3話 悪魔と戦う術
「まぁできて当たり前だな。」
不機嫌そうにネルシュが言う。
しかしこの世界の人間のほとんどは魔力を持っており、その中の半数以上の人間は訓練すれば意識的に魔力を操ることができる。つまりできて当たり前の技術ということである。
「次はその状態を魔力が尽きるまで維持しろ。これができなきゃお前はそこで終わりだ。」
そう言うとネルシュさんはどこかへ行ってしまった。
(もっと愛想良く教えてくれてもいいのに…)
文句を言っても仕方がないのでなんとか集中してこの状態を維持することにした。
現在経過時間およそ2時間。
正直かなりしんどい。貧血なのに全速力で走ってるような感覚だ。気を抜けば一瞬で意識が持っていかれそうになる。
ネルシュさんはいつ帰ってくるのだろうか?
現在経過時間およそ4時間。
今おれは三途の川の手前で立ち止まっています。
文字通り死にかけです。
無念にも悪魔に殺されたお母さんとお父さんが向こう岸で手を振っています。
おそらく端から見れば白目を剥いてピクピクしながら体からオーラを出しています頭のおかしち奴に見えるだろう。
ネルシュさん早く帰って来ないかな?
現在経過時間およそ10時間。
もうこの段階までくると、自分がどういう状況か把握できなくなる。
意識があるのかないのかさえわからない。
しかしあのクソ悪魔はあくびをしながら暇そうにボケーとしています。クッッッッソむかつきます。
…ところでネルシュさんはいったいいつになったら帰ってくるのだろうか?
もうおれを見捨てのだろうか?
おれを殺す気なのだろうか?
人がこんなに苦しんでるのに助けようという優しさすらないのだろうか?
そんなことを考えていたら…
「やばい…もう……い……し……きが…………。」
「思ったよりは耐えたな。」
「うーん…。」
起きるとおれはベッドの上だった。
横を見るとネルシュさんが贅沢品の紅茶を飲んでいる。
「おはよう、まさかお前があそこまで耐えるとはな、
私の想像よりも才能がありそうだ。しかし昨日の訓練は全くもって無意味だ、どれだけ集中力を保てるのかテストしただけだ。今日からは実戦に向けた修行を行う。覚悟しておけ。」
(どうしてこの人は起きたばかりのおれにこんな絶望しかない話をするんだ?嫌がらせか?)
「はい」
引きつった顔で返事した。
『おい人間、おれはいつになったら暴れられんだ?』
ヴァイルが少しキレ気味で尋ねる。
「悪魔の力ばかりに頼っていたら戦場に出ればすぐに死ぬ、信じられるのは己の力のみというわけだ。わかったか?」
『ちっぽけな人間に何ができるんだ?せいぜい我ら悪魔の餌になることだけだろう。』
「あまり人間を舐めないことだな。」
お互いに威圧しながら牽制する。
そばにいるだけで気を失いそうになるほど重苦しい空気だ。
「まぁいい。アノンさっさと飯を食え、食ったらお前の今日の訓練場に案内してやる。」
歩くこと15分、その場所には…悪魔がいた。
「今日の訓練はこの魔獣を殺すことだ。悪魔の力を使わずに、な。」
「いやいやいや、無理に決まってるでしょう。おれはまだ訓練して2日目ですよ?」
「黙れ、こいつに勝てなければ実戦で生き残れるわけがない。さっさと行け。」
そう言うとネルシュさんはおれの背中を足でおれを悪魔の目の前に蹴り出す。
「…ハロー、魔獣さん…。」
今にも失禁しそうだがなんとか声をかけてみる。すると
『ギィィヤァーーーーーー!』
魔獣はこの世の生き物とは思えない叫び声をあげておれに突進してくる。
「ア゛ァァァァァァ!!ヴァイル!助けてくれ!頼む!何でもするから!」
『この程度の雑魚におれの手を煩わせるつもりか?死にたくなけりゃさっさと自分でどうにかしろ。』
「契約はどうなったんだよ!おれのこと助けろよ!」
なんとか逃げながらヴァイルに助けを求める
『確かに契約の力を使えばおれはお前を助けなければならないが、そうなればお前はこの先一生他人に頼むことしかできないゴミになる。ただでさえ今でもカスなのにこれ以上クソになってどうするんだ?』
「その悪魔の言う通り、《強化》を使いこなせればお前でもその獣ぐらいは倒せる。」
「簡単に言うなよ!」
だが実際に敵の攻撃はまだ一発も当たっていない。
アノンの身体は前より素早く動くし、息も切れない。
しかし攻撃はできない。
その理由は実に単純で敵を恐れているのだ。
反撃が来るのではないか、もし外せばどうなるのか、わけの分からないまま初めての実戦を行い、何をどうすればよいのかの判断も正確にできない。
しかしアノンも気づいているこのまま回避に専念しても絶対に勝てない。
「何をしているアノン?さっさと攻撃に移れ。」
(そんなこと言われても…無理だよ…)
やがてアノンの集中力は切れてくる。攻撃が横をかすめ、そのたびに冷や汗が流れる。
そしてとうとうアノンの息が上がってきた。
『さっきからお前は何をしたいんだ?攻撃しなければお前はいつか死ぬぞ?』
「グアァァァ!ゲホッゲホッ」
ヴァイルの言葉通り魔獣の攻撃を食らい、アノンは地を転がり、気を失いそうになる。
(痛い痛い痛い痛いどうしておれがこんな目に…)
………………そうだ、悪魔のせいだ。お父さんとお母さんが殺されたときも、おれが今死にかけなのも全部悪魔どものせいじゃないか。
こいつは………絶対に殺す。
アノンは立ち上がり、魔獣を正確に捉える。
「避けんなよ、クソ悪魔。」
アノンが足を踏み込み、次の瞬間アノンは魔獣の視界から消えた。
その数秒後
ゴキッと鈍い音がして魔獣の右の前足がへし折れる。
『ギャァァァァァァァァァッッ!』
魔獣は痛みに悶絶してのたうち回っている。
「人の痛みがわかったか?クソ悪魔。」
『グゥゥゥゥッ』
魔獣は唸り声を上げてアノンを睨みつける。
アノンと魔獣は向かい合いお互いに最後の攻撃の準備をしている。
「次で終わりしよう。クソ悪魔、ほらかかってこいよ。」
『ガァァァァァァァァッッ』
魔獣は大きく口を開けてアノンを噛み潰そうとする。
ドゴンッ!次の瞬間魔獣の土手っ腹に風穴が空いた。
『ギィィ、ィィ、、』
小さな断末魔を上げて魔獣が地面に倒れ込む。
「勝ったのか…」
そしてアノンも倒れ込んだ。
『人間にしてはまだマシだな。』
ヴァイルが珍しく、褒めたがアノンの耳には届いていなかった。




