33 戦果と代償 ーアッジスー
駐屯所に2人のアウトサイダーが現れたことほど、その場にいた兵士たちを驚かせたことはなかった。
侵入者を排除するためにほとんどの兵士が居住区に出払って、駐屯所はむしろ手薄になっていたし、そもそも狩られる者が狩る側の本拠地に飛び込んでくるとは考えてもいなかったから完全に油断していた。
銃を構える暇もなく、一瞬で3人がアッジスの刃の犠牲になった。
駐屯所には、外部に侵攻するための戦闘車両の格納庫がある。
どこか他のシェルターと「戦争」するためのものではなく、アッジスたちのようなアウトサイダーの「テロリスト」を掃討したり、資源を採りに出かける車両を護衛するためのものだ。
格納庫で、警備の兵士5人を殺害した。3人はアッジスの剣で、残り2人はモランが銃撃戦の末に射殺。
その間にアッジスが戦闘車両のドアを開けて、運転席に手榴弾を投げ込んでゆく。どのみち生体認証がなければ動かない車など、奪っても意味がない。
駆けつけた応援の4〜5人の兵士が発砲する中、モランとアッジスは外への扉の方に走る。すぐ後ろで立て続けに爆発が起こって、戦闘車両の3台がオシャカになった。
アッジスがコントロールパネルで軍車両の出入り口の跳ね上げ扉を開ける。
人がくぐり抜けられる程度上がったところで、モランがコントロールパネルを銃で破壊した。
跳ね上げ扉が途中で止まる。
警告音がうるさく鳴り響いた。
外はすでに嵐だった。
その風の音の中に、ド、ドン! という爆発音が混じる。
アッジスとモランが音の方に走ると、リーダーのラムズとデジンが外壁の軍用車両出入り口の前で待っていた。
たった今、爆弾2個で破壊された扉の鍵のあたりからはまだ煙が立ち昇っている。鉄製の扉は歪んでこそいないが、ロックは意味を失っていた。
ついでに自動銃座のコントローラーも内側から破壊してある。それが彼ら2人の「仕事」である。
4人で押すと扉はわりに容易く開いて、人が通れるほどの隙間を開けた。外側からの攻撃は想定していても、内側からの攻撃は想定していないらしい。
シェルターの内部で大混乱が続いている間に、4人は他のメンバーを追って嵐の中に消えていった。
今回の作戦は、ラムズとアッジスが中心になって組み立てた。
これまでは侵入口と退避口は「壁」にかけた同じ縄梯子だった。建物内への侵入も、シャッターの下りた窓をなけなしの手榴弾で破壊するか、屋上から通風ダクトを使った。
通風ダクトは屋上近くにプロペラが回っているため、何かを噛ませてこれを止めなければならない。その段階で警報が鳴るから「仕事」の時間が少なくなるし、リスクも大きい。窓のシャッター爆破も同様だ。
その点今回は、夜間に光ダクトを使うことで侵入の察知を遅らせることができた。さらに逃走方向を分け、アッジスとモランが武器の強奪を兼ねた陽動を行うことで、タイミングを見計らって敵の意識を分散させ、敵の行動を撹乱することができている。
よくできた作戦だ。
久しぶりの大戦果に「村」は沸いた。
喝采の中で襲撃に行った若い戦士たちは、稲光を浴びて狂ったように踊って見せる。
雨に濡れて肌に張り付いたボロ服の下の筋肉が、不定期に光る青白い光の中で瞬間的にその盛り上がりを見せ、ぬらぬらと光った。
が、浮かれてばかりはいられない。すぐに引っ越さねばならない。いや、引っ越すというより、シェルター側からの報復を避けるのだ。
「嵐が収まれば、ヤツらやって来るだろう。これだけの戦果だ。今度はヤツらも徹底的な捜索をやってくるだろう。しばらくは二の山の洞窟まで行って潜んでいた方がいい。」
村で一番の年寄りになるジンは、ラムズにそう言った。年寄りといってもまだ40代だが、この過酷な外の世界では40過ぎまで生きられる人間は少ない。
栄誉状態も悪く、体力の消耗した40代は既に老人の顔をしている。
「あんたの足では二の山は無理じゃないのか?」
「おれは残る。」
ジンはあっさりそう言った。
「おまえたちが行った後、年寄りばかりで話し合った。山へ入るのが難しい人間は、ここに残ろう——と。」
「殺されるぞ。今回はかなり大勢殺してきた。アッジスなんかは民間人の女の腹まで刺した。残っていたら、報復の生贄にされるぞ。ヤツらは外の人間を区別なんかしない。」
「分かっている。それならそれで、それまでの寿命だったと思えばいい。だが、上手くいけば『村ぐるみではない』と考えてもらえる可能性もないではなかろう。村に誰も残っていなければ、今度は殲滅にかかってくる。子どもは守らにゃならん。」
オレたちはやり過ぎたのか?
ラムズの顔が歪んだのを見て、ジンは歯の抜けた口を開けて声を出さずに笑った。
「逃げたいやつまで止めはせんよ。なんなら、奪ってきた食い物の中で一番美味いものを1日分だけ置いていってくれ。最後の晩餐だ。」
ラムズは言葉もないまま、ジンの皺くちゃの顔を眺めた。小さな頃から何くれと目をかけてくれた「優しいおじさん」だ。
おいていくのか? この人を——?
「あいつらは、おれたちを外の世界に置き去りにして見捨てた。自分たちの取り分が減ることを恐れて、おれたちを締め出したんだ。
それでも、生きてる以上はおれたちも食わにゃならん。特に子どもはな。ラムズよ——。」
ジンはラムズの目をまっすぐに覗き込んだ。
「リーダーたるもの、村全体のことを考えろ。」
それからジンは急に厳しい目になって声を落とした。
「東の谷筋に最近住み着いた流れ者——な。あれはたぶん、シェルターの密偵だぞ。服もボロボロで顔も汚しているがな・・・。手の皮膚が荒れとらん。」
ラムズはそいつの顔を思い浮かべた。
そういえば、最初から妙に馴れ馴れしい男だったな・・・。
「分かった。処理してから行く。」




