予想の斜め上
朝早くギルドの会議室にオーク討伐に参加する冒険者パーティ11組が再び集まった。
「諸君らに手間を取らせて申し訳ない。確かに上位種のキングやクィーンがいる可能性は拭えない、もう少し深く考えるべきだった。そこで私達のパーティ"烈風"も参加する事にした」
「おお~!」「それならどんとこいだな」
副ギルド長のパーティが参加するようだ。
「プリリアさんのパーティってどんな感じなんです?」
「俺達は今度Bクラスに上がるわけだが、"烈風"はAクラスでもうすぐSクラスに上がると言われているんだぜ。攻守ともにバランスがとれている凄いパーティさ」
"シャレイドの旋風"のゼレックスさんが俺の質問に答えてくれた。
「なら安心ですね」
「そうともよ」
出発は明日になった。オークの集落までは馬車を使っても3日はかかる西の森の奥になる。地震と噴火の被害調査で調べ回っている内に発見したとの事だ。
総勢42人にも及ぶSクラスになろうという冒険者を含む集団を襲うようなバカはおらず、予定通り3日後に西の森に着いた。
「この森もかなりの被害が出ていますね」
「火山灰と火山ガスのせいだろうね」
枯れている草木を見ながら奥に進んで行く。
「プリリアさん、あのギャロウプの樹を過ぎるとオークの集落が見えて来ます」
「分かった。ここから先は身を隠す所が無い。各自注意してくれ」
「了解」「おう」
集落の門までオーク達に気付かれないように慎重に近づいて行く。無事に木で造られた防壁に皆がとりつく事が出来た。
門番はいない。木の扉は閉じられている。
「やけに静かだな」
「確かにな」
「気配は有るので居るのは間違いない」
「うむ。打ち合わせ通り門を打ち破った後、外にいるものを蹴散らし家屋を破壊し出て来た所を一気に制圧する。オークジェネラルは私達とゼレックスのパーティで対応するので皆頼むぞ」
「解りました。では扉をぶち破ります」
"烈風"のリキューブさんが「スラッシュ!」というと扉が真ん中で横一文字に音もなくスパッと切れて崩れ落ちた。
けっこう怖いスキルだ。
「よし、行くぞ」
中に入るが外に出ているオークはいなかった。
「……おかしい」
冒険者の1人が家の扉を蹴破ると中はもぬけの殻だった。
「ブヒュヒュヒュヒュ!」
オークの笑い声がした途端、無数の矢が雨の様に皆に向けて降って来た。
「くっ、罠か」「クソ、間に合わん」
このままではかなりの負傷者が出る。考えている暇はない、仕方ないので俺は周りに無の空間を張り巡らす。
無の空間に入った無数の矢は消えた。このまま空間に入れて置くわけにはいかないので、直ぐに地面に放り出す。
「えっ?」「なにっ?」
「ブモゥ?」
「プリリアさん、今のうちに体勢を立て直してください」
「分かった」
「グワワァアア!」
山壁際に大きな魔物が姿を現した。
「うっ、やはりいたか」
「オークキングにクィーン……」
「こいつらが俺達の動きを感知してたんだな」
「ブギュー!」
オークキングのかけ声で奥に潜んでいたオークとジェネラル達が出て来た。
「私達はキングとクィーンの所に行く。ジェネラルとオークは皆で頼む。リキューブ、行くぞ」
「おう」
「よっしゃ!雑魚とジェネラルを早く片付けてプリリアさん達と合流するぜ」
「「「おぅ~」」」
「サユリア、俺達はジェネラルをサクッと倒そうか」
「解りました」
戦闘が始まった。俺とサユリアは剣で雑魚オークを屠りながらジェネラルに向かって行く。
この前に作った刀の試し切に丁度良い。反りといい鎬の厚さといい中々のできで、いくら斬っても刃こぼれ一つしない。流石はクロムを混ぜて硬度を上げただけのことはある。
ジェネラル相手にCクラスのパーティ2組が奮闘していた。
「おう、"醜女のヒモ"の兄さん来たか」
「どんな感じです?」
「雑魚オークのようにはいかないな」
「あのブレイドの長い剣が厄介なんだよ」
鋼の剣+2か、ニッケルとクロムも入っている。確かに良い代物だな。オークが作ったとは思えない、誰が作ったのだろう?……ん、ゴドルフィの鉄剣と表示されているな。
おっと、倒すのが先決だな。
「俺達が足止めをします。その隙に殺ちゃってください」
「お、おう。任せた」
サユリアにストーンバレットを撃ってもらい、それに合わせて気配を無にした糸付きのドリル弾を撃つ。地を這う様に飛んで行ったドリル弾は、ストーンバレットに気を取られていたオークジェネラルの脛を突き抜け両脚を絡め取った。
「ブギャゥ!」
「お、お~!倒れたぞ全員でかかれ!」
パーティリーダーの指示で全員がオークジェネラルをボコる。
「ブモォオォ~……」
オークジェネラルの断末魔の叫び……ちょっと可哀想な気もしたりする。
「やったぜ」
「よし、残りのオークを掃討してプリリアさん達に合流するぜ」
「おうよ!」「いくぜ」
ーー
「くっ、魔法も物理攻撃も全て弾かれる」
「オークキングがこんな芸当を出来るわけがない」
「何故だ?」
「プリリアさん、オーク共は全部倒しましたぜ」
「ヤングか、早かったな。残るのはこいつらだが……」
「どうしました?」
「攻撃が全く効かないのだ」
プリリアさん苦戦してたのか。ん、……キングとクィーンが持ってる剣とロッドってなんか良さげだな、鑑定してみるか。
「このままでは我らの魔力と体力が削られて不味い事になります」
「うぬ」
「攻撃が来ます」
「くそっ、マジックシールド!」
"烈風"の魔法担当のモンテスさんが張ったシールドが爆炎を弾き返す。
「打開策は無いものか……」
「あのぅ、ちょっといいですか?」
「何かな?"醜女のヒモ"君」
Sクラスの人にまで覚えて頂けるなんて、なんと光栄な事でせうか。
「キングとクィーンが持ってる物なんですが、ゴドルフィの炎の剣とゴドルフィの守りのロッドという物なんですがゴドルフィって何ですか?」
「ゴドルフィ……それは遥か昔にこの世界に在ったとされている国の名だが本当かどうかは定かではない。古書に数行だけ記述されているだけだから……まさか」
「プリリア、古代の魔道具の可能性があるな」
「ああ、なぜオークが持っているのか解らないが、あれを何とかしないと」
なるほど、古代の魔道具ね。あれを何とかしないと手も足も出ないということか。
黒子に徹するなどとカッコつけてる場合じゃないか?仕方ない。
「俺が剣とロッドの効力を無効化しますので合図をしたら攻撃してください」
「何を言っている。この切羽詰まった大事な時に戯言を」
「……リキューブ待て、醜女のヒモ君。出来るのだな?」
「プリリア……まったく、仕方ない。で、どうやってやるのだ?」
なんて誤魔化そうか?これしかないよな。
「精霊の力を借ります」
「君は精霊使いなのか?」
「え、ええ、まぁ」
「凄いじゃないか。それを早く言ってくれよ」
大事に成らなきゃいいが、もうあとには引けない。俺はわざとらしく左手を上げてブツブツと時代劇などで結婚式で使う祝言をもっともらしく言う。
ううっ、皆の視線が痛い。
いつも読んでくださりありがとう御座います。
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