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ホモ・ノウム  作者: Aju
17/50

17 国土改造計画 ー千明ー

 都市計画そのものを変えてしまう。


 頻発する気象災害に漫然と広がった「希薄」な街で対抗するのではなく、強固なシェルター・シティで人々の生活やインフラを守り、ハザードマップの危険地帯は「自然」の為すがままにその力をやり過ごす。

 高い堤防や砂防ダムや擁壁など、人工的な構造物で自然に対抗しようとするのではもはや激甚化する気象災害に追いつかない。

 個々に「防災」しているよりは、国家プロジェクトとして「防災都市」を作る。

 平面的に拡がった「都市」の排水機能を作り変えて都市洪水を防ぐより、防御能力を高めたコンパクトなシェルター・シティを作る方が合理的で安上がりに済む。


 国土交通省から総理官邸に持ち込まれた「国土改造計画」は、日本の都市の形を変えてしまうというラディカルなものだった。

 ひと昔前だったら「絵空事」として一笑に付されて終わっただろう。

 しかし、今は繰り返される気象災害に国も国民も疲弊してきている。そんなSFみたいな話もありかも・・・。と思う人も少なくない数に上っているだろう。

 何より、政府は今、災害復興予算の不足に頭を悩ませている。


 総理大臣室で石沼総理は、この過激ともいえる提言書を前に腕組みをしたまま中を睨みつけていた。

 窓にはまた激しくなった雨が叩きつけている。


 いけるかもしれない。

 いや、ここは踏み出すべきだろう。


 保守層からの抵抗はあるだろうが、ここでぐずぐずしていては、やがて予算は災害に追いつかなくなり、ついには国は全体として衰弱をし始める。

 衰弱してしまえば、安全保障さえままならなくなる。これは多少強引にでも押し切るべきだろう——。


 石沼大河いしぬまたいがは近年珍しい、ブルドーザーのような力押しの政権運営をするタイプの総理だった。実際、産業界の中でも土木建設系にその強い支持母体を持っている男でもある。

 そのくせ、緻密な計算力もあり、しかも胆力もある。ここしばらく政界にいなかったタイプだった。

 

 シェルター・シティ——か。面白いことを考える。

 槇山が若手に指示してまとめさせた、と言うが、おそらく若手が自主的にやりかかっていたものに槙島が乗っただけだろう。

 民間ではそういう名のメガビルがいくつか建設されているが、日本の国中をがらりと変えるなどという大胆で斬新な発想を、あの男が1人でやったわけがない。あいつは調整型の官僚だ。

 まして、遠野にこんな大胆な政策提言の先頭を切るような胆力はない。


 だが、アナウンスなら遠野は向いている。

 これを石沼政権の目玉政策としてぶち上げる、と言ってやればあいつは張り切って発信するだろう。

「遠野くんを呼んでくれんか。あ、いや。閣議を招集してくれ。」

 そこまでの考えを巡らせてから、石沼は傍らの補佐官に声をかけた。


 国土交通大臣の遠野太郎はやや軽っぽい人物ではあったが、言葉の歯切れがよく、発信力もあって民衆ウケのするタイプだった。


「こんな本あるの知ってる?」


 SNSで発信される彼の言葉は、短い文章の中に核心をついた言葉が多く含まれ、マスコミも取り上げやすい。ぐだぐだ遠回しに言わないところが人気であった。


「こんな本」とは、茜部教授の『防災都市計画:コンパクト・シティの可能性』のことだ。

 このところマスコミで取り上げられることが増えてきた茜部悠樹あかなべゆうきという人物は、首都圏に最初のシェルター・シティができる5年も前から、その必要性を説いてきた現役の建築家でもある。


 槇山は同時に、大手ゼネコンや鉄道会社、IT関連企業に根回しを始めた。最初は「政策勉強会」と銘打った酒の席での小さなささやきから。

 与党への献金が増え始めた段階で、政府部内での「検討」内容のマスコミへの一部リーク。もちろん、与党有力議員への働きかけにも汗をかく。

 槇山には、槇山なりの野心がある。


 そうして3ヶ月ほどが過ぎた。

 その間、2つの大規模気象災害があり、そこへ槇山と共に遠野国交相も現地視察に入った。大臣の現地視察は実に3年ぶりになる。

 その政治的意図はあからさまなほどだ。


 もちろん、千明たちもそういう場所に同行している。

「汗をかくことだ。提言を実現させたいなら。」

 槇山は千明の耳元で、そんなふうに言った。



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