出会い
プロメードの街からなんの問題もなくライデリードの街に到着。冒険者ギルドで受付嬢相手に化粧品の営業を軽くやって、オーク討伐に参加し直ぐに次の街に移動した。
ラムーセ、スティッド、カリブソン、ボロードの街でも同じ感じで営業と依頼をこなして一月半をかけ、やっとダイヴェル王国を脱出、隣国のブルーバ王国の領地に入った。
取り敢えず距離は稼げた、これで一安心だけどブルーバ王国での最初の街トライトまでは、まだ先なので暫くは長閑な風景を眺める事になるし、もうすぐ夕暮れなので野営の場所を探さなくてはならない。
「ユタカ様、向こうで争っている気配がします」
「盗賊にでも襲われているのかな?」
王女様を助けるイベントでも発生したか?
進んだ先で戦っていたのは冒険者風の連中だった。一方は獣人達でもう一方はマスクをしている連中だ。
どちらも中々の強者だ。実力は拮抗していて熱い闘いをしている。
「どちらに加勢すれば良いのでしょう?」
「常識で言うと顔を隠している方が悪者と相場は決まっているがな」
念の為に鑑定してみる。思った通り、マスクをしている連中は暗殺や盗賊系統のスキル持ちだ。
「獣人達の加勢をする。一応、殺さないように」
「解りました」
お互いの実力は同じくらい、しかも高レベルだ。僅かなキッカケで勝負が決まる事は往々にしてよくあるので慎重に近づく。
サユリアはマスクの男達にだけストーンバレットを撃つ。
マスクの男達は、当然の事ながら自分に迫って来る魔力の気配は判っているので、獣人の剣による攻撃を躱しつつストーンバレットの回避行動を取る。
獣人達にとってみれば隙をくれた様なものだ、マスクの男達に次々と剣が突き刺さる。
しかし、それは致命傷にはならない。切られても刺されても大丈夫な所に、わざと誘導しているからだ。
「くっ、邪魔が入ったようだ、引くぞ」
「はっ」
マスクの男達は南側の森に向かって走り去った。形勢不利とみれば潔く引く。プロだな。
「助かったよ、ありがとう」
お礼を言ったのは虎の模様の耳がある獣人だ。猫、犬、牛の獣人達もいる。猫耳は女の娘だった。
「いいえ」
「もうすぐ日が暮れるので野営する事になる。どうだろう、御礼に食事を振る舞わせてもらえまいか?」
「分かりました、ご馳走になります」
ちょっと行った所に大きな岩が転がっている場所があったので、そこで野営をする事になった。街道を外れると馬車は移動しづらい。獣人達の荷馬車も苦労している。
「この辺で良いだろう」
獣人達は馬の世話や食事の用意をテキパキとし始めた。旅慣れている、俺達も真似て馬車から馬を外し水とリンゴに似た果物アッポルをやった。
ご馳走すると言っても、冒険者の保存食にちょっと手を加えた物だろうと思っていたが、そうではなかった。
といた卵の入ったスープにワイルドボアのぶ厚いステーキ、驚いたのはパンではなく白いご飯だった。
「米だ」
「知っているのか?」
「ええ、まあ。何処で採れるんです?」
「ディライト王国の北部よ」
「ディライト王国の北側は山脈からの湧き水が河になって水が豊だからな、このコメは美味いぞ」
「どうぞ、召し上がれ。野菜も食べてね」
「いただきます」
久しぶりに食べるご飯の味は最高だった。
「美味い」
「私は山育ちなので初めて食べましたが、本当に美味しいです」
「貴女はグロリア族なのね」
「どおりで。しかし山から下りてくるとは珍しいな、それもグロリア族以外の者といるとは何か変だな」
「よさんか、リキーザ」
「うむ、……すまんな」
「いいえ」
「話は変わるが、君達はダイヴェル王国から来たのかい?」
「どうしてそう思うのです?」
「その馬車の絵の模様さ。ダイヴェルの伝統的なユウバの花模様なんだ」
「そうでしたか。推察通りです」
「そうであるなら少し聞きたいのだが?」
「何でしょう」
「ここまで来る間に怪しい連中に遭わなかったかな?」
……随分と漠然とした質問だな。
「怪しい連中ですか?」
「君達は中々の実力の持ち主だと思うのだ。人を見る目も有るのではないかな?」
ん~。ひょっとすると、あいつらか?
「ダイモの街を出た時にすれ違った連中かな?」
「どんな奴らだった?」
「かなり腕のたつ連中で暗殺スキルを持ってたな」
「君は人のスキルが鑑定出来るのか?」
おっと、口がスベった。
「いや、失礼。余計な詮索は無しだ」
「どうも」
「ラウダ、そいつらよきっと」
「そうだな、ありがとう望みが出てきたよ」
「良ければ理由を知りたいんだけど?」
「……我らの主のお嬢様が行方不明になったのだ。最近では聞かなくなったが、昔から獣王国では幼子の神隠しの話しは有名で伝説にもなっている。主も諦めていたのだが、怪しい集団が子供を抱えて去って行くのを見た者がいてな、我らが捜索の旅に出たのだ」
「そうでしたか」
あの馬車の中に拐われた子が居たのだろうか?……あっ、思い出した。
「その時にすれ違った馬車にも、この花の絵模様と同じ彫り物がしてありましたよ」
「ホントか!」
「これは決まりだな、ダイヴェル王国へ行こう」
「よし」
ーー
「貴重な情報をありがとな」
「お役に立てて良かったです」
「また会えると良いわね」
「そうですね」
「獣王国へ行って困った事があったらどこでも良い、これを冒険者ギルドに行って見せるといい。必ず相談に乗ってくれる筈だ」
ラウダさんが渡してくれたのは、ちょっと変った紋様の入った銀貨だった。
「ありがとう御座います」
「では」
朝早くラウダさん達はダイヴェル王国に向かって出発したので、俺達も直ぐにトライトの街を目指す。
「お嬢様が無事だと良いですね」
「なにかの目的があれば直には殺さないと思うが、無事を祈ろう」
早く出発した甲斐があって昼にはトライトの街に着いた。
「宿を決めてからここの名物料理でも聞いて食べに行こうか」
「はい、ユタカ様」
馬車と馬を預かる事の出来る宿があったので、そこに決める。かなり大きな宿なので風呂も付いていたので言う事なしだが、借りられたのは一部屋だった。
「仕方ないよね」
「私は全然かまいません」
「そうか」
部屋を確認して出ようとした時、部屋が突然揺れだした。
「いや、なに?」
「これは地震か?」
結構な揺れだが、地震国日本で育った俺はなんてことはなかった。
「大きく見積もって、震度3くらいかな?」
と、たかをくくっていたがサユリアの顔はまっ青だ。
「こ、こんな事があるなんて。大地の神がお怒りだわ、大変です」
「えっ、もしかして、こうやって揺れるの初めてだったりするの?」
「そ、そうです。今まで聞いた事が有りません。ユタカ様はよく落ち着いていられますね」
「そう言われてもな」
他の泊まり客も騒ぎ出した様だ。「ピーピー」「ワーワー」とわめき声がする。そして鐘の音が聞こえて来た。
「これは警鐘です。早く宿を出ましょう」
「しかしな」
「ユタカ様、お願いです」
「わ、分かった」
サユリアに引っ張られて外に出ると、外は街の人で一杯だった。揺れはもう収まっているのだが。
「ま、また揺れだしたぞ」「ホントだ」
確かに微かに揺れを感じる。普通なら判りもしない、気にもならない程度の物だが、地震の無いこの世界の人達は過敏に反応するみたいだ。
「これは余震だな、多分」
「ヨシンですか?」
もっとも、この世界が地球と同じ構造とは限らないので、なんとも言えないが。この後は揺れる事はなかったので、食事に行くことにしてサユリアに地震の話しをしながらザワつく街を散策した。
翌日から数日間にわたって、この世界の人達が驚く知らせが全世界に流れる事になるとは、俺も夢にも思わなかった。
いつも読んでくださりありがとう御座います。
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