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ブリジット・レポート  作者: 河辺 螢
第一章 学校編
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1-1

 アビントン辺境伯領はルージニア王国の西の果てにあり、中心都市ウィスティアは王都に次ぐ第二の都と呼ばれていた。アビントン辺境騎士団が国境と街を守っているおかげで治安が良く、人の行き来も盛んで、様々な物資が流れ込んでくる。


 その隣にあるシーモア領は小さな村が寄り集まった農業中心のごくごく小さな領だが、大都市の近くにあるおかげで農作物は売れ行きが良く、珍しい交易品も手に入れやすい。自領の特産品に加えて他国の果実をジュースやジャム、瓶詰に加工して売り、それがウィスティアだけでなく王都でも評判になって今や領の貴重な収入源になっている。まさにアビントン領様様だ。アビントンのコバンザメと揶揄する者もいたが、それはごもっともなご意見で恥ずかしいと思うことなどない。恥じることは感謝を忘れることだ。


 国境の都市には時に不埒な輩が侵入してくる。大抵はアビントン領内で辺境騎士団がやっつけてくれるが、警備の隙をついた賊に侵入されれば自領で対応するのが原則だ。そんなこともあり、小さな領ながらシーモア領にも警備隊が組織されていて、領主の子供達は率先して警備隊に入り、末娘であるエリザベスもまた幼い頃から剣を学んでいた。

 母親を早くに亡くしたせいで男兄弟と同じように育てられたエリザベスは、兄達にはかなわないものの、剣や格闘の腕はなかなかのものだった。実力主義の警備隊で鍛えられたエリザベスは男を立てるということを知らず、勝てない男どもの嫉妬が生んだ悪評もあって、年頃になっても浮いた話一つなかった。




 シーモア領内には初等学校はあったが高等教育機関はなく、エリザベスはウィスティアにある学校に進学することになった。王都に引けを取らない大きな学校は周辺の領の子女が多く通っており、教育の質は高く、他国からの留学生も受け入れていた。

 エリザベスは寄宿舎に入ったが、家はアビントンの北部に住んでいる人よりよほど近く、週末や長期休みには気楽に家に戻れた。実にありがたいご近所さんだ。


 一人娘が家を離れ、初めは変な男に引っかからないか心配していた父も、休みの度に帰って来てぐーたらするか剣を振り回し走り回る姿を見て、親としてきちんと相手を見つけてやらなければいけないと思うようになった。その話を聞いた母方の伯母が妙な責任感を発動し、コネを使ってエリザベスに見合話をとりつけてきた。


 見合い相手の名はトニオ・スペンサーと言った。アビントンで革製品の製造・販売をしているスペンサー家の三男で、エリザベスよりは三つ年上。家業を手伝い、近いうちにイングレイ帝国の支店を任されることになっているらしい。

 ぺったりと油で固めた髪は風になびくこともなく、貴族であるシーモア家よりよほど良い仕立ての服を着ている。婦人用のバッグが王都で評判となり、商売は右肩上がりという噂は本当のようだ。


 にわか仕立てで着飾ったもののぎこちなさの残るエリザベスをトニオは冷たい目で見ていた。終始不機嫌そうな顔をしていて、エリザベスのことを気に入った様子は全くなかったが、どういう訳かこのまま話を進めることになった。

 エリザベスはできるなら向こうから断ってほしかったのだが、向こうもまた見合い結婚やむなしと割り切っているようだ。小さいながらも領主の娘、爵位を持つ家とつながりがあることは貴族と商売する上で信用につながるものだ。


 即断られなかったことに父は喜んでいたが、エリザベスは自分に興味がないどころか嫌悪感を持っているように疑われる相手に気が重くなり、溜め息しか出なかった。


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