はあ?
☆☆☆
ー王都、城内貴族院議会室ー
「そのような得体の知れない若造に爵位を与えるなどとは考えられませんぞ陛下」
「左様、眉唾では有りますが本当にそのような力が有るのなら陛下が御命令して、こき使えば宜しいのでは御座いませんか?」
「彼の者は元々この国の者ではない。シャレイド山の神殿に巡礼に来たという」
「我が国の祀る大地の神を崇めるというのは、良い心がけではありますな。しかし、それとこれとは別の話で御座います」
「"醜女のヒモ"などと言う2つ名ではあるが冒険者としての力量は相当な物だという。先日もSクラスの冒険者が手こずったオークキングとクィーンはその者の手助けによりようやく倒せた、と言っていたなギルド長は。そうそう、精霊使いらしいぞ」
「……精霊使いですと」
「オークキングとクィーンを……」
「どうであろう、災害により疲弊している今のこの国の軍隊、騎士で簡単に倒す事が出来るのかな?」
「それは……些か難しいかと。畑違いでもありますし」
「強引に話を進め、仮にその者を怒らせ敵対する事になったとして、簡単に抑えこむ事が出来る自信は有るか?タムス伯爵」
「たかが冒険者1人……とは思いますが……」
「ならば上手く取り込み利用すれば良いではないか。1年だ1年。それで結果が出ねば切り捨てれば良い、そうは思わんか?」
「確かに……陛下の仰る通りですな」
「真に精霊使いであるならば大地の再生も可能か」
「1年様子をみるですか?……う~む、上手く取り込む方が得策と言えますかな」
「どのみち代案は無いのだ。陛下のお考えに従っては如何か?皆様方」
「……そのような若造に賭けるのは業腹だが、1年間限定で結果が出ねば廃爵と確約して頂けるのであれば」
「私も」「私もです」
「他にお考えのある者は?…………陛下」
「うむ、早速準備せよスレイ」
「畏まりました」
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「あっという間に全部売れてしまったな」
「それはそうですよ。ユタカ様が作る野菜は安いし美味しいのですから」
「うん。そろそろ山を再生して埋もれた神殿を探す事にしようか」
「はい!」
「ここで美味しい野菜を売っていると聞いて来たんだが?」
「申し訳ありません、売り切れてしまいました」
「あ~、残念。え~と、そこに有るのは?」
「これは角のパン屋さんに届ける分です」
「トメト1個でいいんだけどな、何とか、これこの通り」
「そんな、拝まれても」
「ではこれを」
「ユタカ様?」
「お~、見事なトメトだ。恩に着ます、いくらですか?」
「銅貨8枚です」
「……これが銅貨8枚……ありがとう。ではまた」
「変わった人でしたね」
「この国の国王だよ」
「えっ?」
なんか嫌な予感がするな。
「陛下、如何かでしたか?」
「私のスキル"看破"を使っても何も視る事は出来なかった。やはり只者ではないな」
「高邁な大地の神との契約か、はたまた恐ろしい悪魔との契約か、まさに賭けですな」
「その通り。だが、このトメトの味は本物だ。スレイお前も一口どうだ?」
「はい、頂きます」
ーー
「国王の事を考えているのですか?」
「まあね。どう考えても商業ギルド長絡みだよな」
「あ~、そうですね」
[コン!コン!]
ん、誰か来たか。考え事をしていて気付かなかったな。
「どなたでしょう?」
「冒険者ギルドの使いの者です」
冒険者ギルドからの使いによって、俺達は翌日ギルドに行く事になった。
指定された会議室に入る。入って来た俺達を見てゼレックスさんが手を振る、横にパーティのメンバーもいた。プリリアさんのパーティも当然の如く1番前の席に座っている。
俺達が後ろの席に座るとギルド長が話し始めた。どうやら俺達が最後だったらしい。
「既に知っていると思うが王都の北西に新たなダンジョンが出来た。そこから出て来る魔物は以前から在るダンジョンの魔物よりかなり手強い。地下2階から魔物に遭遇するがゴブリンでさえ、Dクラスの冒険者でも油断をすると殺られる」
「マジかよ」
「ああ、マジだ。直に防壁を造り始めたのだが魔物のせいで工事が思うように進まない。そこで、この街の精鋭である君達にダンジョンの調査を兼ねて魔物の間引きをして貰いたい。もちろん攻略は大いに歓迎するし素材の買い取りは通常の2倍とする」
「おお~」「やる気が出て来たぜ」
「ユタカ、君の場合はBクラスではないので、ギルド規定で強制は出来ないが1回目の調査だけは参加して欲しいのだが?」
「構いませんよ」
「助かる。出発は2日後だ宜しく、王都に着いたら向こうのギルド長の指示に従ってくれ」
ーーーー
「新たなダンジョンで魔物も強いと来てる。ワクワクするぜ」
「全くゼレックスはお気楽だな」
「だってよ買い取りが2倍だぜ」
「まあな」
「"醜女のヒモ"もそう思うだろ?」
「そうですね」
「もうすぐ着くぞ」
「おうよ」
まだ防壁と呼ぶには程遠い2mにも満たない壁が見えて来た。
先乗りしている冒険者達に護られながら職人達が汗を流しながら作業をしている。
「ゴブリンが出たぞ!」
「くそっ!またかよ」
「魔物が出たらしいな」
「ダンジョンに入る前の肩慣らしに丁度良いぜ」
「油断するなよ」
「解ってるよ、行くぜ皆んな」
「「おう」」
「助太刀するぜ」
「ゼレックスか、ゴブリンと言えども手強いぞ油断するなよ」
「ホントかね?それ、これでどうだ」
「グギャギャ」
「うっ、避けやがった」
「だから言ったろう、気を引き締めろよ」
「ああ」
なるほど、今までのゴブリンとは動きが違うな。
「攻略するのは時間がかかりそうですね」
「そうだね」
ゴブリンを倒した後、ゼレックスさん達は喜々としてダンジョンに入って行った。
俺達はギルド長に今回は職人の護衛に回ってくれ、と言われているのでダンジョンの入口から少し離れた所に陣取っている冒険者達の所に行く。
「俺は"愛よる魂"のアバントだ、宜しくな"醜女のヒモ"君」
「はい、こちらこそ」
この日は夕方の作業が終るまで、ゴブリンやシルバーウルフが5回にわたって襲って来た。他の冒険者やサユリアが油断なく倒したので、俺が狩ったのは逃げ出したシルバーウルフ1頭だけだったが。
「さすが"醜女のヒモ"だな。噂通り姉ちゃん働きはたいしたものだが、兄ちゃんはからっきしだ」
「違いねぇ」「ハハハ」
ここでの俺の評判も上々のようだ。職人達が帰ったのを確認して、見張り当番を残し国が造った宿泊施設に行く。素材を買い取るギルドの臨時出張所もあった。
「へぇ~、お風呂もあるんですね」
「防壁が出来るまでは時間がかかるからな。このぐらいは無いとやってらんねぇよ」
災害のせいで景気が悪い街を出て、ダンジョンで稼ぐ冒険者を相手にしようと食事は各地から一発当てようと、いろんな店がやって来て出張店を出しているので値段は高いが言うこと無しだそうだ。
「確かに各地の名物料理が食べれるのは良いけどな。俺達は恵まれている」
そう、食べる事に困っている人がたくさんいるのだから。
今回の依頼は1週間の護衛だったので、お勤めを終えて定期便の馬車で王都に戻る。
ギルドで依頼料を受け取ると、ギルド長が階段の所で手招きをしている。
「?」
どうやらギルド長室に来い、と言う事らしい。何だろうと思いながら部屋に入ると、前に俺の所に野菜を買いに来た若者が居た。
『こ、国王ですよね?』
『そうだ』
「やあ、また合ったね」
「ユタカ君、紹介しよう。この御方はこの国の国王、テリオス陛下であらせられる」
「ふふっ、驚かない所を見ると知っていたのだね。君がどんなスキルを持っているのか興味があるが、今大切な事は他に有る。君に爵位を授けたい」
「はあ?」
何だって……?
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