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フロランはそっと髪に、額に、頬に口づけした。しゃくりあげる声も落ち着き、エリザベスはフロランの肩に頭をもたれかけたままじっとしている。そんな姿勢でいながら不安げに
「私…、本当にフロランの事好きなのかな…」
とつぶやいた。その問いにフロランは驚きはしたが、答えはすでに腕の中にある。それなのに、それさえもわからなくなっているエリザベスに、フロランは肩をそっと引き寄せた。
「フロランは、…私のこと、好き?」
「好き。ずっと好き。これからも好き。エリー思い出す、いつもココロ、温かい、時々熱い。そばにいない、寒い、痛い、とても淋しい、悲しい…。”愛おしいという気持ちを教えてくれた。エリーは僕の光だ”」
はっきりと、迷うことなく愛を伝えるフロランに対し、エリザベスは諦めて、逃げて、いなくなってしまおうとした自分の想いが偽りのような気がしていた。周りから何と言われようと心の中では抵抗し、好きだと思う心は揺れないと信じていたのに、最後までそれを通せなかった。抵抗も反論も諦め、ここからいなくなろうとした。そんな自分がエリザベスは許せず、今までのすべてを偽りだと言われても仕方がないように思えていた。
しかし、どんなにエリザベス自身が迷っていても、フロランはエリザベスが自分に向ける想いを感じとっていた。
”エリーは嫌いな男をこんなそばに置かない。ひらりと投げ飛ばすか、締め上げるかして、とっとと追い払ってる。…旅の間、こんな近くにいた男は他にいる?”
エリザベスはフロランを見上げ、ゆっくりと首を横に振ってみせた。
”…よかった。…じゃあ、こんなことをされても許せる人は?”
フロランはそっとエリザベスの唇に触れた。短いけれど優しく触れた口づけに、エリザベスは自分の想いを改めて知った。唇に触れてもいいのは、そしてもう少し触れていたいと思うのは、ただ一人。
「フロラン、だけ…」
満足げに微笑むフロランに、今度はエリザベスから唇を寄せた。柔らかな唇が重なり、鼓動の高鳴りを感じた。どんなに引き離されても、身分の差を突き付けられても、相手のために引き下がるのが本当の愛だと言われても、どうしても消し去ることができない。
迷う気持ちは偽り。諦める決意は嘘。魂のかたわれを失っては生きていけない。
「フロラン…、…あなたを、好きでいて、…いい?」
”ずっと、好きでいてほしい。愛してる、エリー”
フロランに強く引きよせられ、重なる以上の口づけを受けた。少し怖いのに受け入れ、それ以上を求めてしまう。
フロランもまたこのままエリザベスと想いを遂げてしまおうとしたが、今はだめだと思い直した。叔父と話をつけ、エリザベスを安心させ、自分がエリザベスのもの、エリザベスは自分のものだとはっきりさせてからでなければ。今は受け入れてくれるだろうが、中途半端な状況のままでは結局エリザベスを不安にさせ、傷つけてしまうことになる。
これ以上自分のために泣かせるわけにはいかない。ひとりでずっと頑張ってきたエリザベスを、今度こそひとりにはしない。
爆発しそうな想いを押さえるため、フロランはあえてエリザベスを眠りに誘った。幸せで寝落ちするのはエリザベスの得意技、二度もがっかりさせられ実績は積んでいる。
エリザベスの体を受け止め、背中を優しく撫でれば抱き締める力が徐々に抜けていく。あれだけ泳いだ後だ。疲れも手伝い、眠気に抗えない。それでもしがみつこうと時々握りしめる力が強まり、弱まっていく。服を握りしめ、それが逃がさないと言われているようでそんな仕草にも幸せを感じ、それだけに自分を押さえるのをつらく感じた。
こんなチャンスをあえて逃す自分は愚か者かもしれない。しかし何の保証もない中、二年もずっと待っていたエリザベスの事を思うと、エリザベスには一切引け目を感じることのない、正当な愛を捧げたい。
再会してもなお続く試練に、何が何でも乗り越えてみせる、とフロランの決意は高まっていった。




