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ブリジット・レポート  作者: 河辺 螢
第五章 イングレイ編
59/59

5-12

 宿にあったトリティークの新聞にルージニアの文字を見つけ、一部買って朝食を取りながら読んだ。

 セリオンタイムズとは違う紙面構成だが、各地の記事は似ている。各新聞社が提携して記事を載せているのだろう。

 ルージニアの記事は、アビントンのことが書いてあった。


 フォスタリアの反帝国組織の残党がアビントンを襲撃、数名が城壁を突破してアビントンに侵入するも、アビントン辺境騎士団により殲滅。


 エリザベスが幼い頃から、商人に扮してこっそりと入り込んだ強盗団がアビントンで暴れることはあったが、城壁を突破されたことはなかった。被害は少なかったようだが、守りの堅さを謳っていた辺境騎士団への評価は落ちたことだろう。まあいつかそんなことになりそうな気がしたが。壁が崩れてきていると報告し、日誌に何度書いても誰も動かない。周りの石ころを積み上げ、埋め込んだりはしたが、そんなことで防げるわけがない。

 あの班長がもうちょっとまともだったら…。

 恋愛対象ではないが、これもまた男運の悪さの延長のような気がした。


 対応の遅れたヘンドリック・アビントン辺境伯を更迭、前辺境伯ダグラス・アビントン氏が復帰し、辺境騎士団の立て直しを図っている。


 どういうこと?

 エリザベスはもう一度言葉を確かめながら読んでみたが、それ以上のことは書いていない。しかし、あのヘンドリック・アビントンが何かやらかしたのは間違いない。



 エリザベスは入団してから一度も前辺境伯を見たことがなかった。国境の番人、誰もが信頼を置く鉄壁のアビントン辺境騎士団を作り上げた伝説の人。息子に辺境伯の座を委ね、領から離れ完全引退を果たしていたその人が復活するほどの事態が起こったらしい。

 エリザベスは団の歴史的瞬間を見逃したことをちょっぴり残念に思った。あの前辺境伯様がトップに返り咲こうとは。そうとわかっていたらもう少し我慢して団にいてもよかったのに。ダグラス・アビントン氏、お会いしたかった。


 しかし、これでよかったのかもしれない。ヘンドリックについて語るエルヴィーノはいつも舐めているところがあった。国の守りを他国の皇子に甘く見られているのはかなりまずい状況だった。エルヴィーノはあの独裁的な略奪者の血を引く人間だ。フォスタリアで反帝国派を潰していったあの感性でルージニアを標的にされたらたまったものではない。


 続報が知りたいところだが、他の記事に目がいった途端、アビントンのことがすっ飛んだ。


 ブリジットのセリオン・レポート


 なぜこの記事がトリティーク新聞に!

 記事の内容は確かにエリザベスが書いたものだった。

 地ビールの祭典で羊の丸焼きに舌鼓を打ち、絶品ウインナーは白がおすすめ。ビールは飲み比べ、地元のおやじ三人を相手に勝利し、ただ酒で追加の乾杯。概ねそんなことを書いた、そのままが載っている。

 それにさらにコメントが追加されている。

  ビール祭りは二週間続き、このレポートを読んだ観光客が村を訪れてビールを楽しみ、例年になく売り上げが伸びた。来年は読者諸君も参加してはいかがか。


 …新聞とは、遠くの記事を伝え合うものだ。

 エリザベスがルージニアにいながら帝国のニュースを読んでいたように、新聞社は連携し、遠く離れた所の事件を伝えるのが仕事。とはいえ地方新聞の小さな地方ネタ、素人が書いた旅日記を、何故他の新聞が採用するのだろう。 



 トリティークのレポートは、昨日送ったばかり。

 地元の人が読んで大丈夫だろうか。何の配慮もごますりもなく、思ったままを書いてしまったことを、エリザベスはちょっぴり不安に思った。


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