3 遭遇 ーマナハー
マナハが話しかけると、男の子は驚いたような表情を見せた。が、その目の中に怯えはあまりない。
むしろ強い好奇心を感じた。
「⁂⊂⌘@▽※≡□∴<※§◯∽⊿。」
男の子が何かを言ったが、マナハにはまったく解らない。言葉、ではあるようだが、聞いたことのない言葉だった。
この子はどこから来たんだろう? この都市ではないのかしらん?
こんな言葉はマナハの住む都市の中では聞いたことがない。もっともマナハはまだ子どもだから、上級生が習うような「文化史」は習っていない。
古い文化の中にこんな言語があるのかもしれないが、でも、それにしたってヘンじゃない? だってこの子はわたしより小さい子どもだよ?
上級生が習う「文化史」なんて習ってるはずがない。
すると、どこか別の都市?
ここと同じようなシェルターは世界のあちこちにたくさん有る。とマナハは学校で習った。昔は近いシェルターとは頻繁に行き来があったらしいが、今はほとんど往来はない。
エネルギーとして、それだけの余裕がないということだった。どの都市も、内部が生きてゆくだけで手いっぱいなのだという。
言葉が分からないのは、そのせいかもしれない。とマナハは思った。
そうしてあれこれ考えを巡らせてから、マナハは1つのアイデアを思いついた。
「マナハ。」
マナハは自分の顔を指差して微笑んで見せ、それからその少年の顔を指差して聞いてみた。
「あなたは?」
名前がわかれば、少し言葉を通じさせることができるかもしれない。我ながらいいアイデアだ。とマナハは思った。
少年は少し考えていたが、すぐに理解したらしく、にこっと笑って自分の鼻を指差した。
「ギダ。▽※≡◯⊿。」
それからマナハの顔を指差して「マナハ!」と言って目を輝かせた。
通じた!
マナハは嬉しくなってもっと笑顔になり、少年を指差して「ギダ!」。自分を指差して「マナハ!」と発音してみせた。
少年も嬉しそうに破顔して、自分を指差して「ギダ! ▽※≡◯ ギダ!」と言い、マナハを指差して「マナハ! △※≡◯ マナハ!」と言って、その黄金色の瞳を輝かせた。
もうそれだけで、マナハにはなんだか2人の心が通じ合ったような気がして嬉しくなってしまった。
それから、はっと気がつく。
「あなたはどこからどうやって来たの? 外は危ないよ。いつ天候が荒れるか分からないし、放射能もあるんだよ。とにかく、中に入ろ?」
マナハが少年の手を引こうと手を伸ばすと、少年は驚くほどの敏捷さでぱっと跳び下がった。
その目に初めて、怯えのようなものが浮かんでいる。
マナハが驚いて呆然としていると、少年はそのまま身を翻して背の高い草の陰に消えてしまった。
あれは何だったんだろう?
マナハは少年の消えていった草むらを眺めてしばらく呆然としていた。
遠くで雷の音が聞こえる。
また嵐がやって来る。
マナハも、秘密の扉を開けて中に戻った。
誰かに見つからないよう用心してもう1つのドアを開け、廊下に出る。
あの子は何だったんだろう? 人間じゃなかったのかな? チャイルドビューで見たトロルは本当にいるんだろうか?
マナハはそう考えてから、12歳にもなってちょっと幼稚なんじゃない? と思い直した。
だけど・・・。じゃあ、あの子は誰? いや、何? だって、外の草むらの中へ逃げていったよ?
大人だってモービルに乗って行かなければ命を落とすかもしれない「外」で暮らしているとでもいうの?
それともすぐ近くに別の都市があるんだろうか?
謎は深まるばかりだったが、誰か大人に聞いてみるというわけにはいかない。
だって、外遊びしてるのがバレちゃう——。