34 少し寂しい日々 ーマナハー
今日は月に1度の集合日だ。
普段の授業はオンラインで好きな時間に受け、課題を毎日提出するだけなのだけど、今日はクラスメイトみんなと先生に直接会う日。
マナハは端末を持って、少しおめかしして、地区の学童集会所までメインストリートを歩いていった。
メインストリートには人があふれていて、面白そうな店やおしゃれで気取った店が並んでいる。そういうところに行くのも楽しいのだけれど、今のマナハにはもっとワクワクする場所があるのだ。マナハだけの秘密の場所が——。
シェルターは広いので4つの地区に分けられていて、それぞれに3クラスずつある。6歳から9歳までが1クラス。10歳から12歳までで1クラス。そして13歳から15歳までが1クラスだ。
初等教育プログラムはこれで終わりで、そこから上に進学したいものはテストを受けて高等教育プログラムを受けることになる。
12歳のマナハは中級クラスで、ここには34人いる。
年々子どもの数が減っていて、シェルターの人口も減り続けているというが、そういうことはまだマナハの意識の外にある。
とりあえず、今のマナハにとっての興味は、クラスで同年齢の女の子ヒウリイとの会話と「外」の草原での冒険だった。
「おはよう! ヒウリイ。」
「マナハ! 元気してた? ポロンさんのお店であって以来だよね?」
マナハは迷っている。
草原の冒険と「外」で出会ったトロルの男の子のことをヒウリイに話すべきかどうか。
ヒウリイとは「親友」だ。とマナハは思っているが、それでもこの秘密を彼女に話すことは微妙な問題を含んでいる。
ヒウリイは秘密を(たぶん)守ってくれると思うけど・・・。それでもマナハは躊躇わざるを得ない。
だってこの秘密を知れば、ヒウリイは間違いなく一緒にマナハについて行きたいと言うに決まっているし、そうなれば危険を冒すのは2人になる。
1人よりは2人の方がバレやすくなるだろうし、ヒウリイはうっかり秘密を漏らしてしまうかもしれない。
バレたらきっと大変なことになる。
どう大変になるのかは分からないけど、叱られるのは間違いない。下手をすれば、あの扉は鍵がかけられてしまい、もう外には出られなくなるかもしれない。
そうなったらもう、ギダには会えなくなるかもしれないじゃない?
だから、マナハはまだ、草原の冒険のこととトロルの男の子ギダのことは誰にも言わないでいる。
もう少し、ギダとお話ができるようになりたい。言葉を覚えて、お話ができるようになったら・・・、ヒウリイにだけは紹介してもいいかもしれない。
トロルの男の子と自分は知り合いなんだ。って、自慢してもいいかもしれない。
ただ、そんなマナハもこのところ少し不安なことがある。
マナハは前よりもたくさんのお菓子を袋に入れて、よく廊下の一部にあるホールの窓から外を眺めてみる。特に嵐が収まった後などは——。
時々は、あの扉から草原に出てみるが、あれからギダは1度も姿を見せないのだ。
マナハは自分が、前みたいに草原に出るだけでワクワクしなくなっていることに気がついている。
ギダの姿が見えないと寂しい。
どうして来てくれないんだろう?
嫌われちゃったのかな?
前にお菓子をあげて別れた時は、そんな雰囲気じゃなかったのに・・・。
まさか・・・。
雷に打たれて・・・なんてことはないよね?
マナハは、そういう悪い想像を頭を振って追い出した。
そんなこと、あるわけない! だってトロルの子だもん。雷なんかにやられたりしないんだから!
じゃあ、どうして来てくれないの?
遠くに引っ越しちゃったんだろうか?
マナハにとって、ギダのいない草原はなんだか寂しい風景になってしまった。
そんなマナハを岩の陰や森の木の陰からギダが見ていることを、マナハは気づいていなかった。
いや、ギダだけでなく、他の大人や長老も見ていたのだ。




