お金が貯まったので馬車を買う
2日間の休暇も終わり、俺達は北にあるコンキスト村からの調査依頼でダイモの街を朝早くに出発した。長閑なのは良いが、単調な景色が続く。
「あ~、早く馬車が欲しいな」
「もう少しですよ、ユタカ様」
「そうなんだけどもさ」
職業が無'精'者の血が騒ぐらしい?少しはこの読み方の影響があるんじゃない、と感じるのは気のせいか?
村に着くのにどのみち1日半はかかるのは判っているので、のんびりとお気楽の旅だと思えば精神衛生にも良いかもしれない。
街道から少し離れた所に大きな岩があるのを見つけたので、ここで野営をする事にする。
「火を焚いた跡がありますね」
「考える事は皆んな同じか」
温かい食事が出来るという、時間が止まるアイテムBOXは勇者召喚で得た数少ない良かった事のひとつだ。
温かいコジュ鳥のスープと焼き立てのパンで食事をすまし、風呂と小屋をサユリアに造ってもらい、大岩を含めた周りを俺が円を描き中を無の状態にする。
これで安心してくつろげる。
翌朝は遅めの食事をして出発し、午後イチに村に着いた。村長から異変を感じた村人を紹介してもらうと狩人だった。
「一週間ぐらい前から、森の動物達の姿をまるっきり見なくなっただ。こんな事は今まで一遍も無かったことだべさ」
「……そうですか、解りました周辺を調べてみましょう」
「お願いしますだ」
「取り合えず森に入って山際まで探索してみよう」
「はい」
森の中を山に向かって歩くが、狩人の言う通り森は静まりかえっている。
「確かになんの気配も感じられませんね」
動物がいなくなる理由……木ノ実や草はあるし、考えられるのは、何かを恐れて逃げ出したか、全部喰われちゃったかのどちらかで、両方に当てはまるのが……。
「強力な魔物でもいるのかな?」
「あり得ますね」
色んな事を考えながら歩いていたら山壁に当った。
「左に回りこんでみよう」
「はい」
「ユタカ様、あれは?」
「洞穴だな」
「何かの気配はします」
「仕方ない、入ってみるか」
生活魔法のライトを使って中を照らし入って行く。中は入り組んではおらず、曲がりくねってはいるが一本道だった。奥に行くにつれて独特の臭いがしてきた。
「初めての分かれ道ですね」
「どっちが良い?」
「では、左でお願いします」
「OK」
進んで行くとかなり広い空洞が見えて来た。
「うっ」「こ、これは……」
一面に卵らしき物が並んでいる。大きさはダチョウの卵の2倍はありそうだ。SF映画に出て来そうな光景だが、卵ひとつひとつに兎や半分にされた鹿などが糸で結び付けられている。
「この糸からすると蜘蛛の魔物だよな」
「はい、そのようです。産卵の為に山を降りて来たのかもしれません」
「この卵が孵ったらさすがに村も危ないな」
「焼き払いますか?」
小説で読んだ事がある。確か孵化する前の卵は糸の素材になって結構いい値段がついてた筈だ。
「いや、持って帰る」
兎などの将来の餌は取り外して全てアイテムBOXに入れる。
「後は親を倒すだけだ」
「右の道ですね」
「造ったドリル弾を試したいから今回は俺が殺るよ」
「解りました」
分かれ道まで戻り、中に入る前に風の精霊にお願いして予めドリル弾を10本ホバリングさせながら右の道を行く。こちらもすぐに広い空洞が見えて来た。
気配を察知したのだろう、糸が飛んできた。からめ捕られるわけにはいかないので、風で押し返してもらった。そして直ぐに2人の気配を無にする
素早く大きな空洞に入る。俺達を見失った蜘蛛は糸を手?の爪で器用に自分の体の上で投げ縄の様に回し様子をうかがっている。
鑑定するとカシミュルダットスパイダーという名だった。
蜘蛛の魔物はたいてい殻が硬いという事になっている。これも素材として重宝される。
なので狙いは柔らかい腹か、大して見えもしないのに8つもある目だ。
目が見えない分、勘が鋭い可能性があるので風の音を含めドリル弾の気配も無にする。腹に6本、大きい目の方の4つにそれぞれ一本ずつ撃ち込む事にする。
『風の精霊さん、お願いします。腹はなるべく下からで』
『£€¢§‡』
何を言っているのか今のところ解らないが、多分"OK"って言っていると思う。
ホバリングしていたドリル弾が、小さい竜巻によって勢いよく回転し、先端の方向を変え無音で蜘蛛に向かって飛んで行った。
「グギャィウ!」
ほとんど同時に4つの目と、低空飛行して行ったドリル弾が左右の腹の下部に突き刺さった。そしてそれは回転しながら蜘蛛の体内に深く食い込んでいく。
ドリル弾の先端には麻痺薬が塗ってある。獲物を食べる時に毒だと調理に手間がかかるからだ。
麻痺薬が効いてピクピクと痙攣している蜘蛛に止めをさす。
「え~と、蜘蛛の魔石の場所は胸板の所だったよな」
オークキングの魔石を壊して失敗したので、魔物の魔石の位置を勉強した。俺が勉強したのは何時ぶりだろう?
俺にとって異世界は、刺激を与えてくれる物らしい。とすると、あの糞爺に感謝か?
頭部と腹部の隙間に剣先をくい込ませ慎重に切断していく。これでお陀仏だ。深く食い込んだドリル弾を回収して蜘蛛の亡骸をアイテムBOXに入れて依頼終了だな。
村長にカシュミュルダットスパイダーの亡骸を見せて依頼書にサインをもらう。大きな蜘蛛の魔物を見て書いた文字が波うっているのはご愛嬌だ。
ーー
ダイモの街に意気揚々と帰った俺達はギルドに直行だ。依頼達成の報酬は銀貨80枚だったが、カシュミュルダットスパイダーの卵で作った物は丈夫で魔力の伝導率も良いと言うことで、使い道が多いらしく1個金貨1枚になり、それが40個あったので万々歳だ。
自分の錬金用に15個を残して売る。本体も魔石と殻が金貨5枚になった。
俺が単独でカシュミュルダットスパイダーを倒したので、レベルが4になってしまったのはちょっと失敗か。
冒険者クラスも調査だけでなく、原因のカシュミュルダットスパイダーを倒し、解決したのでCクラスに昇格した。
これで馬車と馬を買うことが出来たので、次の街に行くことになった。
今日はお世話になったギルドに挨拶に来たのだが……。
「へっ、いいね。醜女の姉ちゃんに魔物を倒させ金貨ガッポリってか。おまけにレベル4のくせにCクラスに昇格かよ。まだパーティの名が決まってねぇなら、俺が付けてやるよ。"醜女のヒモ"って言うのはどうだ?」
「アンドレさん、それはさすがに酷いんじゃ」
「いいや、ろくでなしの変態君。ピッタリだと思うぞ」
「カノープさんまで。パーティの名だけは、かっこいいのが良いです」
「だったら、君の二つ名を"醜女のヒモ"にするか?」
「それも酷いです」
「ハハ、皆んな君が羨ましいのだよ」
「ねぇ、ヒモのユタカ君。貴方が居なくなったら化粧品が手に入らないじゃないのよ」
「それなら居場所はその都度連絡しますから、ギルドに手紙をくれたら送りますよ。送り賃は無料で」
「ホント、それなら良いわ」
「その代わり宣伝よろしくです」
「任せなさい」
「皆んな良い人達でしたね」
「そうだね」
最初は悪口だったが、皆がサユリアの実力を認めてきてからは、ブスだの醜女だのと言われても、そこに悪意が無いのが判っているのでサユリアも嫌な気持ちにならなかったのだろう。
次の街でも思う存分に実力を見せつけて悪口をねじ伏せれば良い。
いつも読んでくださりありがとう御座います。
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