた?生きたいと思える世界か?おそらく慰めも含めた看護師の話だったが、僕は梓が目覚めなかったら「自分が梓の世界を生きづらくしてしまったからなのではないか」という悲観的な考えになるだろう。そしてひき逃げの犯人については報道番組で語られている。トラック配達員の20代男性、優しそうな顔つきをしており、彼をよく知る人物へのインタビューでもお決まりの「そんな事するヒトには見えなかった」らしい。この男に復讐や憎悪の気持ちはない、そんな権利が僕にはないからだ。ただ気になるのは彼の供述「事故前後の記憶がない」。パニックになって記憶が飛んだか、あるいは、、、。そんなことに頭を使う余裕はない。梓が目覚めると信じたなら、その準備をしなければならない。特に心の準備の方を。


 朝だった。僕が病室に入ると、彼女は目を覚ましていた。覚めるかわからないときの不安な気持ちを嘲笑うように、あっさりと、静かに。窓の外を眺める彼女へ近づいて、思いを打ち明ける。沈黙が暫くの間流れる、じっと僕を見つめる彼女の目に涙が浮かぶ、そしてあふれる。彼女は謝った。

「、、、ごめんなさい。、、、ごめんなさい」

否定の合図か、感激の最高か、動揺の現れか。

どれも違った。泣きながら呟いた彼女の言葉で僕はすべてを理解した。

「、、、あ、、あなたは、、、誰、、ですか?」

あぁ、ただ否定されるだけならどれだけ楽だっただろうか。

「アズサ?記憶が?」

「ほんとにごめんなさい。あなたがとてもいい人っていうのも、私じゃない私を思ってくれているのもすごくわかります。だからこそ申し訳ないんです。私が、、、ワ、わタし?」

アズサは目が覚め記憶をなくし体も衰弱していて、意識を保っているのもやっとのようだ。今は僕の気持ちなんかどうでもいい。

「アズサ!大丈夫だから休んでくれ、急に驚かせてしまってごめん。気にしないでいいから、ゆっくり休んで」

アズサは頷いて目を閉じた。僕は医師と看護師を呼んで、告白の事以外を説明した。

「、、、そうか。それはとても少数かつ死の次、いや人によっては死よりつらい症状だね。とにかく体を休めて、どの範囲を覚えているか検査しよう。それ次第ではまだ記憶が戻る可能性もあるだあろうからね」

安心させてくれるのと同時に合理的な判断をこの医師はしてくれる。

「アズサさんの両親には私達から伝えるよ、かなりショッキングなことだからね。君も気をしっかり持って希望を捨てないで」

看護師も僕と向き合ってくれた。やはり色んな人と関わりあってきた病院の職員は人の扱い方が上手だ、経験で人間は扱える。そう感じた。

その日はもう帰った。アズサの様体は安定している。梓はもういない。

梓から僕が消えた。この虚無感と悲壮感がより一層重くなる。でもアズサは生きている。別れを惜しむよりアズサとまた新しい思い出を作っていけば、いいのではないか?それが梓の望むことなら、、、。切り替えられない前に進めない。梓とは二度と会えないかもしれない。涙が流れた。


 診断の結果、案の定「記憶障害」が発生しており、事故以前のことは全く覚えていない。名前も昨日、僕が何度も呼んだからだいたい理解したらしい。つまりアズサは知識や機能はあるが生まれたての赤子のように何も知らない子ということだ。そんなとき梓の両親からあることを頼まれた。

「獅音くん、アズサのために梓の行きたがってた場所へ連れて行って上げてくれないかな」

梓が行きたがってたところ?パッと思いつくのはあの商店街。

「梓さんはよく駅前の商店街に行きたいと言ってました。なにか理由があるのでしょうか?」

正直僕はあそこについて殆ど知らない。だからこそアズサと一から始めるのに適していると考えた。

「あぁ、あの商店街か。あそこは昔、一番最初に梓と出かけたところだね。まだ覚えてたかはわからなかったけどそこならアズサも気にいるはず」

つらく、、、ないのか?娘にもうあえないのに。なんでそんなに楽観的に新しい思い出を作れるんだ。梓のことはもういいのか?

「ごめんね、獅音くん。梓もアズサもあなたといるときが一番楽しそうだったの。親として不甲斐ないけど、もしかしたら梓の記憶が戻る可能性があるとすれば、獅音くん。あなたが鍵になると思うの」

、、、梓のことをどうでもよく思ってるわけがない。そうわかっていた。二人は前を向いているんだ、進んでいるんだ。僕とは違う。

「わかりました。商店街に連れてくだけじゃなく、他の思い出とか、色々話したいと思います」

まずアズサの病室に入ってしっかり話したいと思った。人違い?とはいえ告白した相手なのだから、アズサとの時間は僕も作りたいと彼らの話を聞いて思うようになってきた。

病室に入ると大きく元気な声で

「あ、昨日のイケメン君だ!」

とても梓からは聞けないようなノリにパニックを起こして、僕の記憶も飛びそうだ。

「ア、アズサ?」

「はい!メモリーのない目盛アズサです!なんちゃって」

明るくて、思ったことがすぐ口に出て、可愛らしい動きや言葉づかいをするアズサ、、、わかってたけどやっぱり梓とは別人だな。

「アズサさんこんにちは、ぼくは鈴池獅音。梓さんの友達だったヒトです。」

「獅音くんかー。いい名前ですね、毎回呼びたくなるぐらいです」

アズサの純粋なホントの言葉一つ一つが僕の胸に刺さる。アズサはとてもいい女性なのだと感じると同時に自分の好きになった梓が違う人物になっているという喪失感も高まる。

「アズサさん、記憶を辿るのは難しくて酷なことかもしれないけど、アズサさんが今覚えていることを教えてくれないかな」

とても自分勝手な質問。アズサは記憶をなくして苦しんでいるが、僕の前だからこんなに明るくしてくれているのかもしれない。でもやはり聞きたかった。本当に梓はいないのか。

「記憶は本当に全くないです。でも昨日獅音くんからあの言葉を聞いた時、本当に嬉しかった。なんでかも意味もわからなかったけどとても嬉しくてそれと同時に悲しかった。それは私に向けられた言葉じゃないから」

目を逸らしたアズサは明るさの間に儚さを感じさせた。

「でも記憶がないのを今は悔やんでないよ。誰かが言ってた気がするの、今存在しないものでも誰かが覚えていてくれれば残り続けるって」

彼女は笑うそれは作られていない純粋な笑顔。

それは博物館で言った僕の言葉だった。

記憶がなく別人だが、彼女は間違いなく梓だった。

そういうことだ、僕がずっと知りたがっていた梓の気持ちは純粋な心により簡単に解明され、晒された。それを知ったところで僕はどうすることができる?

「アズサ」

「ひゃい?!」

急に呼び捨てで呼んでみたら思った以上の反応を見せた、、、これは初めて名前で呼ばれたときのおかえしだと、やられたらやり返すを別人にぶつけて、

「改めて言います。僕はあなたが好きです。今までと同じよう、いや、それ以上に思い出を作ってくれませんか」

これは僕の「ホントの言葉」のはずだった。でもそれをぶつけた相手は違う

アズサがどんなヒトで僕をどんなふうに思っているかはほとんど理解している。なぜなら僕は「人間観察が趣味の変人」だから。

「、、、それは私に向けた言葉ですか?」

おそるおそる聞くアズサの目には涙。ここでホントの言葉は役割を終える。

「もちろんだよ、アズサ。だから泣かないで、僕らの初めての思い出は笑顔がいいでしょう?」

涙を拭い笑うアズサ。最低な僕は笑い返す。

「ありがとうございます。獅音くん」

アズサは消えそうな声で感謝を述べた。グズの僕を彼女はほんとに愛してくれる。やめてくれ、僕はあまり人に優しくないよ。


アズサはリハビリや診察をノリ気に乗り切った。すっかり周りを虜にしてしまった彼女は病院を歩くと小さな子どもからご老人まで彼女に話しかけていた。病院では暗い気分が常に滞在している。そんな中アズサは輝いていた。おそらく僕の視点以外で、世界以外で。

「もうすぐ退院できますよ、どこに行きましょうか」

目を輝かせてワクワクした様子で僕に話しかける。違和感が拭えないがそれは関係ない。

「うーん、ちょっと地味かもしれないけどこの街の商店街はどうかな」

「あー、お父さんから聞きましたわたしがよく言ってた場所ですね」

できればそこは隠したかったが、どうせ現地でバレるか、、、。

「もし嫌なら他の候補もあるけ、、」

「嫌な訳ありません!どこに行こうかなんてあまり関係ないんです。獅音くんが決めたところに私も行きたいんですよ。」

あぁそうだったのか、最近わかった。アズサは梓だ、正確に言うと梓とアズサはおんなじ捉え方、価値観、思想なのだろう。違うのは性格と所持している思い出の数。つまりアズサがポロッと吐く僕への言葉は梓が隠していて僕が知りたがっていたものということだ。

「リハビリと診察お疲れ様です!」

アズサに合わせて僕も明るく振る舞う。そうしたほうが「ホントの言葉」を隠せるから。

「はいメモリーのない目盛アズサからメモリーを作る目盛アズサに進化しました!パラパラッパッパッパー」

聞き覚えのあるレベルアップの音に思わず吹き出す。

「ちょっとそれどこで知ったの?!」

「えへへ、病院は記憶の宝島ですねー」

「あはは、なにそれ」

これはホントの笑いか?きっとそうだ。アズサとふたりで初めて笑った。

そんな権利、僕にはないのに。アズサはとてもいい人だそんなことは初めて話したときから知っている。だからこそ辛い。アズサが笑う、笑わせるたびに梓が消える。あえて悪く言うとアズサが梓の思い出を踏みにじっている。

僕は決してアズサを憎んだりしていない。ただ幸せになってほしい。そのためには僕が「ホントの言葉」を出すことは許せないんだ。でも思い出がいつかアズサで埋まってしまったら、それは梓を失うと同時に、「ホントの言葉」を開放するトリガーにもなってしまう。今は彼女が幸せになるために僕は彼女を欺くそれが「ホントの言葉」を隠すための方法。


アズサは退院した。実はまだ退院できる状態ではなかった。でもアズサはいち早く思い出を作りたいそうで、医師と看護師にお願いしたそうだ。まるで何かに追われているように彼女は時間を大事にする。

退院したアズサを連れて僕らはあの商店街に行った。

やはり思った通りアズサは人に囲まれた。そりゃそうだ子供の頃からずっと通い続けていた常連さんが事故から復帰したのだから

「梓ちゃん大丈夫だった?」「梓ちゃんおかえり」「梓ちゃんうちの店来てよ」

入り乱れる人々を落ち着かせようとしたとき、アズサが笑って

「あー面白い!みんな私の知らない人なのにこんなに良くしてもらって、きっと目盛梓は天才だったんですね」

「っよ、天才」

おじさんが合いの手を入れるとまた周りが騒ぎ出す

「なにか雰囲気が変わったね」「知らないってどういうことだい」

今度も止めようとしたが、またアズサ

「皆さん、ごめんなさい。私は目盛梓ではありません。実は記憶を失って皆さんのことを何一つ思い出すことができないんです」

盛り上がっていたのが、一気にざわめきに変わる。

「でも、私はわたし新しいメモリーを作りに来た目盛アズサです。どうかお願いします私は皆さんが知ってる天才ではないですが、目盛アズサに思い出をください」

頭を下げるアズサ。しばらくの沈黙。でもそれはすぐまた盛り上がりに変わる。

「確かに梓ちゃんはこんな大胆なことしないねぇ」

「アズサちゃんはアズサちゃんだ記憶がなくても変わらないよ」

「私達で良ければまたいい思い出を作る手伝いをするよ」

アズサの思いは伝わった。なんて薄情な人たちだ。

梓はもういないんだ、なのに悔やむ人もいなければそれを笑い話にする人もいる。アズサは梓ではある。でも梓はアズサではないんだ。それを梓が望んでいるかはわからないのに梓はこうしてみんなから消えるのだろうか。

そう思って大衆をみていたが、八百屋のおじさんに呼ばれ少し外した。

「なあ彼氏くん、アズサちゃんの言ってることはホントなんだよな」

「ええもちろん、アズサは記憶を失い事故以前のことは一切覚えていませんつまり事故以前の梓にはもう会えません」

かなり棘のある言い方をした。

「ああそうか、、、彼氏くんアズサちゃんを見守ってくれよ」

「言われなくても全力で」

「いやそうじゃない」

「?」

「見守るっていうのはアズサちゃんを受け入れるということだ」

「僕が受け入れていないとでも?」

「アズサちゃんが楽しそうな顔をしたとき、きみは別の人を浮かべるはずだ」

「、、、なんでそれを」

「みんなそうだよ。ここのみんなも、ご両親も、そして君も梓ちゃんのことを浮かべるのは当然なんだ。そのうえでアズサちゃんを受け入れるそれが見守るというものとは思わないかい?」

「、、、わかりません。そうしたら梓が消えるような気がして、本心でそう思うことはできません」

「それもまた君の気持ちなんだろうね。とにかく一人でアズサちゃんを幸せにする必要はない。それはきみが一番つらい道だろう」

そういって八百屋は戻っていった。僕も戻ろうとした、その途中で大きいサイズの袋を持ったアズサに見つかった。

「どこ行ってたんですか、皆さん本当に優しくていい思い出になりそうです」

「それは良かった。じゃああれはどうだい?」

輪投げを指差す

「ああ、あれなら病院の本で読んだことあります。輪っかを投げて景品を取るんですよね」

「やる?」

「もちろんです!」

意気込んで向かっていったが結果は

「な、なんにもとれませんでしたー」

「見た目以上に難しいよねあれは、僕もほとんど取れないよ」

「梓さんは上手だったんですか?」

なんでそんなことを聞くんだ?それを聞くってことは梓に対抗心があるのか?それとも、、、

「梓は、、、百発百中だったよ」

「、、、なるほど」

アズサは大股歩きでもういちど屋台に向かっていった

「おじさん、輪投げ、10回!!!」

「待て待て待て!」

このあとなんとか3回目で景品は取れたので残りの7回は僕とおじさんの協力もあり免れた。

「いやー楽しかったです」

景品を掲げた上機嫌のアズサは、いつも商店街から帰るときの梓に似ていた、というか全くおんなじだった。

「アズサ」

少し先を行くアズサを引き止める。僕の心に残っているのはやはり八百屋の言葉。でもそれに決断を下すのはまだ先。今は

「次はどこに行きたい?今回は僕が決めたから次はアズサの行きたいところも知りたいんだ」

まるで梓みたいなことを言うなと自分ながら思った。

「うーん、、、あ!」

意外と早くひらめいた

「イルカショーがみたいです!病院のパンフレットで見たんです。このあたりに有名な水族館があるって」

「わ、わかった企画しとくよ」

言わずもがな大失敗水族館だ。


まずは天気予報の確認。すべてのテレビ、インターネットで晴れとなる日を見つけてその日にすることにした。次に時間、これも開始時刻に間に合わなかったら最悪だ、徹底的に調べて二度同じ失敗をしまいと意気込んだ。

そして当日、遅刻もしなければ快晴。アズサも水族館の外から見える水槽に釘付けだ。

「すごい、神秘的ですねー」

「まだ始まってすらないよ」

細かなやり取りを繰り返しながら、水族館を周り、イルカショーも問題なく、、、アズサが叫びすぎた以外は問題なく楽しめた。

ほんとおかしい。前の日々とぜんぜん違う。程よかった僕らの距離は意図せず近づいた。僕は彼女を欺いてそばにいさせる最低な人間だから心から楽しむ権利はないと思っていた。でもアズサといるとその権利が生じる気がする。それは僕が甘いからか、アズサが上手だからか、アズサを僕は受け入れているのか。そう思いたいと考え始めた。アズサと梓、性格は全く違うように見えた。でも日々過ごすたびアズサは無理して明るくしてるのだと感じた。一番感じたのは商店街での大勢への呼びかけ、あれは自分に劣等感を感じたからのものに見えた。梓との思い出をたくさん持っているみんなに嫉妬してるんじゃないかって。その答えはすぐわかることになる。

帰り道

「獅音くん」

アズサが初めて名前で呼び止めた。不穏な空気だ。彼女は下を向いて目をつむる。

「ありがとう。たくさんたのしかったよ」

アズサはわかっていた。だって梓は超能力者ですべての思想を読み取られてると感じるほど読みが冴えてたから。

「私はあなたの好きな人じゃないんだよね」

アズサはわかっていた。だって梓の前では不要な発言は許されないから。

「梓さんのために私をよくしてくれたんだよね」

アズサはわかっていた。だって梓は人間観察が趣味の変人だから。

「私を幸せにして、自分を犠牲にしてたんだよね」

アズサは泣いている。

「今日のデートプラン完璧だったよ、なんでかなぁ」

すべてわかっていたんだ僕が水族館で失敗したことも、それを補うために今回盤石で挑むこと、そして、、、

「あなたは全く悪い人じゃない、あなたはほんとに優しい人」

「、、、」

「うぅ、ご、ごめんね、せっかく私のためにやってくれたのに」

止めなければ、、、アズサが好きだと、、、アズサといっしょにいたいと、離れたくない、壊れたくない。 、、、全部「ホントの言葉」じゃない。

「いいんだよ、わかってる。全部ね。」

何も喋れない。

「楽しかったのはホントだよ、、、さよなら。」

彼女がそっぽを向くとき涙がこぼれ落ちた。僕はその涙を拭くことも、振り返る体を止めることも、欺くことすらも、できなかった。むしろ欺かれていたのは僕の方だった。「ほんとに楽しい日々は失っても残り続ける」そんなことはなく水族館の水の滴る音が楽しい思い出をすべて洗い流した。


あれからアズサとは連絡が取れなかった。おそらくアズサは僕ともう会わない気でいるようだ。そしてとうとう学校が再開する。アズサはいるだろうかあったところで僕は何ができる?あのとき何もできなかったグズが。思えば梓を失ったのも僕のせいなのかもしれない。はっきりしない僕が梓の進行を止めたのかもしれない。そう思わないと梓が僕と関係ない人になってしまう気がして怖かった。学校にアズサは来なかった。欠席ではない。転校。理由は記憶喪失によりみなに混乱を与えてしまう可能性があったから。こうなったのもも僕のせい。アズサに劣等感や悲壮感を与えてしまったからだろう。梓と仲が良かった女友達も僕に何か知らないかと話を聞かれた。記憶障害になったのは知ってると答えた。そこからは話してない。アズサが隠しているからだ。でもその2日後アズサからクラスメイトへの手紙が届いた。

宛名は「名前も知らない人たち」その手紙を僕が読み上げることになった。


名前も知らない人たちへ


みなさんこんにちは

メモリーのない目盛アズサです

この挨拶病院で結構評判良かったんですよ

さて皆さん突然いなくなってしまってごめんなさい

ほんとは私もみんなと会いたいですし、思い出も作りたいです

でもそれはみんなの思い出を壊してしまうことになる

みんなとの今までの思い出を壊してしまうことになる

それは私も目盛梓も悲しいことです

だから私は新しい私として今までは振り返らず

先に進むことにしました

どうかみなさんも振り返らないで

目盛梓を忘れないように

            あなたの知らない人より


「梓、、、」

「記憶がなくなったって本当みたいだね、梓にこの文章は書けないよ、、、」

「悲しいね。あっさりと消えちゃった」

梓はみんなに愛されていたんだなと感じた。

本当に悲しい文章だ。悲しい文章なのにその上を明るさで塗装している。

ここにあるのはただの文字なのにこの手紙はまるでアズサ本人のよう。

アズサが明るくて、思ったことがすぐ口に出て、可愛らしい動きや言葉づかいをする人ではないのは最初からわかっていた。僕が告白したとき、彼女が泣いていたのは自分が梓ではないことへの嘆き。

目の前にいる男が自分を好きだという、しかしそれは自分への言葉ではないその嘆き。

そこから自分を明るく演じて自分は目盛梓ではないと僕に主張することで遠ざけようとした。アズサは思ったことを口に出していたわけじゃない、水族館のことも知っていたとしたら、おそらく梓は日記や記録をつけてたのだろう。それにあることを梓のホントの言葉を僕に伝えていた。こうしてアズサは自分の役割を理解した。アズサは僕の恋人になるつもりはなかった。それに彼女の感情は関係なく彼女じゃない誰かに放たれた僕の「ホント言葉」を守るため僕を前にいかせるために演じた。

これはすべて僕の憶測。あっているかなんてわからない。なぜならアズサは梓以上に読めない、突然これがしたいあれがしたいと突拍子もなく言い出す気分屋な性格、宇宙のように不思議で美しいから。それに気づいたときはアズサを失っていた。大切な人を失ったあと自分の手で大切な人を離した。僕は思う、君はおんなじだった。梓となんにも変わらなかった。僕も君も梓も自分の意見を言えなかった。楽しかった思い出の欠片を繋げればすべてが一緒にいたいという「ホントの言葉」につながる。じゃあ僕は何ができた?

まるで咲く季節が違うよう花のように相容れなかった僕らはこのまま散るしかなかったのか。そんなことをずっと考えていたらいつの間にか高校生活は終わろうとしていた。梓のいない卒業式はとても早く終わった。いつまで考えても答えがなく、時間は急激に進む。それでも僕は君を忘れることはない。それが三人の「ホントの言葉」。


 長く短い年月は刻々と進む。自分は何をしている?何がしたい?そう思いながらも生きていなければならない。どんな人生でも記憶に彼女がいるなら。その人生は全うしなければならない。前に進みながら僕の日々はいつものように、、、

「獅音」

でも後退するのも悪くないかもしれない。

可能性があるとしてそれは望まなかった。望めなかった。

それは思ってはならないことだったから。

ゆっくりと振り返る。

「梓?」

彼女はコクリと頷いて

「会いたかった」と言う。

僕は彼女へ駆け寄り抱きしめた。

そうだ、なんで早くこうしなかったんだ。

答えは簡単だった。

彼女が梓でもアズサでも関係がない。

思いを伝えてこうすればよかった。

何度もあったはずのこの瞬間を逃した結果があの日々。

楽しかった思い出の日々だ。

でも今からは違う。

思い出には残らないかもしれない時間を一秒一秒と進む。

過去の思い出には全く触れない日々。

彼女を抱きしめたとき彼女の涙が服に滲んだ。

それは嬉し泣きか、それとも、、、まぁいいか。

今はこの一秒をただ愛そう。       Fin

ご愛読ありがとうございます。

思うシリーズ一作目です。大体想像はつくとは思いますが次は梓、そしてアズサの物語です。今回エンディングが少しわかりづらい終わり方をしてしまい申し訳ございません。個人的にはこのように読者に委ねる終わり方は嫌いなのですが、今回は想像にお任せします。私がそんな綺麗な終わりを描くわけないと一シリーズ前を読んでいただければ分かると思うので。

次回も読んでいただけると幸いです。

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