いいね
魔法陣を使って土壁の中に入る。直ぐにサユリアが感嘆の声を上げた。
「うわぁ~!」
「まさか、これほどとは」
持って来た土に種や草の根などが混ざっていたのだろう。覆い尽くすほどではないが一面に草が生えていた。
クースーの木も芽が出て20cm位に育っていた。
クースーの木は低木なので、今度は高く育つ木の実を植えてみよう。木々が根をはって育っていけばしめた物だ。
時折いい風が入って来るので気持ちいい。山脈の端の地形が上手いことハマって風を呼び込んで来るのだろう。
これで一安心。
「よしオウロイの街へ出発」
冒険者ギルドの依頼もそろそろ受けておかないといけないので、これで暫く留守にしてもなんとかなりそうだ。
ーー
2ヶ月ぶりに来た街は前と変わらない感じで、前回持っていった火山灰置き場には火山灰がまた高く山積みになっていた。金の成る木だ、帰りに全部持って行こう。
「商業ギルドから行こうか」
「はい」
「あら、いらっしゃい。どう、農業は上手く行ってる?」
あの時の受付嬢だ。気安く昔からの知り合いのように話しかけて来た。
「はい、お陰様で」
『ホントかしら?』「そう、今日は?」
「今度これを売り出そうと思いますので試供品を持って来ました。職員の女性の方達で試してもらえませんか?」
火山灰から作った微粒子のパウダーにホホバオイルを混ぜて作った石鹸に加えてシャンプーとクリームの3点セットだ。毛穴の汚れもしっかり取れ保湿効果も抜群でモチモチ肌になるのは実証済みだ。
「ふ~ん、良いわ試してあげる」
「ありがとう御座います。宜しく」
商業ギルドを出て、冒険者ギルドに入ると今はこんな状況なので鬱憤が溜まっているのだろう、よそ者の俺達に向けられる冒険者達の視線は厳しい物が有る。
オークの集落の討伐でDクラス以上の冒険者を募集していた。
「まだ空きが有るようならこれにしようか?」
「解りました」
受付嬢のところに行って参加したいと言って、冒険者証を見せる。
「ユタカ様ですね……あっ"醜女のヒモ"のユタカ様?」
「そうですが」
「手紙が来てます」
「どうも」
思った通りカーラさんとパメラさんからだった。うっ、日付が3週間前だ。ヤバいな。
おまけで石鹸を付けてお詫びの手紙を入れておこう。
「ユタカさん達で人数が揃ったので、明日にでも打ち合わせがあると思いますので連絡場所を教えてください」
「解りました」
「おうおう兄ちゃん、このブスに面倒見てもらっているのかよ。実力の無い奴と仕事はしたくねえな」
おっと、久びさのテンプレだ。
「失礼な。ユタカ様はお強いです」
「へっ、ブスに庇ってもらってるぜこいつ」
「笑えるな」
「よう兄さん、そんならひとつ腕を見せてもらおうか。修練場へ来な」
「解りました」
いきなり殴ってこないので、そんなに悪い連中ではなさそうだな。喧嘩ではないのでギルド職員も黙っている。
「ゼレックス、手加減してやれよ」
「へっ、分ってるよ」
修練場へ行くとギャラリーもたくさんついてきた。ゼレックスは樽に入っていた片手剣の木剣を取って構える。
どうするか?
「木製なら自分で作った棒でも良いかい?」
「構わねえよ。俺達はCクラスだが、次の依頼が終わったらBクラスに上がる事になっている、どんな武器でも良いぜ」
試しに作った俺の杖は、長さ150cmで小さな空洞が空いている。片端の部分をひねると手前30cmのところが外れる。中で紐で繋がっていて、引きながらひねると残りの部分が4本に分離する。
つまり、外せば5節棍になり手前を引っ張れば一本の杖になるのだ。使い勝手が良ければ丈夫な金属製にするつもりだ。
難点は杖に戻す時に手元の部分をひねり、内側の溝にはめ込むのにコツがいる事だ。練習して馴れるしかないけどね。
「そんな長い棒でオレとやる気とは恐れ入ったぜ。どっからでもかかって来な」
俺は素早く間合いをつめ、ゼレックスの足の甲を狙って叩きに行く。
「うぉ、何だ何だ」
奴が避けるのを追って、しつこく足の甲を狙うので奴はぴょんぴょん跳ね回る。傍から見ると滑稽なのでギャラリーから笑いがもれる。
「ゼレックス、いつから兎になった?」
「うるせえよ!」
俺の動きに慣れてきたゼレックスはサイドステップで躱し俺の頭を狙って来た。
逆手で握っていた左を順手にして奴の木剣を受け、僅かに体を右にずらしながら反動を利用して杖を回転させ奴の頭部に打ち込む。
ゼレックスは反射神経が良いようで身体を捻り躱したが、俺の杖が鼻面をかすめた。
「あ、危ねえ」
そろそろ試してみるか。
奴の横面を力いっぱいぶっ叩こうとすると、木剣を立てて受けようとする。
俺はすかさず3番目の部分をひねり杖の接続を外す。打ち込みは木剣で受け止められるが、止まった瞬間に杖の先が慣性でクネッと曲がりゼレックスの後頭部を打ち叩いた。
[ゴン]
「痛てぇぇぇぇぇぇぇぇ~!」
「おお~」「なるほど、そうなっているのか」
「面白いな」
「あ~、痛てぇ。兄ちゃんずるいぞ、それ」
鼻の頭を赤く腫らしたゼレックスが後頭部をサスリながら文句を言う。
「醜女のヒモですから、このぐらいしないと」
「くっ、くっ、くっ。おかしな兄ちゃんだぜ、気に入った。仲良くやろうぜ」
「こちらこそ宜しくお願いします」
やはり話の判る人達のようだ。翌日、オーク討伐の打ち合わせが行われた。全体で300頭の集落だという。
そう言えば前回のオーク討伐の時にはオークキングとクィーンがいたんだよな。念の為に聞いておくか。
「上位種のいる可能性は?」
「うむ、……オークジェネラルがいるのは確認されているので、それ以上の存在を否定は出来ない」
「300頭といえばかなり大きい集落だ、あり得るな」
「"シャレイドの旋風"は実質Bクラスだから良いとして、キングがいたらCとDクラスの集まりではキツイぜ」
「そうだな」
「解った、副ギルド長のプリリアさんに相談してみる。すまんが明日また集まってくれ」
「おう」「分かった」
1日の暇ができたので実験地に植える果物、野菜の種や苗があればと思いを街を散策する事にした。
やはり果物と野菜の値段は他の国より高く10倍近くした。手に入ったのは、元の世界のトマト、南瓜、サツマイモと同じような野菜とリンゴのような木の苗だった。
小麦については、ほとんどエルフの国からの支援物資との事だ。それも王都からの分配になるので、たいした量は入ってこない。ここの特産品であった米は絶望的だそうだ。
しかし商店の人から、村にいた親戚が避難する時に持って来たという小麦と米の種籾を売ってくれたので助かった。
「状況は深刻ですね」
「そうだな。だが、この種籾があればなんとかなるだろう」
☆☆☆☆☆
どれどれ、あの大ぼらふきの奴から貰った石鹸を試してみようかしら?
なに……?このきめ細やかな泡立ち。
流した後のしっとり感。肌に手の指が吸い付く……モチモチの触感。
石鹸がこれなら、シャンプーとクリームはどうなのよ?
…………ああ、素敵。
次の日、ギルドの女性職員全員に質問攻めにあうラモーヌ嬢であった。
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