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別れと出会い………。

「……済まない、君はもうパーティーを辞めてもらう。」


 


「………え!?」


 


 その日、私は突然パーティーを辞めさせられた。


 私はこの街“ラーガルド”で冒険者となり、パーティーに参加し長く付き合って来た。ここじゃ古参の内に入るだろう。頑張ってランクを上げてSSランクになるまでサポートし、付いてきたつもりだった……。


 そこは、ギルドの酒場ではなく、もう1件の別の酒場で解雇を言い渡されたのだ……。


 その酒場は冒険者ばかりではなく、一般のこの街に住む住民も飲みに来る所で2階席もある。賑わいは良い方だ。そんな中、円卓を囲んだ席で話を切り出された。


 確かに私は前衛に立って戦う事は出来ないし、だからと言って後方支援の様に魔法を駆使して攻撃したりサポートする事も出来ない……じゃあ何故この上位ランクのパーティーに居る事が出来たのか……単なる荷物係と言うのが本音だが、唯一私に身に付いたスキルが武具鑑定。武器や防具をその場で鑑定出来るため、材質や強度・魔法付与エンチャントされているのか?或いは呪われているとか等々、武器や防具・材質に特化した鑑定スキルが私にあった為に、拾った武具や宝箱から出てきた武具の鑑定に使われてきた。


 だからその場で鑑定し、武器や防具は持ち帰る訳でなく、それを各々が良い武具は装備してしまう。私の他には男戦士、女魔法使い、男僧侶、女弓使いの四人がいて、まあ冒険に出るには必要な職業だろう。まして、階層が多かったり強い魔物が居るダンジョンに挑むなら尚更だ。


 武具が見つかると、直ぐに私が鑑定しそれを割り振る。戦士用であったり、魔法使い用であったり僧侶用であったり……ただ私には鎖かたびらどころか皮の鎧だった、ましな方だろう。武器と言っても、扱いが得意でもないので、ダガー…用は短剣だが切れ味は保証し……まあ、護身用に身に付けているに過ぎない。


 なので、良い装備はほぼ彼らの物となっていた。それでも彼らが強くなっていくのを見るのが一つの楽しみにもなっていた……後々、捨てられる事にも気付かずに……。


 


 パーティーネームは“アルザム”、男戦士がリーダーで名前は“アル”茶髪の二枚目で好青年の様な印象だ。


 男僧侶は“ナムド”黒髪の短髪で鎖の付いた眼鏡を掛けている。


 女魔法使いは“サーナ”栗色のロングヘアで、エンチャントされているイヤリングを装備している。


 女弓使いは“ムエナ”褐色の肌に、薄い水色のポニーテールをしている。


 四人が四人とも、私の鑑定によって貴重な武器や防具を装備していた。


 そのパーティーリーダーであるアルからの宣告だった。


 


「な、何故?」


 


 私は疑問を投げ掛けていた。


 


「分からないの?」


 


 女魔法使いのサーナが含みのある笑みを浮かべながら問い返してくる。


 


「済まないが、貴殿とはこれ以上は無理だと判断した。」


 


 男僧侶のナムドだ。僧侶の割には冷たい事を言うものだな……。


 


「だって、鑑定しか出来ないし戦う事も守る事も出来ないじゃない。」


 


 女弓使いのムエナだ。一番言い返す事の出来ない所を突いてきた。確かに、戦闘や守りには特化していない。武器や防具も最低だ、モンスターに襲われれば一撃であの世行きだろう。まして上位のダンジョンやモンスターとなれば尚更……要は“お荷物”と言いたいのだろう。SSランクに昇格した時点を狙っていたのだろう、思慮深い事だ……。


 私にとってはランクなどあまり意味を成さない気がするが、上位のレア武具がゲット出来るのは有難いところではある。


 


 ああそう言えば、済まない私の名前を言ってなかったな。


 名前は“テイル”だ、歳の割には落ち着き過ぎだとよく言われる。鑑定を生業にしているせいかじっくり見る傾向にある様だ……と言っても見たからと言って役に立つことはあまりないのだが……。


 


 まあ、まずはこの状況だ。この分だと、パーティーに残して貰えそうに無いな……しょうがないか実際何も出来ないし、私が居たんではSSランクの信用に関わるか……私としても肩書きだけのランクなんて要らないしな……。


 


「……分かった、パーティーを抜けるよ。今まで世話になった。」


 


 そう言って私は席を立ち上がり、その酒場を後にした……未練?いや、意外とその感情はなかったのを覚えている。自身の不甲斐なさで申し訳なさがあったから……。


 それが未練だって?そうなのかな?


 


 私はどうやって宿に戻ったのか記憶が無かった…明日からどうするか…色んな事を悩んでいたから。


 


 


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 


 


 次の日……いや、違うな数日が経っただろうか…宿の部屋に籠りっきりだったので宿屋の主人も心配していた様だが、このままでは手持ちも底を尽きるし仕事を探さねば命に関わると思い直し……仕方がないがギルドへ行ってみる事にした。


 久々に少しは身なりを整えて、ギルドへと向かった。道中、元のメンバーに出会したくないと祈りながら向かう。


 絡まれるのもめんどくさいと思ったからだ。


 何とか会わずにギルドの扉の前には着いた。後は、中に居ないことを考えつつ扉を開けた。


 


 中はそれなりに賑やかだった。受付嬢は5人、冒険者達は多数。パーティーを組んでいる者達もチラホラ見受ける。


 私は1人の受付嬢の所に行くと彼女から話し掛けて来た。


 


「こんにちは、今日はメンバーの方達は一緒ではないのですか?」


 


 我々の事をよく知っているだけに、そう聞いて来るのは当然だろうな。周りにメンバーが誰も居ないのが不思議なのだろう、私も複雑な気分だ。


 


「済まない……私はメンバーを解雇されてね、出来ればランクの低い薬草や茸の採取クエストはないかな?」


 


 恥ずかしながら、受付嬢にクエスト依頼があるかを訪ねる。えっ!?っと驚いた様子だったが、納得したように依頼書を出してくれた。


 


「こちらのクエストにされますか?」


 


 丁度、茸と薬草の採取クエストだった。Eランクの冒険者クエストである。


 報酬も安い物でそれなりの数を集めないと、資金不足になる。だが、私にはこれぐらいしか出来そうにない。モンスターと張り合う事が出来ない私には……。


 


「じゃあ、その………。」


 


 そのクエストを受注すると言おうとした時、声を掛けられた。


 


「すみません、テイルさんですか?」


 


 声のする方を振り向くと、4人の冒険者パーティーの姿があった.男2人と女2人の若いメンバー。斧を使う男の戦士に弓を使う男のエルフ、女魔法使いと女僧侶である。


 


「今、お一人と聞きました。是非一緒にパーティーを組みませんか?」


 


 リーダーらしい、男の戦士が私と組みたいと言って来た。


 


「い、いや……私は……。」


 


 自信が無かった。こんな役立たずでは、厄介者なだけ……断るしかないと思っていた。


 


「貴方の経験と鑑定の力を貸して下さい!」


 


 今度は女の僧侶が言って来た。良い青年達だ…私がこの中に加わって良いものだろうか?だが、悪い気がしない事も事実……。


 


「私が加わる事で、皆さんに負担になるかもしれない。それでも構いませんか?」


 


 4人の顔が明るくなった。


 


「ありがとうございます、宜しくお願いします!」


 


 そう言って握手を交わして来たのは男の戦士である“ローグ”、女の僧侶が“アイリ”、男のエルフが“シルード”、女の魔法使いが“エルミナ”と名のった


。Eランクの駆け出し冒険者の様で、何度かランクに合わせたダンジョンには赴いてはいたらしいが、いかんせん知識と経験が足りずクエストの失敗もあったと言う。だが、新人の冒険者ならば当たり前の事で失敗のない者など珍しい位だ。


 私は少し自信を落としている彼等を励ましていた……私の方が、よっぽど自信を失くしているというのに……。


 しかし、彼等を挫折させないようにサポートしようと思った。威張れた事ではないが、彼等を強くしてやりたいと思えたからだ。


 こうして私は少しく報酬を得る事になり、食い繋げる事になった。どこでどう転ぶか分からないものだ。


 準備からサポートし始め、ダンジョンに赴き宝の鑑定をし、良い武具や装飾品は振り分け残りはお金に換金した。その分は私は要らないと言った。報酬で十分だと……何故って鑑定とモンスターと戦う為の知識を提供するだけで、私が戦っている訳ではないのだから……。


 私にとっては新鮮で、楽しかった……私の事を雑用ではなく、メンバーとして気軽に話してくれたのは嬉しい事だった。


 しかし、それもほんの束の間……彼等がDランクに昇格して間もない頃、事件は起こった。


 ギルドに集まった時に、皆の顔が青ざめ、下を向いたまま黙っていた。よく見ると今まで見付けた武具や装飾品が見当たらない?どうしたのかと訪ねると、女の子2人が泣き出してしまった。


 


「ここでは何ですから……。」


 


 と、周りの目を気にして受付嬢が奥の部屋に案内してくれた。


 只事ではないと受付嬢も悟ったのだろう、ギルドマスターの“リューク”を呼んでくれていた。


 部屋の中は、長椅子がありテーブルを囲う様に置かれていた。


 皆長椅子に腰掛けると、戦士のローグが私と組むのを辞めたいと言い出した。


 不審に思い事情を聞くと、私が居ないときにアルザムの元メンバー達が待ち伏せし、彼等の貴重な戦利品を奪い、挙げ句に私をメンバーから外さなければ……と脅されたと言うのだ。普段は温厚で冷静と言われ、怒った姿など見られた事のない私だったが物凄い形相で、歯茎と両手の握りこぶしから血が滲む程だった………。


 ギルマスも、事が事だけに事件として証拠を掴むために動いてくれた。私も後悔していた、彼等は思慮深いだけではなかったか……と。


 唯一可愛いかったのは、僧侶のアイリと魔法使いのエルミナが私に泣き付いて来たことだ。組むのを辞めたいと言ってはいたが、4人とも私とまだパーティーを組みたいと言う。そう言ってくれたことが私の救いにもなった……しかし、だからと言って私が一緒に居れば彼等が危険に晒される、まして私には彼等を守る術がない。彼等を鍛えたとしても、まだまだランクが違い過ぎるのだ。


 彼等も苦渋そうではあったが私がメンバーから抜ける事で、彼等に害が及ばなければそれで良い。彼等には納得してもらい、離れる事になった……。


 だが、普段冒険者としてではなく一般人として逢おうと約束をした。完全に離れてしまうのは私としても忍びない、彼等にも少しだけ笑顔が戻った……私もその笑顔で、少しだけ癒された気がした。自分には何も出来ないことが歯痒くもあった…………。


 


 


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 


 それから、三週間が過ぎた。ローグ達メンバーとは彼等がクエストから戻って来た時に会ったりしている。大っぴらにとはいかないので、なるべくお忍びで。その時には彼等の戦利品を鑑定したり、モンスターとの戦う方法等を話していた。こんな私の話を真剣に聞いてくれる……泣ける話だ、しかも役に立つ話ばかりだとも言ってくれる……済まない、涙脆くていけない……。


 当の私はと言うと、相変わらず薬草や茸の採取クエストを続けていた。


 私に出来そうなクエストはそれぐらいしかない。


 そして、地道なクエストの積み重ねが思わぬ出逢いを生む事になった……。


 私が同じ様に採取クエストで森に赴いている時である。採取に夢中で、モンスターの気配に気付くのが遅れてしまった!背後から荒い鼻息が何度も聞こえる……ゆっくり振り返ると


巨大な猪が!?しかも牙が4本に角も2本と言うボス系のモンスター!地面を何度も蹴って直ぐにでも突進しようと構えている、私にはかわせる程の技術はない。逃げたとしても直ぐに追い付かれる、万事休す!せめて一矢報いる為とダガーを構えて猪と向き合った……。


 睨み合っていたが痺れを切らしたのか、猪が一気に加速して突っ込んできた!来るならこいっ!只では殺らせんっ!


 ダガーの刃先を前に突き出して身構える、目の前に迫った時だった……。


 


「ニャアァァァァッ!」


 


 叫び声と共に鈍い音がして、猪のその巨体が真横に吹き飛ぶ!木に激突して3、4本薙ぎ倒していた……。


 あまりに突然で私も何が起こったのか把握できないでいた。だが、目の前には巨大な見たことのないハンマーを片手で軽々と担ぎ、どうみてもハンマーを振り回せないだろ!と突っ込みを入れたくなるほどのすらりとした体躯、白い髪に……な、猫耳?尻尾?獣人か?でもあまり見たことがない種だな……こんな可愛い子が、見た目とは裏腹にハンマーを振り回すなんて……世の中って……広いな……。


 


「大丈夫ニャか?」


 


 その獣人の女の子が話し掛けて来た。武器の割には軽装の防具だ、もしかすると動きやすさを優先しているのか……。


 


「す、済まない、助かったよありがとう。」


 


「丁度、良い肉と素材がゲット出来たニャ。旨そうニャ。」


 


「ははは……そりゃ良かった。だけど凄く良い武器だね。」


 


 すると、その子が急に顔を近付けて迫って来た。私もドキリとした、マズイ…拐われるとかあり得る?冷や汗を滴ながら、彼女を見つめていると想定外の言葉がかえってきた。


 


「分かるニャか?」


 


「あ、ああ。初めて見る形だし、軽量化もしてるのかい?」


 


 筋肉隆々なら分かるが細身でこのハンマーを振り回すのだから、軽量化はしているだろうとは思った。以前、クエスト途中で見付けた盾があったが軽量化が掛けられていた。だから、それもあり得ると思ったのだ。


 


「あんた、冒険者ニャか?」


 


「あ、ああ一応……。」


 


「にしては弱いニャが?」


 


 そこをハッキリと突っ込


むか?


 


「いやぁ、冒険者ではあるけど鑑定しか出来なくてね。二組のパーティーから断られて、この通りだよ。」


 


 まあ、ここで嘘をついて強がった所でロクなことはない。正直に話すのが一番だ。


 


「ニャら、あたいと組まないニャか?一緒に武具屋を開こうニャ!」


 


「は?……ええっ!」


 


 突拍子もない申し出に完全に固まった私である。何をどうしたらそう言う流れになるのか、複雑な気分になる私だった………。

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