従業員が出来ました……(照)
どうも、初モンスター討伐を果たしたテイルです。
まあ、パーティーを離れて地味に生涯を終えるんだろうなと思っていたのが一体どうしたと言うのだろうか……。
今……凄く新鮮……。年甲斐もなく、ワクワクしている……。
Dクラスのシールドジャックウルフを初討伐し、いや、私自身で倒した事でだが。
何とかケットシーの村猫達を救ったのだが、村は滅茶苦茶で全滅に近い状態で、どうせ復旧するのならと私達の店の傍に引っ越す事を提案し、即決で荷物をまとめて移動中である。
1㎞以上の距離がある訳ではないので、直ぐに到着した。老若男女130匹程いるそうだが、村を建て直す土地としては充分だ。
「スゴいニャ~ッ!」
「感動ニャ!」
場所を見てケットシー達が感動している。
こんな場所がある事自体ケットシー達も想定外だった様だ、森の奥だと余程でない限り条件のいい場所なんて見付からないだろう。
私は長老達にこの場所に……と話ながら指を指した。長老達も納得して、良い日差しの中で早速村作りが始まった。私達も一緒に取り掛かる事に。
雌や子供達は、私達の家の中で飲み物やおやつ、それから食事等を用意してもらう事にした。雄達は材料の切り出し、と言ってもニーニャが斧で次々と斬り倒すので、それを運んで更に切り分けて板状にしていく。
それを今度は何匹かに分かれて、家を建てていく。人間用の家とは違って2階建てでも、人の平屋位の高さでしかない。なので、ニーニャの助けもあって40件程の家が出来上がった。ホントに早い!逆に私は何の役にも立たない……それはそれで寂しい。まあ、家を建てられる程のデザイン知識がある訳ではない。任せた方が良さそうだ。それなら周りに柵を作る事にしよう。
私は丸太を2m位の長さに切り出し、端を削って尖らせる。地面を掘り、30~50cm位丸太を尖った方を上にして並べながら埋める。木と木の間には四段位で双方に10cm位の孔を開けて枝木位の太さの木を20cmずつに切り分けて差し込んでいく。更に丸太の壁を支えさせる丸太を斜めに埋めてつっかえ棒にして間隔を取って埋めていく。それを店の角から森側に囲って行き、泉の側まで作りあげた。ナクトを含めて何匹かの猫達が手伝ってくれて、何かしらの感謝を言われながら私も照れつつ、話をしながら作業したことですっかり懐いてくれた。
「休憩ですニャ~~!」
雌のケットシー達が、飲み物と菓子を持って運んで来てくれた。村の中央にみんな集まって、切り株等を椅子がわりにして腰掛ける。
「ありがとうございますニャ、素晴らしい村が出来ますニャ。」
村長が改めて私達にお礼を言って来た。
「いえ、いいんですよ。これでいつでもナデナデ出来そうですし…。」
「ニャんて?」
「い、いや、何でも……ははは……。」
私はケットシー達の安心した楽しそうな顔を眺めた。これで良かったんだよな……。そして村長に先に話した事を改めて誘ってみた。
「それで、私達はこれから武具屋を営もうと思ってます。貴方達何匹かを雇いたいと思うのですが?」
「ニャんと!ホントに良いのですかニャ?」
「ええ、工房の方で腕に自信がある雄を5匹程。店の方には雄と雌を2匹ずつ……あ、当然給金は払いますよ。」
「分かりましたニャ。皆に話して募ってみますニャ。」
「宜しくお願いします。」
私は頭を下げて、提案を受けてくれた事を感謝した。村長達も猫達が居る中央に進んで、全員を見渡す。
「皆に話があるニャ。今回、我らはテイル殿とニーニャ殿に助けられたニャ。更には村を建て直す手伝いもしてくれたニャ。」
「そうニャ!」
「命の恩人ニャ!」
村長の言葉に猫達が同調する。
「そこでニャ!テイル殿はここで武具屋を営もうとしているニャ、我々何匹かを雇いたいと言ってるニャ!」
ざわざわと猫達が話している。あんまり反応が好くないかな?
「ニーニャ殿のサポートに雄5匹、店に雄雌2匹ずつニャそうニャ。給金も出るそうニャがどうするかニャ?」
今の話で更にざわついた。懐かれたと言っても、信頼して貰える程の馴染みではないしな……難しいか……。
と、半ば諦めていたが1匹が右前足をゆっくりと上げた。肉球が可愛い!ごほっ!
「店の手伝いをしたいニャ!」
そう切り出してくれたのは、一番懐いてくれたナクトだった。
「ニャ、私もニャ!」
今度は雌のケットシーが右前足を上げてくれた。
それに呼応して次々と前足が上がる。
「よし、決まったニャ!テイル殿、この9匹に決まったニャ!」
村長の傍に集まった猫達。店の方には雄のナクト、ニャース、雌のミリス、セルカ、工房には雄のキット、クルス、レング、バルンド、リムルスの5匹になった。
「みんな宜しく。」
「あたいも宜しくニャ!」
「任せてニャ!」
「宜しくお願いしますニャ!」
それぞれの挨拶を交わして、仕事は明日からと言うことにして今日はお祝いしようとなった。
村の中央に広場を作ったので、みんな集合する。飾り付けまでは間に合わなかったが、食事会をするには充分だろう。いつかはお祭りもしてみたいものだが……。
子猫達や老猫達もいる。姿は違えど、人の村に似ているなとふと感じた。
「乾杯ニャ~~ッ!」
村長のお付きのケットシーが、飲み物を高らかに上げると全員が呼応した。料理が振る舞われ、飲み物も飲み放題しているし、子供達もはしゃいでいる。親達も、驚きと微笑ましく見つめていた……子供達がここまで楽しそうな顔をしているのを初めて見たのだろう。決して危険が無いとは言えない…ただ前の場所よりは随分ましだろう。
飲み物を片手に料理を戴いていた。
これは、私のコツコツ貯めていたゼニーから出した物だ。村を建て直す間に、街に買い出しに行ってもらったのだ。そのメンバーの中にはミリスとセルカ、クルスとバルンドがいた。
「良かったニャ、テイル。みんないい顔してるニャ。」
「そうだね、これで少しは安心して暮らせるだろうね。」
ニーニャと並んで座り、飲み物と串焼きをつまみながら、ケットシー達を見ていた。ははは……ドンチャン騒ぎになってる……歌う猫……踊る猫……食べるのに必死になってる猫……話しに花を咲かせている猫……酔って寝込んでいる猫……良かった楽しそうで……怪我をしていた猫達も、ばか騒ぎはしないが一緒に楽しんでいた。全員無事…死んだ猫は居ないと言う奇跡は今回だけかも知れない……一緒に生活をしていく上で、気を引き締める思いだった。
「ニャァ…やっぱりテイルニャ、良い男ニャァ…。」
な!?ニーニャが頬を紅くして絡み付いてきた!
「ニーニャ、さては酔ってるな!」
「…もう、我慢出来ないニャァ、こんばん子作りするニャァ♪」
「ちょ、ちょっと待て!心の準備が!それに私の気持ちは?……あれ~~~~っ!」
その夜…………いや、止めとこう。それ以上は恥ずかしくて言えない……でも初めてだ、安心感があって心地好かったのも事実……今までも休んではいたが、とても休まる気がしなかった……それだけでもえらい違いだ……。何年ぶりかでぐっすり眠れた気がする……。
さて、早速次の日……お日様は大分上に上がってきていたが、猫達はまだ外に出て来る様子がない。
しかし、ナクト達雇った猫達は店に集まっていた。
ニーニャも早速とばかりに、工房に雄5匹を案内する。役割分担を決めるそうだ。
「テイル、また後でニャ。」
私にウィンクして工房に向かう。可愛い、ドキリとしてしまった……残った4匹がニヤニヤこっちを見ている。
「さ、さあ、役割分担しようか?集まってくれ。」
1つのテーブルを囲んで椅子に座る。人用なので、飛び上がって上に乗ってから座ると言うよりはしゃがむと言った方が正しいか……。
私はナクトとニャースに武具の展示や品揃えを頼んだ、ミリスとセルカには店内の装飾や掃除、接待をしてもらう事にした。勿論重そうな物は私か雄の2匹で持つ訳だが。
品物も、店内は入って右側に武器を。左側に防具を……通常の物と素材が少し良いものを並べる。そしてカウンターの後ろ側には、エンチャントした武器・防具や上位の素材や鉱石を使った武器や防具を並べることにした。
開店は後日にしたので、店内の整頓を4匹にお願いした。今日は、早速ニーニャと商業ギルドに登録して来ないといけない。そうしないと、後で面倒な事になる…なるべくそれは避けたい所だ。
丁度ニーニャも分担が終わった様だ。火を起こす猫、竈から取り出した鉄をニーニャが打ち込み、その鉄を押さえる猫、水を用意する猫、刃先を研ぐ猫、仕上げの手入れをする猫、最終検品はニーニャがするわけだが、どれも力仕事でそれぞれ重要な役割だ。1つでも怠れば、質の悪い武具が出来上がってしまう。
まあ、ニーニャがそんな妥協はしないだろうなプライドがあるだろうし……。
「ニ~~ニャ、商業ギルドに登録に行こう。冒険者ギルドにも話を通しておきたいし。」
「ニャ!?行くニャ……デートニャ、デートニャ、2人でお出掛けニャァ♪」
喜んで早速準備している。猫達全員にははあ~んと言う顔で見られた事は言うまでもない……。
私達は、店の準備を任せて2人で街へと向かった。
1km程離れていて、城がある訳ではないが城壁の様な壁で囲まれている街だ。“ラーガルド”と呼ばれていた。
領主も居るし、色んな店があり行商も往来している。中央には女神の像があり、周りを噴水の池が美しさを際立たせている。
道は四方に分かれていたり、入り組んでいたりしている。まあ、迷う事はないがはぐれないに越したことはない。
「テイル、手を繋ぐニャ。」
「へ?て、手を?」
ニーニャが手を出して来た、頬を紅くして照れているのが分かる。ダメだ……可愛い過ぎる……拒否なんて出来る訳がないではないか!私も照れつつ、そっと手を握った。……青春かっ!と自分の心に突っ込みをしつつ、商業ギルドへ向かうのだった……。
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街の中はいつも通りで普段から生活慣れしていて、拠点としていたので場所も道も分かる。ただ、ニーニャはこの街は暫くぶりで昔に一度だけ来たことがある様だがおぼろげにしか覚えていないらしい。大分様変わりもしているとも言っていた。まあ、街も発展していく訳だから、変わっていくのも分かるのだが
。
まずは目的である商業ギルドへと歩を進めた。
途中に露店が並んでいて、人通りも多い。獣人やエルフ、ドワーフ等、多様な種族が入り乱れていた。
昔から、種族が入り乱れた街でもあった。まあ、身分に関してはそれなりに思うところもある。
冒険者ギルドからは少し離れた場所にあるが、商業ギルドが見えてきた。
「さてと、ここが商業ギルドだ。登録を済ませよう。」
「そうニャね、ここからが本番ニャ。」
「ああ、ニーニャ、改めてよろしく。」
「よろしくニャ、ダーリン♪」
「な!?……ちょっ……しいぃぃぃ!」
いきなりダーリンって!……指を立てて口元に寄せて内緒だとリアクションする。ニーニャはウインクしながら舌をちょこっとベーっとする。なんて子だ!……可愛いから許す……ダメか?
扉を開けて中へと入る。中はテーブルが2つに椅子が8つその奥にカウンターがあって受付嬢が2人居た。
いかにもと言った感じの場所で、シンプル・ザ・ベストがよく似合う。必要最低限の物があるだけで、あえて言えば花瓶が1つ飾られているぐらいか……店では無いからな、そんな程度なのだろう。登録に来ている者も居ない……大丈夫か?
私たちはカウンターに進み、1人の受付嬢に声を掛けた。
「済まない、登録をしたいのだがどうすれば良いだろうか?」
「いらっしゃいませ、ギルドに登録されますか?でしたらこちらにご記入をお願いします。」
カウンター越しに申し込み用紙とペンを出される。
私は名前等を必要事項を書き込んでいく。勿論ニーニャの名前も一緒だ。
「そう言えば店の名前を決めてなかった。」
「ニャ!?そう言えばそうニャ。」
登録に来たのは良いが、肝心な店名を忘れていた。
「どんな名前が良いかなぁ?」
「ニャァ………。」
2人して考え込んでしまった。悩んでいる内に、書き込んだ分の確認を受付嬢がする。
「え!?もしかしてSSランクのテイルさんと、Aランクで武具職人のニーニャさんですか?」
「ああ、はい、そうなんです。2人で武具屋を始めようかと。」
「ええっ!ニーニャさんの武具が買えるんですか!」
もう一人の受付嬢がすっとんきょうな声を上げる。
「世間知らずで申し訳ない、ニーニャってそんなに有名人なんですか?」
ホントに申し訳ない、知らない事だらけだ。そんなに有名人なのか?
「はいっ、武具屋や武具職人の間では超有名人で、でも今まで店を構える事はなく、流浪の武具職人と呼ばれて会える事も滅多に無くて、会えても武具を売って貰えるかすら分からないと言われた、伝説級の武具職人です。その人が目の前に………光栄です!」
はあ……熱烈な説明だ、お陰で良く分かったけど。
そんな有名人だったとは……ランクSSに格上げでも良くないかい?
ニーニャもあんまり褒められて、顔を紅くして頬をポリポリしている。珍しい光景だ……。
「とうとう店を構えるんですね!」
「ニャはは……そうなるニャ。」
「た、大変!これは由々しき事態だわ!どちらにお店を?」
「街の外なんです。」
2人の受付嬢が浮き足だっている。
「そこまで驚いている所を見ると品物が良いと言うことなのかな?」
まあ、確かに私が借りた太刀だって見入る程の出来ばえだった…。
「はい、一般的な物もありますが素材や鉱石が上位のものもあり、上位ランクの冒険者も一目置いてます。下位ランクの冒険者はその武具を憧れてもいるんです。」
「ニャァ、褒めすぎニャ。」
ニーニャが滅茶苦茶照れている、やっぱり可愛いな……離さないからな。
「それで、いよいよ落ち着かれるんですね。」
しかし、まさかニーニャがそんなレアな人物だったとは……私の知識不足だ、情けないばかりだな……。
「それでお店の名前を決めて頂きたいのですが……。」
「ふ~~む、後はそれだけなんだが……。」
「ニャァ……いざとなると思いつかないニャ。」
う~ん困ったな、私達に似合った名前を考えるとすると………あ、待てよ……さっきの受付嬢さんの話からすると……。
「なあニーニャ、作っている武器や防具は量産品なのかい?」
「ニャ?一般的な物も作るニャけど、基本は使う者に合った物を作るニャ。一点物と言うやつニャ。」
やはりそうか、冒険者が稀に出会えたとしても作って貰えるかは、その冒険者次第……となれば……。
「じゃあ、“マリアージュ”なんてどうかな?」
……あら、ニーニャどころか受付嬢の2人も目を丸くしている。私が珍しくマトモな事を言ったらいけないのか?私は一体何者?
「意味は、“結婚”て事だけど別には料理にも当てはめられていてね、材料のバランスの取れた調和にする事で美味しいものが出来上がる、と言う意味あいもあるんだ。
それと同じで、ニーニャの作る武器や防具も、その冒険者に合った物を作り調和が取れる様に作る。確かに武器だけが強すぎても、防具だけが強すぎても成り立たない。だから、この名前が良いかなと思ってね。ニーニャもそう言う武具を作りたいんだろう?」
「その通りニャ、………ニャァ♪テイルはやっぱりあたいが認めただけはあるニャァ♪あたい達に合わせて“マリアージュ”ニャんて、照れるニャァ♪」
あららら、頬を紅くして身体をくねくねしならせている。全く、可愛すぎてとても武具職人と思えない位だ。い、いかん、抱き締めたくなってしまう……。
「す、凄いですね!素晴らしい名前だと思います。その名前で決定で宜しいですか?」
「はい、彼女も気に入ってくれた様なのでお願いします。」
「分かりました、お店の名前は“マリアージュ”で。」
よし!やっっと店名が決まって、本格的に商売が出来そうだ。
「ではこれがギルド証になります。」
「ありがとう。」
「繁盛を期待しております。」
私達はギルド証を受け取り、商業ギルドを後にした。ニーニャも受付嬢の2人とすっかり馴染んでいたようだ。帰る時には、友達に近い感覚で話をしていた。意外と人見知りじゃないからな、話せば逆に人懐っこい性格だ。
さあて、私達の思いが伝わるお客さんがどれだけ来てくれるのか……楽しみだな………。