9 再会 ーギダー
午後になって雨が止んだ。まだ風は少し強いが、雲があって気温が低いのは助かる。
凪だ。
洞窟から出られる。
ギダは大人や年上の子どもたち数人と食料集めに出かけることになった。嵐で落ちた木の実やハザの実などを、泥が埋めてしまう前に採取する。
泥がついていることは問題ではない。あとで川の水が澄んでから洗えばいいだけなのだから。
「あんまり魔物の岩に近づくなよ。」
大人の1人がギダに注意をする。
「うん。」
もちろん、ギダは近づくつもりだ。
あのあたりにはハザの茂みがたくさんあった。おそらく実も、この嵐でたくさん落ちただろう。倒れているハザは穂の部分だけナイフで切り取って持ってくればいい。
でも、ギダの狙いはそれではない。
また、あの精霊に会えないかな——。
ギダは胸の内にかすかな期待を抱いている。
とてもきれいな精霊だった。あれは、絶対に魔物なんかじゃない。
きっとあの「魔物の岩」の中には、魔物と精霊が住んでいるんだ。
もう一度、会えないかな。あの精霊に——。
そしたら、今度はこちらから声をかけてみよう。「マナハ!」・・・と。ギダの名前は覚えていてくれるだろうか?
ギダは植物の間の岩をいくつも回りながら下りてゆき、ハザの実を袋にいっぱい詰めながら、あの精霊が消えていった岩の表面が見えるところまで来た。
魔物の岩の上の方には、いくつもの眼がある。あれはおれを見てるんだろうか? そう思うと少し不気味だ。どこを見ているか分からない眼なのだ。
森の中の最も大きな獣であるザッタでさえ、目というものはどこを見ているか分かるものなのに・・・。
第一、こんなにいっぱい目のある生き物は他にはいない。いや、そもそもこれは生き物ではなく岩なのだが・・・。
でも、突如穴が開いて蟲を吐き出したり戻したりするということは・・・、生きた岩なのかもしれない。
だから・・・「魔物の岩」・・・。
ギダは大きな魔物の岩の、その図体の割には小さく見える眼を見上げた。
そして・・・、その眼の1つの中に、あの精霊の姿を見た。
見た。・・・・と思った。
というのはそれはすぐに消えてしまったからだ。
岩の眼の中に棲む精霊?
この岩はいったい何なんだろう? 大人たちは「魔物の岩」と呼ぶが、棲んでいるのは本当に魔物だけなのだろうか?
たしかに、そこから出てくる恐ろしい蟲が唸りながら森の木々を喰い、大地の魔まで喰い漁ってゆく。しかもギダたちが動き出す「凪」の時に限って。
しかし、ギダにはあの優しく微笑む精霊が、あの蟲と同じものだとは思えなかった。
ギダがちょっと呆けたように岩の眼を見上げていると、突然、岩の地面に近いところに人が通れるくらいの穴が開き、そこからあの精霊が飛び出してきた。
そして、顔を輝かせてこう言ったのだ!
「ギダ!」