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ブリジット・レポート  作者: 河辺 螢
第一章 学校編
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1-2

 学校では西の大国イングレイ帝国から来た留学生のチューターをすることになった。

 フロラン・バルリエという同学年の男はイングレイ帝国の由緒ある家の出らしいが、爵位はないらしく、気遣いなく普通に接していいということだった。留学期間は1年間。この国での生活に慣れるようサポートするのがチューターの役目だが、同性があてがわれるのが普通なのだが…。


「エリザベス・シーモアです。これから一年間、よろしくお願いします」

「かわいい名前ね、エリジャベシュ。よろしくね」

 自分の名前がさらにかわいい名前になって返ってきた。愛想よくにこりと笑って手を差し出してきた彼に悪意はないだろう。エリザベスは笑顔で差し出された手を握り返した。


 フロランはルージニア語は問題なく理解できるようだ。語学が苦手なエリザベスは最初の障害がなくなり安心した。背はすらりと高く、金に近い淡い茶色の髪に深い緑の目、見せる笑顔は優男そのもの。整った顔立ちは女の子受けし、遠くで頬を染めて見つめている女子学生もいたが、エリザベスの心を射止めるまでには至らなかった。


 校舎も寄宿舎も男女で分かれているこの学校では、性別が違うと一緒にいる時間はほとんどない。名前だけのチューターだと割り切り、エリザベスはまずは学校の中を案内し、知り合いの男子学生に声をかけて交流のきっかけを作った。人懐っこいフロランは、はじめに紹介さえしておけば後は勝手に友人を増やしていった。その後は会えば挨拶して、何か困った事はないか聞いてはみたが、いつも笑顔で「ダイジョブ」と答えた。その確認も週に一度あるかないか。思ったより楽な役目だ。



 ひと月も経つと学校生活にも慣れてきたようだ。エリザベスがフロランを見かける時はいつも女の子が隣にいた。それも毎回相手が違う。本人が言うには

「彼女じゃないよー? 女の子、一緒にいると楽しい、ね?」

と悪びれもしない。相手も笑って頷いているのでそれでいいのだろう。そこはエリザベスが関与するところではない。

 そう言えば、イングレイでは女性に声をかけるのは礼儀、女性を褒めないのは野暮なのだと聞いたことがある。あの顔でそれを実践してれば、まあ引く手数多だろう。どんなにモテようと、女の子をとっかえひっかえしてようと、関わり合いにならなければ問題ないはず。と思いはしたが、もしもめごとが起こったら、チューターも呼ばれるのだろうか。エリザベスはふと心配になったが、呼ばれたとしてもフロランを擁護する気は全くない。知っている事実を淡々と述べ、学校から指導があればそれに従うだけだ。



 家に帰れば帰ったで、月に一度程度見合い相手のトニオに会うことになっていた。これがまた楽しくない。いつも口をへの字にして、挨拶の仕方や着ている服などのチェックから始まる。

「今日も似合ってない格好だな。自分を理解できていないのか?」

「品のなさがにじみ出ている」

「礼儀も言葉遣いもなってないな。そもそもスカートをはいていても女に見えない」

「そんな流行遅れな格好をして恥ずかしくないのか」

 まず褒められたためしがない。そしてこの日は将来を見据えた?有意義な?意見交換??をするとかで、

「結婚したらしばらくイングレイで過ごすことになる。君はイングレイ語が苦手なようだが、ちゃんと身に付けるように。私の仕事に役立つ社交的なふるまいを心掛けてほしい。女だてら剣を振り回したところで何の役にもたたないのだから」

 口に出すのは要求ばかりで、少々威圧的なところもあり、会話は弾まない。エリザベスが剣を得意としていることは知っていても、それさえも理解がない。


 別に家に借金がある訳でもないのに、金目当てでこの縁談をとりつけたと思われている節があり、正直言って気乗りしない。父にもそれとなく愚痴ってみたが、今縁をつなげられる中では上の部類なので、もう少し様子を見ろと言われた。


 結婚予定の男と言い、面倒を見なければいけない留学生のチャラ男と言い、元々ない男運は現在底辺にあると確信したエリザベスだった。


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