31 略奪 ーアッジスー
食糧庫の入り口にいたガードマンは、ナイフを喉に当てられた老人と自分たちに向けられた銃口を見て2人とも抵抗せず両手を上げた。
「扉を開けろ。緊急ボタンを押したら殺す。」
扉の鍵が開く音が聞こえた。
「よし! 奪えるだけ奪え! 5分だ。」
略奪チームは手際がいい。つい2ヶ月ほど前にも同じメンバーで襲ったから、勝手が分かっている。
「食糧庫の位置を変えていなかったな。」
「2ヶ月でまた来るとは思ってなかったんだろう。」
リーダーとサブのペーターがそんな話をしている間に、運搬係のリュックははち切れんばかりに膨れ上がった。
もちろん、運搬係でない者も少し小さめではあるがリュックは持っている。そのリュックに詰められるだけの食料を詰め込んで背負う。2人を除いて。
2人とは殿軍を務める戦士のアッジスとモランだ。
ガードマンと老人はその場に縛り上げた。こいつらは殺さない。民間人を殺せば軍の報復がキツくなる。
そこはリーダーのラムズにきっちり言われているので、アッジスも暴走はしない。
21人は食糧庫から出て1階層上に上がり、適当な個室の入り口を破ってプライベートルームへと侵入した。
悲鳴をあげる母子。夫は職場か、それとも母子家庭か?
どっちにしても目の前にいるのは、家族がそろって外の「自然」から守られてぬくぬくと暮らしている親子だ。
ふと、殺された母親の真っ赤にはじけた顔が浮かんで、アッジスの顔に暗い隈が顕れた。
それを敏感に察したラムズが片手を上げて、小さく首を振る。
「分かってる。」
アッジスも低く答える。
こいつらが殺したわけじゃない。それは分かってる。
自分たちがこの先も食っていくためには、敵との微妙な憎悪バランスが必要だ。それも分かってる!
殺していいのは基本、武器を持つ警官と兵士だけだ。
運搬係たちが窓のシャッターを開け、窓ガラスを割ってそこに縄梯子を下ろし、次々に外へ降り始めた。
外は風と雨が強くなり、嵐の様相を示し始めていたが、それで落ちるような間抜けはこのメンバーにはいない。
その間、アッジスとモランはリーダーから渡された小銃を入り口の方に向けて構え、警戒している。警察か軍が突入してきたら、遠慮なく撃ち殺すつもりだ。
もっとも、この短時間で彼らの足跡をたどって侵入した部屋を特定し、突入してくる可能性は極めて小さいが——。
18人が降りたのを見届け、リーダーのラムズが降りようとした時、アッジスがラムズに小銃を押し付けた。
「持ってってくれ。邪魔だ。」
「分かった。」
アウトサイダーの武器は貧弱だ。
21人に対して銃は3丁しかない。弾薬に関しては、もっと心もとないのだ。そのうちの2丁を、いくら殿軍とはいえ渡してしまえば残り19人の防衛がなんとも薄ら寒い。
ラムズもアッジスの剣の腕は知っている。確かにこいつなら、屋内戦闘では無骨な銃など邪魔だろう。
アッジスとモランは窓からは脱出しない。
もう1つ仕事があるのだ。