開店前の下準備。
私はテイル。SSランクの肩書きは付いてはいるが、鑑定しか能のない戦いはからっきしの冒険者だ。
パーティーからも見放され、薬草や茸を採取する毎日……。
しかし、突然現れた猪モンスターと猫獣人の女の子に翻弄されまくりの私である。
確かにモンスターから助けてくれた彼女、しかしとんでもない誘いを受ける事になった。
「一緒に武具屋を開こうニャ。」
「わ、私と?」
「あたいは“ニーニャ”ホワイトパンサー種ニャ。武具を造る鍛冶職人をしているニャ。」
「か、鍛冶職人なのかい?」
驚いた!人は……いや、獣人は見かけによらないと言う事か……。でも可愛い……はっ!いかんいかん撫でたくなってしまう!落ち着け、落ち着くのだ私……。
「そうニャ。作った武具を他の武具屋に売って生活しているニャ。ニャけど自分の店を開きたかったニャ。今まで相棒が見付からなかったニャ……。」
残念そうな顔のニーニャ。成る程、確かに独りじゃ切り盛りは難しいだろう。かといって相棒が誰でも良い事にはならないと思うが……。
「で、でも何で私なのかな?他にもっと使えそうな人材は居ると思うが…?」
「今まで、あたいが作った武具を褒めてくれた奴等は居なかったニャ。あんただけニャ。」
わ、微笑んだ顔も可愛い……ご、ごほんっ!
う~ん、さてどうするか……今のままだと私もジリ貧になりそうだし、武具屋を営んでみるのも大変だろうけどやり甲斐もありそうだしな……また独り生活もこれから寂しい気もするし……よし!決めた!
「私はテイルだ。君の話に乗るよ。」
「ニャ!ほんとニャか?」
「ああ、宜しく頼むよ。」
と、手を出して握手を求める。彼女も握手を交わしてくれた。
「宜しくニャ相棒!」
え!?わっ!抱きついて来た!いや、ま、待って!心の準備と言うものがっ!
襲われるぅ、嫌じゃないけど……。
ま、まあ、勿論それ以上は何も無いわけで。
「ニャ?テイルって、もしかしてSSランクの冒険者ニャか?」
ニーニャが思い出したかの様に驚きながら問い掛けてきた。
「は、はは、肩書きだけだから気にしないでくれ。」
「やっぱりニャ!でも、ニャんで独りニャ?」
私は相棒に隠しても良くはないと思い、今までの経緯を話した。これから一緒に商売をする上でも、情報は共有しておく方が損はない。
「…ニャ…ニャんて奴等ニャ!SSランクの風上にも置けないニャ!」
事の次第が分かって貰えたようで何よりだ。
「まあ、ローグ達のメンバーは今でも繋がりがある。クエストには一緒に行けないが、彼等の戦利品を鑑定してあげたり、モンスターとの対処法を話したりしているよ。」
「そうニャんだ、それは良い奴等ニャ。」
「ああ、その通りだよ。だから私は彼等には申し訳ない事をしたと思ってる。」
今でも寂しさがこみ上げる。彼等にされた酷い仕打ち……一緒に同行してやれない歯痒さ……何も出来なかった自分自身……人の背負になど出来る筈もない。
「でもそれはテイルの責任じゃないニャ。」
「ニーニャ……。」
「悪いのはテイルのスキルを過小評価してパーティーから追放して、更に他のパーティーにまで迷惑をかけた奴等ニャ!」
ハンマーで叩き潰すと息巻いている。まてまて、そのままの勢いで行っても返り討ちだから。でも、同情してくれるだけでも私には気持ちが少しは晴れた気がした。
「あたいはAランクニャが、ソイツ等には負ける気がしないニャ!」
「い、いや、分かった!分かったから落ち着いてくれ。…ってか、ニーニャはAランクだったのか?」
全く驚く事ばかりなんだが。鍛冶職人のランクが上位と言うなら分かるが、冒険者ランクでとは……私のSSランクと交換してくれないかな?無理だろうけど。
「そうニャ。材料や素材を集めに行くのに、クエスト受注が必要ニャ。ニャから冒険者ギルドにも登録しているニャ。」
「あ、成る程そう言う事か。」
確かに、鉱石にしてもモンスターの素材にしても、勝手に取る訳にはいかない。クエストで行く分には問題は無いと言う事か、確かにその方が安全でもある。
「分かったよ、危ない時には宜しく頼むよ。」
「任せるニャ!」
さて、話がまとまったのは良いが、猪モンスターの処理と住居や店を何処に構えるかだな……。
長々と留まって話してしまったが、よくこの森の中で他のモンスターに襲われなかったな……まあ、ボス系のモンスターが側で倒れてれば簡単には近寄って来られないか。まずはここから引き上げるとしよう。
「ニーニャは家は何処にあるんだい?」
武具を作って…と言うんだから、どこか工房があるんだよな?
「街と森の間にあるニャ。」
ほう、街の中じゃないのか……。
「じゃあその前に、こいつをどうにかしなきゃだな。」
側にある巨体を見て解体が必要だと思った。だが、どうやって運ぼうか……?
「ニャらあたいに任せるニャ!素材は貰っていいニャか?」
「あ、ああ。任せるよ。ニーニャは解体まで出来るのかい?」
まさかな、解体まで出来るなんて……やっぱりランクを私と交換してくれないかな?ダメか?
「お任せニャ!ニャら早速!」
ワオッ!牙と角は素材として取り除き、後は皮を剥いで肉と分け肉も小分けにして収納出来るようにしている!
何という手際の良さ……ワイルドだ……リアルなサバイバルを見た……。
「すごいじゃないか!そこまで手際が良いと感心するよ。」
「ニャ、ニャはは…照れるニャ!」
私はあるものを取り出す。実は私には魔法の収納バッグがあり、唯一荷物持ちでもあった私が携帯していた高級アイテム。大きすぎる物は収納が難しいが、小さくする事が出来ればかなりの量の物を収納することが出来る。まして、モンスターなら解体してある方が、売るときに若干ではあるが引き取り値段が高くなる。今、ニーニャがかなり丁寧に分けてくれたので自分達の食料分と、売れる分で高めに売れるだろう。いい仕事をしてくれる…。
「ニャ!収納バッグニャ!良いニャァ……。」
「あれ?持ってないのかい?」
「ニャァ……あれ、なかなか高いニャ。」
ああ……そうか、意外と収納バッグはサイズが3種類あるが、どれも値段が張る物だよな。そう簡単には持てないか……バッグに関してはありがたい事だ。さすがに大のタイプはあげられないので、中のバッグをニーニャに差し出した。
「これを使うと良いよ。」
「ニャッ!こ、これをくれるニャか?」
彼女の顔が満面の顔になる。私は頷いて彼女に渡す。
「ありがとうニャッ!!」
わっ!抱き着かれて後ろに倒れこむ。だから、さっきも言ったように心の準備がぁ……窒息。
「ニャ!?テイル?…テイルニャ!?」
しばし、夢ごごちだったのは内緒にしておいてくれ……。
早速一通り収納してと……。
「じゃあニーニャの工房へと向かおうか。」
「分かったニャ、こっちニャ。」
ニーニャが先頭になって歩き出す。私は後をついていく……。
1度森から出てその森を横づたいに歩いて行く、500m位だろうか……煉瓦の建物が見えた。平屋だが、自宅と工房に分かれているらしい。
周りは、街側には草原が広がり、反対側には泉が建物の横にありつつ、その奥が森に続いている。晴れた空から照らされる太陽の光は泉や工房を綺麗に写し出す。これ…森の傍です…よね…?いくら泉を挟んでいるとはいえ……モンスター大丈夫なのかな?
ただ、水を使いたい時には重宝だな。炎を起こすには薪になりそうな森の木々があるし……条件は良さそうだ、それでこの場所にしたのなら納得だ。
「まずはどうぞニャ。」
私は促されて中にはいる。小綺麗だが、豪華と言う事はない。いたってシンプルで使い勝手を重視している感じの部屋だ。これはこれで、良いと思う。私も嫌いじゃない。
「こっちに座ってニャ。」
椅子に腰掛けると、テーブルに果実水を出してくれた。ほとんどが木造で、椅子もテーブルも木を使っての手作り。
ベッド等も木での手作りだが、角や要所に柄を彫り込んであったり、装飾を施してあったりとお洒落感がある。ここまで凄いのに何故認められないのか……。
「なあ、ニーニャは何処に店を構えたいと思う?」
一番の疑問を投げ掛けてみた。一緒に経営するにしても、場所をどうするか……。
「ここじゃダメニャか?」
「ん?ああ、ここかぁ!」
そうだ、そうだな!街中で他の武具屋と張り合うのもありとは思うが、トラブルになるのはゴメンだし……お客が来るかは別として、工房を増築して店舗も作ってしまえば良い。そうすれば、丸ごと新築する必要は無くなるしな。
「いいね!増築して店舗を作れば一石二鳥かな?」
「それ良いニャ!店を作ろうニャ!」
「決まりだね!早速始めるかい?」
「そうするニャ!」
私達は、増築の為に早速材料を集める事に。
…………いや、あの……ちょっ……ニーニャさん……貴女何者!?
何処からか巨大な斧を取り出し、森側の大木をバタバタ切り倒していくじゃありませんか!!私が唖然としている内に、あれよとログハウスのような店舗が出来ちゃった……夢か?夢なのか?私がおかしくなってしまったか?マジか!?
扉も窓も出来ていて、カウンターやテーブル等がある……魔法でも使ったかな?いや違うか……やっぱり私の頭が……。
「ニャ、上出来ニャ。」
リアルか~~~いっ!
信じられないっ!何日もかかる作業を数時間で終わらせるだなんてっ!
奇跡だ……私は奇跡を目の当たりにしているのだ……はは……ははは……ここまで来たら、簡単には動揺しないぞ。何でも来いだ。
「あの…ニーニャさん、貴女凄すぎ……。」
「ニャ、ニャはは……照れるニャ。」
耳の後ろをポリポリしながら照れている彼女……何故だろう可愛い過ぎる……。
「で、売る武器や防具は出来てるのかい?」
「ニャ、並べる分は用意してあるニャ。あとは特注になるニャ。」
「特注?」
「そうニャ、エンチャントが掛かった武器や防具を造るニャら日にちもかかるニャし、価値も上がるニャ。ニャから特注になるニャ。」
「おお、成る程ね確かに。」
私もそれには納得だった。当然と言えば当然だ、材質は違っても作った武器や防具は標準だ。これに、何らかのスキルのエンチャントが付いたならその武具は特別になる。より強いスキルなら尚更だ。彼女はそれを造る事が出来る職人の様だ。ほんっとに何回も聞くけど、ランク交換しない?
貴女の方が俄然SSランクなんですけど!圧倒的だろ!
ダメだ……気持ちを切り替えよう。
「分かった、私は武具を展示するよ。ニーニャはさっき取ってきた素材で武器を造るのかい?」
ボス系の猪の牙と角を別に収納していた。防具に使うかもしれないが、使おうとしているのは明らかだ。
「ニャッフッフ、秘密ニャ。」
ニヤリとして、秘密と言い張るので任せる事にした。まあ、私には鑑定は出来ても造る事は出来ない。
ニーニャならどんな武具を作っても、素晴らしい物が出来るだろう。
私は店内の準備を始めた。武器や防具を並べて飾り、見映えを良くしていく……値段もピンからキリまで。何故なら、ランクに合わせた物がないとパーティーによって予算と言うものが出てくる。私も冒険に出ている頃は、ポーションや毒消し等必要な物を揃える必要性があった……資金繰りを任されていたこともあって、それぞれのランクのパーティーの予算もザクッとだが分かる。なので、値段が高いものばかりとはいかない。そこそこの値段で材質はちょっと良いものを。なのでピンキリなのだ。
ニーニャも工房に入って行った、作業に取り掛かる様だ。
……今更だが、私が武具屋を……なんてな。今まではこんな発想は無かったしな、ニーニャには感謝だな。
帳簿や金庫、釣り銭等を用意してカウンターやテーブルを拭いて、準備を続けていた時だった……。
「ニャ~~ッ!た、助けて欲しいニャ!」
思い切り勢いよく扉を開けて入り込んできたのは、
小人?いや、身長は確かに膝より上だが体型や姿は猫!?しかし、二足歩行?服も着ていて言語を話す種族“ケットシー”だ。
だが、一体どうしてこの種族がこんな所に……?
何がなんだか分からないまま、先ずはと椅子に座らせるのだった…………。