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ブリジット・レポート  作者: 河辺 螢
第一章 学校編
12/17

1-12

 フロランから受け取ったものは、宿題にしていたブリジット・レポートだった。イングレイ語で、しかも癖のある筆記体で雑に書かれていて、とてもではないがすぐには読むことができなかった。


 もう一つのプレゼント、かわいく黄色いリボンのついた包みを開けて、エリザベスは驚いた。

 あのスペンサー商会の近くの武器屋でエリザベスが欲しがっていたダガーが入っていた。何故このダガーのことを知っているのか。そして何故こんなに中身にそぐわないかわいいラッピングをしているのか。絶対にエリザベスを驚かそうと企んでいたのだ。その場で開ければよかった。きっとエリザベスの丸くなった目を見て大笑いしただろう。

 何となく悔しいような、してやられたような、だけど嬉しいような、寂しいような…、そんな気持ちがごちゃ混ぜになっていた。




 翌日、男子寮に豪華絢爛な馬車が横付けされた。留学中の某国の王族が帰国すると噂が流れ、ひとだかりができていた。

 半年ほど前にフロランが来た時には送迎などなく、ひっそりと入寮し、いつ来たのかもわからなかった。目を引く迎えはフロランがこの国に留まることを許さず、帰国する姿を周囲に見せつけようとしているように見えた。


 エリザベスが学校の門の近くに駆け付けた時、丁度馬車が通り過ぎようとしていた。窓から見えたフロランは髪はきっちりと整え、肩章や飾緒がついたスタンドカラーの上着を着ていた。一瞬目が合ったような気がしたが、あの人懐っこい笑みはどこにもなく、遠い人になっていた。

 ダガーのお礼さえ、ちゃんと言えてないのに。もう会うことはないのだ。

 ありがとう。元気でね。さようなら。

”サヨナラ、フロラン”

 エリザベスは小さな声でつぶやき、馬車が見えなくなってもなお、その道の先を見つめていた。





 ブリジット・レポートの中身は何が書かれているかわからないので、むやみに誰かに聞くこともできず、時間をかけてでも自力で訳するしかなかった。

 ようやく慣れてきた書き癖から文字を綴り直し、訳した内容は宿題に出したブリジットとの婚約に関する話し合いについて書かれていた。




 ブリジット・ラムジー公爵令嬢とフロレンシオ・バルリエ・イングレイの婚約解消についての経緯


 ルージニア王国筆頭公爵家であるラムジー家には直系血縁の後継者が生まれたため、フロレンシオ皇子を公爵家の後継者にすることはできなくなった旨通告があった。これに伴い、ブリジット・ラムジー嬢との婚約継続についてラムジー公爵家からは以下の要望が挙げられた。


 政情が不安定な帝国にブリジット嬢を連れ出すことは認めない。

 ケンジントン侯爵家の嫡男がブリジット嬢との婚約に名乗りを上げている。それ以上の好条件を出すなら再考する余地はある。


 本件はイングレイ帝国皇帝の命により実現したものであるが、皇帝は関心をなくしており、フロレンシオ皇子に一任された。

 フロレンシオ皇子にはルージニア王国に拠点はなく、皇家からの援助も期待できない。ケンジントン侯爵家以上の条件を提示するのは困難であるとの見解が示された。

 よって本婚約は解消することで合意し、イングレイ帝国での手続き完了をもって正式に解消となった。


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