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最初の街

 ドキドキしながら、サユリアが戻って来るのを待つ時間はやけに長く感じた。足音が聞こえてきて、俺が指示して造った土で出来た引き戸を開けて入って来た。


心臓をバクバクさせながらサユリアを見ると、ぽっちゃりで肌がガサガサのいつも通りのサユリアだった。


あれは一体何だったのだろう?俺のスケベ心がみせた幻想か?


だけど俺の横に座ったサユリアは風呂上がりの良い匂いがした。この世界にも石鹸はある。今まで召喚された勇者が考案したものだ。


俺が妙にオドオドしているので、サユリアは頭をひねっていた。ガッカリしたのと安心した気持ちが混ざった複雑な気持ちで俺は眠りについた。



「おはよう御座います」

「うん、おはよう」


俺がサユリアを買った理由の2つ目は料理スキルがあったからだ。


贅沢な食材ではなくても、有り合わせの材料で美味い物を作ってくれる。俺の目に狂いは無かった。



朝食の後、歩き続けやっとダイモの街に着いた。まだダイヴェル領だけど、なんとなく安心だ。


俺は冒険者登録証があったので、水晶に手をあて犯罪歴を見られただけだが、サユリアは入街料の銀貨1枚をとられた。



「続けて旅をするにはお金が無いので、冒険者として稼いで貯めながらの移動になるね」



「はい、頑張ります」



というわけで、サユリアの冒険者登録をしに冒険者ギルドに行く事にした。


門番達もそうだったが、ギルドの中に入るとサユリアの外見についてのヒソヒソ話が始まる。


「気にするなよ」

「はい、ユタカ様は優しいのですね」

「ふ、普通だよ」



「おうおう、醜女を相手にイチャつくんじゃねえよ」


来たか、テンプレ。


「ホントだぜ、ゴブリンのメスかと思ったぜ」



俺達が無視して窓口に行こうとすると、それが気に入らなかったらしくサユリアに突っ掛かって来た。


「お前のことだよブス!」


サユリアの腕を取ろうとする手を俺は掴む。


「止めろ」

「けっ、離せよ小僧」


空いている左手で殴りかかって来たので、左斜め前に移動しながら男の手を握っている腕には力は入れず、俺はただしゃがみ込み男の手を床につける。



俺に引っ張り込まれた男は、地面に叩きつけられたカエルのごとく「ビエッ」っと言いながら腹ばいになって床にへばりつく。


それを見ていた他の冒険者達がクスクスと笑い出す。失笑を買った男の仲間がキレた。


「貴様!」


面倒くさくなって来たな。なにせ俺は無精者だからね。後々の為にドカンとやっちゃうか?



「止めんか!」


「バモスさん……すいません」

「そのぐらいにしておけ」

「はい」


「君、すまなかったな」

「いいえ、ありがとう御座います」



Aクラスの冒険者だ、このギルドの実力者なのだろう。



バモスさんが仲裁に入ってくれたので、それ以上のトラブルもなくポニーテールの受付嬢の所に行ってサユリアの登録をすます。今度は宿探しだ。



「ユタカ様は強いのですね」

「そんな事はないよ」


「身体の動かし方、力の入れる場所とか全てが理にかなっています」



へぇ~、サユリアには解るんだ。やっぱり大した物だ、戦闘も期待出来そうだな。



後、大銀貨1枚と銀貨40枚残ってる。取り敢えず最初に見つけた宿に入ってみる。


昼時だったみたいで、食堂になっているらしい1階は人で一杯だった。念の為に聞いてみる。



「部屋は空いていますか?」


「一部屋なら、風呂付きだから銀貨1枚上乗せで一泊銀貨4枚だよ」


サユリアの装備もあるし余裕は無いので一部屋で仕方ないのでここに決めた。



「俺もサユリアもFクラスなので、初めは宿代とか食事代ぐらいしか稼げないと思うが頑張ろう」



「はい、ユタカ様」



サユリアの剣と装備を整える為に冒険者専門の道具屋に行く。



あまりお金は無いので、掘り出し物を見つける為に念入りに鑑定していく。そこそこの物があれば俺が作り変えれば良いのだ。


先ずは露出の少ない木綿で長袖の上着に革の胸当て、俺と同じ革のズボン。


後は剣だが金を出さないとろくなのがない。仕方ないので、なまくらの鉄剣を買って作り変えるかと思っていると、箱に積まれている剣を見つけた、よく見ると他にも色んな物が入っている。


「これは?」


「ああ、盗賊を討伐した時の戦利品だよ、ろくな物がないので鍛冶屋に直行だ」



俺の目に止まった剣は真ん中から折れてしまった剣だ。不純物が少ない炭素が1%の鋼の剣だった。しかも麻痺効果の付与がされている。



「この剣とこのハーフブーツをください」


「あんたも物好きだね、修理する方が高くつくのに……そうだな2つで銀貨10枚でいいよ、おまけだ」



「ありがとう御座います」





早速、常に依頼が出ているゴブリンの駆除の為に南の森に行く。



人がいないのを確認して折れた剣を地面に深く刺す。サユリアが不思議そうな顔をして尋ねてくる。


「何をするんです」

「まあ、見てて」



不純物はあまり無いのだから、鉄の成分を集めればいいな。3分待つと完成した感じが伝わってくる。


「どれどれ」


引き抜くと立派な剣になっていた。


「凄いです」



「さあ、どうぞ。麻痺の効果が付与されているからね」

「あ、ありがとう御座います」


「次はブーツを綺麗にしよう」


俺は森の中を歩き回る。


「何を探しているのですか?」

「木ノ実だよ」

「木ノ実ですか?」


元の世界にホホバという木が有る。この種子の油が肌にも革にも良いのだ。なので同じ成分の実がないか探す事にしたのだ。



歩き回っているうちにゴブリンに出会した。


「私が倒します」

「任せる」



サユリアを買った3つ目の理由は、剣術と体術のスキルがあったからだ。俺が教える事も出来るしね。当分の間はサユリアのレベルアップだ、強くなってバカにした連中を圧倒してやれ。



現れたゴブリンは5頭だ。ポチャっとしてちょっと太めのサユリアだが動きは意外と素早い。


あっという間に全てのゴブリンの首を苅ってしまった。俺の動きを理屈も合わせて理解しているから当たり前か。



追加で15頭ほどサユリアがゴブリンを倒した時に、ホホバの木ノ実と同じ成分を持つ木を見つけた。



実をたくさん取って、手頃な倒木も拾いアイテムBOXに入れる。



「今日はここまでにしよう」

「はい」



ギルドに寄ってゴブリンの耳を渡すと銀貨2枚になった。1頭が銅貨100枚らしい。頑張れば食事代と宿代くらいは稼げるが、少し考えないとダメだね。



帰りに道具屋で彫刻刀みたいな物とノコギリの小さいやつを買って宿に戻る。


小さいが風呂がついているので良かった。銀貨1枚高くても問題無し。



サユリアが風呂に入っている間にホホバの種から油を抽出し、精製して蝋にする。それを倒木を削り彫刻刀で容器にしたものに詰めた。



お肌がツヤツヤ保湿効果が抜群の化粧品の出来上がりだ。おそらく召喚された勇者達も、この手の化粧品は作っている筈、しかし品質と効果を上げれば、勝てるはずだ。サイドビジネスで俺達の生活に潤いを与えよう。保湿化粧品だけに。


ちょっとスベったが、いずれはシャンプー、ボディローションなども作るつもりだ。



サユリアが風呂から出てきたのでこれを勧めよう。


「サユリア、これを風呂上がりに手足に塗ると良いよ」

「これは何ですか?」


「肌をツヤツヤにする化粧品だよ」


「ありがとう御座います。でも私の肌にはどんな化粧品も意味はないんです」


意味は無い?……効かないではないんだ。効かないと意味は無いでは微妙に意味合いが違う。


「なんか複雑な理由がありそうだね」

「詳しくは説明出来ませんが」


「そうか、理由は詮索しないよ」

「ありがとう御座います」

「じゃ、明日も頑張ろう」

「はい、ユタカ様」



ーー



ユタカ様はなんて優しいのだろう。私はこんなに醜い姿をしてるというのに。女性を外見だけで判断しないし差別もしない……ユタカ様になら一族の能力の秘密を話せる時が来るのかもしれない……。




寝る前にサユリアのハーフブーツをホホバの油で磨き、ピカピカのツヤツヤにして寝た。


俺はこの日、サユリアの肌がツヤツヤになっている夢を見た。




いつも読んでくださりありがとう御座います。


面白いと感じられましたら、下段に有ります評価の☆星やブックマークを付けて貰えると嬉しいです。



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