8 気になる男の子 ーマナハー
あれからマナハは暇さえあると外縁の窓のところにやって来て、外を眺めた。
あの子、また来てないかな?
最後に怯えたような表情を見せられてしまってから、マナハはずっとそれが気になっていた。
あの子は「外」からやって来たのに違いない。この中に誘ったことで怯えた、というのはそういうことだ。
マナハは自分なりに考えて、そういう結論に達した。
今度会ったら、お菓子をあげてみよう。食べてくれるかな?
猫の仔でも相手にするような気分でいる。
窓の外は嵐が荒れ狂っていた。木の枝や、巻き上げられた砂や小石が、容赦なく窓にぶつかっていく。
シェルターの耐衝撃窓でなければ、とても耐えられるような嵐ではない。もちろん、これが普通の状態だ。こんな状況がもう3日も続いている。
嵐が収まれば、今度は50度を超す高温がやってくる。そして時折、突風と共に突然の低温がやってくる。その合間に、穏やかな日が時々ある。嵐と酷暑の隙間みたいな時間だ。
これが「自然」、外の世界だ。
外の植物や小動物は、この気候に耐えられるもの以外はほぼ死滅してしまったと学校では教わった。
シェルター内で栽培している植物を「外」に出そうものなら、1週間もしないうちに枯れてしまう。
人間も同じだ。シェルターの中でなければ、とうてい生きてゆけるものではない。
とすると・・・。
あの子はやっぱりトロルだったんだろうか?
それとも、この近くに別の都市が有って、たまたまあの子は穏やかな日に少し遠くに来てしまったんだろうか?
マナハは学校の図書館で調べてみたが、この近くに別の都市があるというようなデータは無かった。
もしあの子が「外」で暮らしているなら、今、この嵐をどんなふうにあの子は凌いでいるんだろうか?
やっぱりあの子は人間じゃないんだろうか?
そういえば、手にも足にもふわっふわの毛が生えてたよね。猫よりはまばらだけど、きれい、って言っていい「毛並み」だった。
でも、ちゃんと言葉を話したよ? マナハには分からない言葉だったけど、ちゃんとマナハの名前を呼んで笑ってくれたよ?
自分のことも「ギダ」って言ってたよ?
頭の悪い子じゃなかった。ただ言葉がお互い分からないだけ——。
嵐の合間の「穏やかな日」に、あの子はまた来るだろうか?
来てくれたらいいな。
今度は怖がらせないようにしよう。
そうだ。
言葉の教えっこができたらいいな。
そうしたら、少しお話ができるようになるかもしれない。