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004

「このまま進めば宝石リスの目撃情報があった場所だわ」


 僕は今、セレスティアと共に森へ向かっている。

 流石に宝千樹の近くは危険ということで、反対側で宝石リスの目撃情報があった場所に向かっていた。この付近で見つかることは非常に稀だったが、ないこともないらしい。


 ふとセレスティアの格好を見る。


 セレスティアは完全に戦闘装備だ。

 銀色の髪はきっちりまとめられ、腰の長剣からは隙のないオーラが漂っている。


 対して僕は、動きやすい格好に、右手には薬草を入れるために持ってきたカゴ。そして、胸ポケットにはコロンが、絶賛お昼寝中のもふもふが入っている。


「遠足に行くのかな?」

 と言われても全く否定できない。緊張感ゼロの格好をしていた。


「あなた、本当にその格好で大丈夫なの? 森の奥は魔獣の活動域よ。せめて予備のナイフくらいは持つべきだわ」

「ありがとうございます。でも、僕は戦えませんし、ナイフを持っても足手まといになるだけですから……。セレスティアさんが一緒なら大丈夫かなぁと……」


 素直に言いきると、セレスティアはため息をついた。そして、僕に差し出していた扱いやすそうなナイフをしまい、再び歩き出した。


 どうやら彼女は自分が護衛をしなくてはならないと割り切っているが、護衛対象があまりにも無防備なのが気に食わないようだ。


 すんません……体育3の運動音痴には不可能です。短剣なんて持ったら多分どっかに飛んでいくレベルなんです。この3もワークシートで取ったなけなしの3なんです。シャトルランなんて倒れて迷惑をかけるレベルなので……。


 心の中でそう言って、自分で悲しくなった。


「……はぁ、まあいいわ。絶対に私の傍を離れないで。そして、何か気配を感じたら、すぐに私に教えること」

「はい!」


 森の深部へ進むにつれ、ワクワク感を抑えられなくなってきた。

 もう少しで未知のもふもふと出会える。そう思っているだけで、さっきまであったはずの恐怖はどこかに消え去っていた。


 道を歩いていると所々に薬草らしき草が生えている。

 多分とったらお金になるんだろう。でも今日はもふもふが最優先事項だ。


 そんな僕の様子を見てか、セレスティアは小声で尋ねた。


「そういえば、あなたの薬草の知識はどこで得たの? 素人にしては、正確に『癒やしの葉』を見分けていたようだけど」


 そう言われて、僕は驚いた。


 どうやら僕がずっと見ていた薬草らしき草は、癒やしの葉だったらしい。

 言われてみればあの時持っていた葉っぱに似ているような気もする。


「たまたまです。僕もあれがそうだとは思ってなかったので……」


 それから僕は適当に拾った葉を持っていたら、癒やしの葉になっていたことも伝えた。セレスティアなら何か知っているんじゃないかと思ったのだ。


 しかし、「テイマーのスキルでただの葉っぱが薬草に? 不思議ね」セレスティアは首を傾げ、特に何か知っている様子ではなかった。

 まあ、仕方がない。そう簡単にこのスキルを解明できるとも思ってないし。

 そう思いながら、いじけそうになるのを止めようと、道に生えていた薬草を適当に採取した。


 結果、僕はちょっとセレスティアに置いてかれた。


 やっぱり拾わないべきだった。



 ◇ ◇ ◇



 目撃情報のあった場所に到着すると、セレスティアはすぐに地面の小さな足跡と、かじられたばかりの木の実を見つけた。

 どうやら本当にいるようで、できて新しい足跡も所々にある。


「この辺にいるみたいですね」

「静かに。彼らは非常に臆病よ。私たちが近づくと、すぐに光って逃げてしまう」


 セレスティアが長剣の柄に手をかけた、そのとき。

 木の上から、「キュイッ!キュイッ!」という甲高い鳴き声が聞こえた。

 見上げると、十匹ほどのリスが木の枝に集まっていた。その体毛は茶色だが、光を浴びた背中の毛の一部が、ルビーやサファイアのようにキラキラと輝いている。まさに「宝石リス」だ。


 しかし、彼らは集団で警戒しており、明らかに怯えている様子だった。

 中には、興奮しすぎて全身が強烈に発光し、今にも飛び去ろうとしている個体もいる。


 どうやら宝石リスというのは、戦いが強いとかではなく逃げるのが得意な魔獣らしい。それなら僕にもできるかもしれない。


 僕は一歩前に出た。


「セレスティアさん、僕に任せてください」


 僕は両手を空にして、静かに、ゆっくりと木の下へ進んだ。

 とにかく敵対する気はないという意思を示さなきゃいけない。攻撃する気持ちだったり行動を見せたら、僕らの負けだ。


 宝石リスにもう少しで触れるという間合いに入った時、僕は頭の中に流れる声に従って、スキル【親愛の波動】を発動させた。

 体から戦闘力とは無縁の、純粋な「癒やし」と「愛情」の波動が微かに放たれる。それは放っている自分でさえ感じ取るような温かい感情の波動だった。


 リスたちはすぐに逃げなかった。

 代わりに、好奇心と僅かな警戒心がに混ざったような目で、僕を見つめている。


 僕はなんとなくポケットからコロンを出し、自分の手の上に乗せた。

 少しでも警戒心がなくなればいい。

 その想いが伝わったのか、コロンは「きゅぅ」と優しく鳴いた。


 コロンが鳴くと、リスたちは顔を見合わせた。

 もしかしたらどうするか相談しているのかもしれない。

 そんな中、1匹の宝石リスが飛び込むように僕の手の上に飛び移ってきた。

 小さな手足が手に触れ、少し重みを感じる。とはいえ、みかんぐらいの重さだ。

 その様子を見て、他のリスも続々と僕の周りに集まってくる。


「キッ」


 1匹のリスの声に合わせて、リスがみんな揃ってお辞儀をした。

 相当頭がいいんだと思う。礼儀というものをわかっているみたいだった。


「みんな、一緒に行ってくれる?」


 リスたちはみんな大きく頷いた。


「キュルー♪」


 最初に僕のところにやってきたリスは嬉しそうに、僕の周りをぐるぐると走り始めた。

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