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ブリジット・レポート  作者: 河辺 螢
第五章 イングレイ編
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5-15

 二週間後にはフロランは仕事に復帰していた。

 まだ体調は万全ではなかったが、フロランの目には生気が戻っていた。

 フロランの担当分を減らすため、宰相は他の宰相補佐がフロランに押しつけた仕事は厳重注意の上、元の担当者に戻したが、仕事をさばけないまま三日後には仕事をやめた。やめた者の仕事は残った者で分けることになり、結局フロランの仕事は思ったほど減らせなかったが、属国に関する調査は本人が続ける事を強く希望したので、宰相はそれを認めることにした。


 必ず部屋に戻って寝る。食事は取る。毎日一度は仕事から離れることで、生活のリズムは整った。

 当たり前の生活に戻っただけだが、部屋で一人で取る食事は味気なく感じた。エリザベスもこの部屋で一人で食事を取っていた。そうさせたのは自分だ。せっかく一緒に暮らしながら少しもエリザベスに寄り添えていなかった。

 皇帝の命令ではあったが城を出ることになり、エリザベスはようやく自由になれたのだ。自分こそがエリザベスの一番の足かせだった。寂しくはあったが、エリザベスがここを離れてよかったのだと思えた。



 朝食を終え、コーヒーを飲みながら新聞に目を通していて、とある記事に目がいった。


 ブリジットの旅レポート


 ブリジット、レポート?

 たまたま昔そんな設定でエリザベスに無理な課題を押しつけたな、と学生時代の思い出に浸りかけたが、フロランは危うくせき込むところだった。思い出どころではない。そのレポートの中身はあの秘密のゴミ箱の中にあるエリザベスの手紙の書きっぷりに酷似していた。


 トリティークの東部には広大な麦畑、実ればさぞ圧巻。麦踏みに子供ははしゃいでいるが初めだけで半分もいかず飽きている。私も任されたら飽きそう。家でこねたパン生地をパン屋で焼いてもらうのはトリティークあるある。おつかい任されたらつまみ食い必至。ふすま、ライ麦,大麦混は普通、カボチャやひまわりの種、トウモロコシに豆、何かの種? いろいろ混ざっている。クルミは最高! ながら値段も最高(きっと好きだよね? いつか一緒に)。峠の道補修にようやく予算がおりたとか。喜ぶ住人だが「どうせ工事はあったかくなってからでしょ」とぼそり。早期着工求む。


 括弧書きは、自分へのメッセージだろうか。フロランは答えをつぶやいていた。

”好きだよ”



 溜まったまま後回しにされていた書類の中にトリティークの主要街道修繕の陳述書があった。その予算を承認したのはそれほど前ではない。地域の人に「遅い」と言われながらも喜ぶ声を聞けば嬉しいものだ。内戦の影響が残っているとはいえ帝都から遠いところほど対応に遅れを取り、不満も多いだろう。


 道の補修などは各地方にいる役人に税を預け、執行を任せるべきところだが、これまで帝国派住民の監視と税を取ることだけに主眼を置いてきた。領土を広げ、侵略を楽しむ先の皇帝らしい政策だが、そのままにしておくわけにはいかない。

 自分のした仕事が届いている。それを実感できたのは嬉しかった。後は実行に移せるかきちんと監視する仕組みが必要だ。




 エリザベスの記事を読んだ数日後、ようやく属国に関する全記録の洗い出しが終わった。

 予想通り、先の皇帝は大公との婚姻で大公国は自分のものになったと思い込み、何の手続きもしていない。攻め入らない約束は口約束ながら果たされ、大公国は敗戦国とはならず、当然敗戦に伴う一方的な条約も交わされていない。


 大公国では大公の配偶者には相続権はない。相続権は直系の子供に、子供がいなければ兄弟に相続権が移る。国家元首を連れ去り、むりやり婚姻を結んだところで皇帝はあの国を手に入れてはいなかった。大公国の大公はフロレンシオ。死んでしまった自分のまま、何の手続きもとられていない。

 属国として利用価値のなさを証明することが難しく、何とか切り離す属国に入れられる口実はないか、ずっと悩んでいた。だが属国でないなら話は早い。


 フロランは母の祖国に手紙を送り、大公家に元首の座を返す代わりに自分と家族を大公国で受け入れることはできるか打診した。

 帝国の属国から解除する国を選んでいるが、そこに大公国の名はない。その理由を書き添えた。

 受け入れるなら帝国の名で母と自分の死亡証明書を発行する。今のフロランにはその職権がある。



 エリザベスとの期限まで残すところ三ヶ月を切った。


 フロランの精神状態が落ち着くと、皇帝はまた新たな見合いの席を設けた。

 今度は多くの花を飾らず、二つに絞ったようだ。相対する派閥の家。両家を競わせるつもりだ。フロランはどっちにもつかず離れすの対応をし、両家を煽った。皇帝の希望通りに。



 帝国の属国から解除する国も決まった。

 フロランが作った草案は閣議で一部修正され、皇帝の承認を得た。

 その手続きと同時進行で、大公国の手続きを進めていった。


 イングレイの幽霊、フロレンシオ・バルリエ・ラングレイ。

 いよいよフロレンシオが死ぬ時が来た。


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