003
「それで、依頼はどうすれば……」
「そうね。こうしていたら時間が勿体無いわ。依頼を受けて、宝石リスを探しに行きましょう」
セレスティアはエナの手元に、宝石リスの依頼書をたたきつ叩きつけるようにして置いた。
「そうやって乱暴にしないでってこの前言ったよね?この机、意外と高いんだからね」
エナはそう言うと、カウンターの机に「大丈夫?」と声をかけながら机を撫で始めた。
側から見ると完全に不審者だ。
受付じゃなかったら、多分今頃通報されているだろう。まあ、この世界に警察のような組織があるかはわからないんだけど。
「いいから早くして。宝石リスの討伐は時間がシビアなことはあなたが一番知っているでしょう?」
「そうね。麦くんがいるし、すぐに手続きしたほうがいいよね」
「ちょっと待ちなさい、その言い方だと私一人の時はすぐにやらないかのような……」
エナはあからさまに目を逸らし、口笛を吹きながら、ギルドの奥に消えていく。
いなくなったエナを見て、セレスティアは拳を強く握り締めている。
「後で覚えてなさい……」
僕は絶対にセレスティアにだけは逆らわないようにしよう、と深く誓った。
「ごめんごめん。思ったより手続きに時間がかかっちゃった。これ依頼の詳細ね」
15分ほど経って、エナは額の汗をハンカチで拭いながら、セレスティアに一枚の紙切れを渡した。
セレスティアは紙切れをバッグにしまい、エナに疑いの視線を向けた。
「もしかして何かあったの?」
「あぁ……バレた?」
「だってあなたが汗をかくほど忙しいなんて珍しいもの」
「やっぱり隠せないかー」とエナはわざとらしい演技とセリフを吐いた。
「実は宝石リスの捕獲依頼が出たの」
「それがどうしたの?よくある依頼じゃない」
「うん、まぁそうなんだけど……依頼主が領主様なの」
それを聞いた瞬間、セレスティアは険しい顔つきになった。
領主様。
異世界だと当たり前なんだろうが、多分、日本で言うところの知事の役目の人だろう。違うのはなるのが貴族……とかであってるのか?
ラノベの知識じゃわからないぞ……。
僕が一人で顔を傾げていると、セレスティアがカウンターの机に勢いよく両手を叩きつけた。
「どうして領主様が、依頼を《《ここ》》に出すの?領主様の依頼は直属の冒険者が受けているでしょう」
エナはセレスティアに叩かれた机を心配そうに見つめながら、会話を続けた。
「いつもはね。今回領主様が依頼を出したのは、その冒険者が失敗したかららしいの。そこで私たち、傭兵ギルドと……冒険者ギルドに、依頼が出されたわ」
セレスティアは天を仰いだ。
それだけ、珍しいとんでもないことなんだろう。それに、領主様直属の冒険者が失敗するような難しい依頼、という事か。
ん?ちょっと待てよ?
今僕たちが受けた依頼って……。
「ええーっ!?じゃあ今から僕らは、そんなに難しい宝石リスの依頼をやるって事ですか!?」
「ええ、そうなるわね。でも普段はそんなに難しい依頼じゃない。それで、失敗した理由はなんなの?」
エナは「これを見て」と言い、一枚の資料を机の上に広げた。
それは、この近くを描いた地図だった。真ん中には今いる街と思われる街があり、周りには大きな森がずっと広がっている。森の所々にリスの絵が書いてあり、近くに赤いバツ印がついている。
「失敗した理由はこれ」
エナが指差した場所を見ると、リスの絵が密集している場所の真ん中に、大きな木の絵が描かれている。
「『宝石の大木』のせいか……それは確かにまずいわね」
「うん……このままだと依頼が達成できないじゃない?だから領主様は、最初に捕獲して連れてきた人に褒章を与えると言ってるの」
「そこまでして宝石リスが欲しいわけね……」
二人がため息をつきながら下を向く。
しかし僕は二人の会話についていけなくなって、完全に置いて行かれていた。
「あのー、宝石の大木ってなんですか?」
「あぁ、ごめんね?完全に置いてけぼりにしちゃってた。きちんと説明するね」
エナはそこから宝石の大木について詳しく説明してくれた。
宝石の大木というのは、この街の周りに広がる森の中で一番高くそびえ立っている大きな木で、その名の通り、幹や枝に宝石のような石が埋まっている。
「昨日の夜、森の中に光っている木がなかった?それが宝石の大木だよ」
言われてみれば、昨日の夜、街灯を彷彿とさせるような木が遠くにあったような気がする。
「宝石の大木は1000年に一回、宝石の実をならすの。だから『宝千樹』という別名でも呼ばれているんだ」
セレスティアは「子供の頃に習ったわね」と懐かしそうに言った。
「そして今回の依頼失敗の原因がその実なの」
「どういうことですか?」
「1000年に一回しか実らない……それは実の価値がとんでもなく高くなるでしょ?だからすごい数の人が手に入れようとするのよ。でも……」
エナはそう言うと、セレスティアの方を向いた。
「実がなる時には必ず守護神が来る。だからそう簡単には手に入れられないし、近寄ることもできなくなるということね」
「そーゆーことーっ」
エナは嬉しそうに笑うと、セレスティアとハイタッチをした。
どうやら、その実のせいで宝石リスが生息している木の周りに近づけなくなって、依頼が達成できないと言うことらしい。
そんな中、無理やり近づいた領主様直属の冒険者は、返り討ちにされたということだ。
尚更、この依頼が危険ということが伝わってくる。体育3の僕に何ができる?行ったら危ないんじゃないか?
「行くわよ。やると決めたことはやる、それが私のポリシーだから」
セレスティアはそう言い、僕らに背を向けて歩き出した。
おそらく迷っている僕を見かねての発言だろう。
確かにいつまでも迷っていたら、掴めるチャンスも掴めなくなる。今までも何回も経験してきたはずだ。ここで逃げたら、僕は絶対に後悔する。
「はい!」
僕はセレスティアの背中を走って追いかけた。




