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ホモ・ノウム  作者: Aju


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45/50

45 ノウム ーマナハー

 マナハは心臓が飛び出るかと思った。

 そこに立っていたのは、何かの制服を着た男の人だった。怖い顔をしている。

「扉を開けたのか? キミ!」


「あ・・・う・・・」

 マナハはすぐには声が出ない。


「外に出たのか? 他に出てる子はいるのか?」

 声が厳しい。マナハは涙目になって、ふるふると首を横に振った。


 男の人は扉の外を確認するように見回してから、タッチパネルに触れて扉を閉めた。

 それからまたマナハの顔を見る。

「顔色が悪いな。外に出たんだな? 熱中症に罹っているようだな。」


「ご・・・ごめんなさい・・・。」

 それを言った途端、マナハの目からぽろっと涙がこぼれてしまった。

 男の人はそれを見て、ちょっとため息をついて、それから少し優しい表情になった。

「水分が足りてないのに、余分な水分を流すな。ほら、こっちにおいで。」


 男の人は、マナハが行ったことのない奥の部屋の方にマナハを連れてゆき、そこに置いてあった荷物から水筒を取り出すと、カップにお茶を注いでくれた。

「ほら、飲みなさい。水分を補給しないといけない。」


 お茶は美味しくて冷たかった。

 体が水分を欲していたのだろう。マナハは2杯もおかわりをしてしまった。

 男の人は苦笑しながら何かの機械を触ってモニターを見始めた。

「いったい、どのくらい外にいたんだ?」


 あ、カメラがあったんだ。

 モニターにはマナハが外でうろつく様子と、トロルの子たちが倒れたマナハをシェルターに運び込む様子まで写っていた。


 男の人の表情が、みるみる険しくなっていく。

「なんてことだ!」


 男の人は怖い顔でマナハをふり返った。

「おまえ・・・、ノウムと接触したのか!? そこ、動くな! じっとしてろ!」


 マナハは男の人の剣幕に、泣くこともできないまま、椅子の上ですくみあがった。

 何? これは・・・?


「保安局を。」

 男の人は端末でどこかに連絡を取り、マナハには分からない難しい言葉で何かを話していた。何度か「ノウム」という言葉が聞こえた。

 それからマナハに向き直ると、怖い顔のままでマナハの体を視線だけで押さえつけた。

「動くな。今、保安局が来る。それまでそこでじっとしているんだ!」



 どのくらいの時間だったろう? ほんの5分くらいか、30分以上も待ったのか、マナハには分からなくなっていた。

 頭まで白いぶかぶかした服に身を包んだ大人たちが何人も入ってきて、そこらあたりに何か霧のようなものをまき始めた。

 マナハは、というと、担ぎ込まれたカプセルのようなものに入るように言われた。


 マナハがおとなしく中に入るとカプセルの蓋が閉められる。ひどく不安になってあちこち見回すが、白い大人たちは皆フェイスマスクに光が反射して顔の表情がよく見えない。


 わたしは、何かとんでもないことをしたんだろうか?

 これから、どうなるの・・・?


「怖くはないよ。キミは病気に感染している可能性があるから、検査しないといけないんだ。」

 白い大人の1人が、優しい声でマナハに語りかけた。


「あんたもだ。1週間は隔離だぞ。」

「えらいもん、拾っちまったな・・・。」

 最初にマナハを見つけた男の人がぼやくのが、カプセルの中でも聞こえた。

「だいたいあんた、ちゃんとモニター確認してないのか? 2週間前にも外に出てるぞ、この子。」


「ID は? マナハ・キセ。B72地区14-Cか。両親に連絡をとってくれ。とったところで面会できるわけじゃないがな。」



 マナハはカプセルに入ったまま、白い部屋の中に入れられ、カプセルに入ったままで血液や喉の粘膜を採取された。

 カプセルの中のさまざまな機械がマナハの体のあちこちを触ったり押したりしながら、何かを検査してゆく。


 マナハは不安に押しつぶされそうになった。

 わたし・・・死ぬの?

 倒れたのは、暑かったからじゃなくて・・・?



   *   *   *


 中央衛生局に呼び出されたキセ夫妻は、娘のマナハがやっていたことを聞かされて卒倒しそうになった。

「マナハは! マナハは無事なんですか?」

「今のところ、検査では特に危険な細菌やウイルスは検出されていません。症状はただの熱中症のようですが、外に出ただけならともかくノウムと直に接触していますから。数日は様子を見ることになります。」


 母親は椅子にへたり込んだ。

「あの子は・・・なんてことを・・・。」

「1週間経って再検査して、特段異常な遺伝子が見つからなければ面会できます。」


「私たちの育て方が・・・間違っていた・・・?」

 顔を覆ったままか細くつぶやいた母親に、父親の方がなだめるように声をかけた。

「子どもの好奇心というのは、そういうものだよ。私も、もう少しちゃんと家で会話するべきだった。」


「私たちの管理にも問題がありました。まさか、あそこに子どもが入り込むとは想定していませんでした。」

 そう言って、保安局の担当者は夫妻に頭を下げた。

「ただ、あそこは何らかの理由で外に取り残された人が緊急に中に避難するための非常口ですから、鍵をかけるというわけにも・・・。」


「いや、私たちのしつけの問題で・・・。こんな大ごとになってしまって、ご迷惑をおかけして・・・。」

 父親のテリン・キセが逆に頭を下げるのを見て、むしろ管理の甘さを責められるかと思っていた保安局員は少し狼狽うろたえた。

「ノウムと接触してしまったのは、運が悪かったと申し上げるほか・・・。」


 娘の様子は、隔離室のモニターで見ることしかできない。

 カプセルに入ったマナハは、モニターで見る限りは不安そうにしてはいるが元気なようだった。



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