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ホモ・ノウム  作者: Aju
18/50

18 再会 ーマナハー

 嵐が収まってきたある日の午後、マナハはいつも来ている外縁の窓の前で「外」の世界を眺めていた。

 岩と岩の間の「草原」とマナハが呼んでいる背丈のある草の生えた部分は、濁流に押し倒された草が泥にまみれていた。


 しかし、あれらは強い。嵐が去れば、すぐに頭をもたげて空の方を向く。流されてきた泥を養分に、このあと何日も続くであろう50度を超える気温の中で、生き生きと葉を茂らせてゆくのだ。

 足元の泥の中からは甲羅ゴケが浮かんできて、泥が乾き切る前にその表面を覆ってしまう。


 そんなふうにして、雨が小降りになって気温が上昇するまでの束の間の時間、マナハが「外遊び」できるような「草原」が回復するのである。


 今日は行けるかも。


 天気予報は、曇り時々嵐、だった。

 空を見上げれば、雲の様子は落ち着いているように見える。日が差すほど雲が切れることはなさそうだから、それほど気温が上がることもないだろう。

 嵐の前には雲が黒くなる。ということをマナハは知っている。

 そうなったらすぐに中に逃げ込めばいい。


 マナハは空から「草原」の方に目を戻した。

 そこに!


 あの男の子がいた!


 目が合った。

 マナハは弾かれるようにして、外へ出る扉に向かって廊下を走り出した。


 ギダ!

 ギダだよね、あの子? 間違いなく!


 ポケットには今度会ったらあげようと用意していたお菓子がいくつも入っている。


 マナハは廊下からあの扉に続く扉の前で、あたりに誰もいないか見回してから、扉を少しだけ開けてするりと体をすべり込ませた。

 なぜかこの扉だけは、手動で開けるようになっている。マナハがあの「外に出る扉」を見つけたのも、元はといえば珍しい手動の扉に興味を引かれたからだった。

 その先の「外に出る扉」のタッチパネルに手のひらをかざす。端末はDNA認証でかざされた手のひらが「人間」のものであることを認証すると、扉を開いた。


 全開するのを待たずに、マナハは外へ飛び出した。


「ギダ!」


 少年は初め、少し驚いたような表情を見せたが、マナハが名前を呼ぶと少年も顔を輝かせてマナハの名を呼んだ。

 マナハはそれだけで嬉しくなってしまい、そのまま甲羅ゴケの上を走ってギダの傍まで行くと、もう一度満面の笑顔で

「ギダ!」と言ったのだった。


「あんた、外で暮らしてるの? どうやって?」

 もちろん、通じるはずはない。しかしそれでも、ギダは戸惑いながらも笑顔をマナハに返してくれたのだった。


 マナハは急いでポケットから用意していたお菓子を取り出し、ギダの目線に合うようにしゃがんでから、それをギダに差し出した。

「はい。お菓子、あげる。」

 ギダの手をとって、その手のひらの上にお菓子を乗せる。そしてそれを指差して、もう一度ゆっくりと発音してみせた。

「お・か・し。」


 それからマナハはポケットからもう1つお菓子を取り出し、ギダの目の前で赤い包みを破って見せる。

 中のクッキーを取り出し、もう一度「お・か・し」と言ってから口に持っていって、サクッ、と食べて見せた。


「お菓子だよ。おいしいよ。食べてごらん?」

 少年は少し戸惑っていたが、すぐ、にこっと笑うと

「オ・カ・シ。」と発音してから、何かよく分からない言葉を発して、マナハがやったように包みを破って中のクッキーにぱくっとかぶりついた。

 それから、ちょっと跳び上がるように体をぴくっとさせて、それから口にクッキーを含んだまま目をまん丸に見開いた笑顔になった。

「⌘⁂<※=!」

 ギダが口をモゴモゴさせながら何か言ったが、マナハにはギダの使う言葉は分からない。


 でも、その表情からギダは「美味しい!」って言ったに違いない。

 とマナハは思った。


 そう思ったら、マナハはもっと嬉しくなって、ポケットの中のお菓子を全部取り出して、ギダの手に押し付けたのだった。

「これ、ぜ〜んぶギダにあげる!」


 また遠くに雷の音が聞こえ出した。

 空を見上げると、西の方の空の雲が黒くなってきている。また嵐が来る。

「ギダ。嵐が来るよ! わたしも帰るから、あなたも帰って。」

 そう言ってマナハは立ち上がり、扉の方に歩きかけてから、つとふり返った。


「嵐が行ったら、また会おうね。」

 そう言って小さな黒い少年に手を振る。少年はお菓子を抱えたまま、にこっと笑った。

 伝わったかな?



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