005
僕にすっかり懐いてくれたリスたちのために、僕はスキル【ごちそう生成(魔獣用)】を発動した。
眩い光と共に、僕の手のひらに、森には存在しない、鮮やかな青い光を放つ小さな木の実が出現した。
それは、まるで小さな星を集めたような、見た目も美しい餌だった。表面からは蜂蜜のような甘い香りが漂ってくる。
コロンにあげた餌とは違う見た目。もしかしたらその子にあった餌が作られるのかもしれない。
そう思っていると、リスたちは今にも飛びつきそうな、キラキラとした目できのみを見つめている。回っていたはずのリスは止まり、じっとこちらを見つめている。
僕は光る木の実を、そっと木の下の切り株に置いた。
僕の周りを走り回っていたリスが、「僕が最初だっ」と言いたげな表情で、いち早く切り株の前に着いた。そして木の実を口にした。
カリッ、カリッ。
そのリスが満足そうに食べるのを見た途端、他のリスたちの我慢がプチンと切れた。まるで決壊したダムのように、全ての宝石リスが切り株に置かれた青い実を奪い合い始めた。
「おいらのやって」「僕のやって」
「もーらいー」「ちょっ……ずるいよ!」
そんな会話が聞こえてきそうなぐらい、わいわいと盛り上がりながらリスたちはきのみを食べている。
可愛いな……。
そう思いながら、次々に実を生成し、リスたちがみんな食べられるようにする。
可愛いなぁと思っていたせいか、どんどんと実は生成されていき、とうとう切り株が埋まるほどになった。
「あぁ、ごめん!出しすぎた」
僕は実の中に埋められたリスたちに向けてそう言った。
すると、実の中から口に実を含んで頬が膨らんでいるリスたちが、実の山から顔をひょっこり出した。そして、「ありがとう」とでも言いたげな満面の笑みで手を上げた。その手は小さい手で作られた、可愛いグッドポーズだった。
山に潜り、きのみをひたすら食べているリスたちを見ながら、僕は思わずニコニコと笑顔を浮かべる。
やっぱりもふもふが喜んでいるところを見るのが、いっちばん楽しい。
本当にもふもふ好きはこの世界じゃ変態扱いなの?ありえんのだけど。
僕は未だにセレスティアの言っていた、「物好きな変態」という言葉を気にしていた。もしかしたらセレスティアの偏見かもしれない。世間はもふもふが好きな可能性もあるのだから。
そう考えても、変態という言葉はいつまでも僕の頭を離れなかった。
そうして変態について再び考え始めようとした時、セレスティアは口元を押さえながら話しかけてきた。
「なんてこと……! 宝千樹の『精霊の果実』に似たエネルギーね。あなた、これは本当に戦闘に役立たないスキルなの?」
彼女は僕をじっと見つめている。戦闘力はないのかと疑っているような視線だった。
そんな目で見られても、本当に戦闘力はないのだから、「ないです」としか言いようがない。
「僕のスキルは回復と、ほんわかする波動と、この子達のご飯を作り出すことしかできないんだぞ!」
と言っても、信じてもらえないような気がして、僕は黙ることしかできなかった。どう返答すればいいのかわからなかったのだ。
宝石リスたちは、満腹になったのか、山の中からのそのそと出てきた。
そして僕の方に走ってきて、僕の周りでお昼寝をし始めた。完全に懐いている。警戒心はどこに行ったのか、無防備にみんながみんなお昼寝をしていく。
「ああ、可愛い……モフモフが頭に乗っている……」
僕は感激で目尻を緩ませた。
一匹、全部最初に行動していたあのリスだけが、僕の頭の上に乗ってお昼寝をしていた。宝石リスの小さな体毛一つ一つまでキラキラと輝いており、その可愛さに完全に癒やされていた。
「この子たち、怪我をした個体もいないみたいだし、あとは安全な保護区まで誘導すれば大丈夫ですね」
自分にしかできない方法で依頼を達成した。
そして周りは、一匹、また一匹と、可愛いモフモフが増えた。
さては、この世界……最高だな?
セレスティアは、宝石リスに囲まれ幸せそうな僕の姿と、その輝くリスたちを交互に見つめ、微かに笑みを浮かべた。
「そうね、まずはこの子たちをギルドに報告しましょう。そして……次は、安全な家を探す必要があるわ。あなたと、その増えそうな可愛い仲間たちのために」
セレスティアの視線には、護衛としての責任感だけでなく、コロンと宝石リスたちへの、愛情が芽生えているような気がした。
じゃあなんで変態なんだよ。
僕は再び変態についての沼に入っていってしまった。その問いの答えを求めて。
◇ ◇ ◇
「それにしても困ったわね……」
麦が宝石リスに連れられて、リスからのお礼の品(?)を取りに行った時、セレスティアはぼそっと呟いた。表情はいつもよりもより険しく、迷いと焦りが混じっているようだった。
「まさか宝石リスの確保がここまで簡単にできてしまうとは……領主様に目をつけられてもおかしくないわね……でももしそうなったら……」
セレスティアは頭に浮かんだ最悪のケースを振り払うように、首を横に振った。
「大丈夫。ええそうよ。きっと大丈夫…………私の考えていることが杞憂で終わればいいのだけど……」
セレスティアは宝石リスと戯れている麦を見ながら、そう言った。
大丈夫と言っているものの、彼女の表情は晴れやかではなく、どんよりと曇っていた。
「そろそろいくわよー!」
「あ、はい!今行きます!」
セレスティアは荷物をまとめ、麦が来るのを待った。
麦は宝石リスに進路を妨害されたり、顔を覆い隠されたりしながらゆっくりとセレスティアの方へ向かっていく。
「ちょっ、ちょっと前が前が見えないー!」
ふらふらと歩いていた麦は、勢いよく転んだ。
宝石リスは、それを見てわいわいと喜んでいる子もいれば、心配そうにしている子もいる。茶化すように何匹かのリスが麦の上に乗り、勢いよくジャンプしている。
「ふふっ……早くいくわよ」
彼女は麦に手を差し伸べ、リスの中から救い出した。リスたちはそれでも麦についていこうと麦の体によじ登っていく。
その様子を見ているセレスティアの表情は、少し明るくなっていた。




