水中
ごぽぽぽぽ。
ここはどこだろう?
ひんやりとした世界。
下から空気の泡が立ち上ってゆく。
水の中?
星花はぼんやり思った。
「星花。私はお前。お前は私」
背後で声がした。
振り向くと、揺らぐ自分の髪の間から向こう側に誰かがいるのが見えた。
両手で髪をかき分けて、視界を広げる。
もう1人の星花がいる。
「お鏡さま!お戯れを!」
「戯れなものか!お前は私になって広い世界を納めねばならない」
「私には無理です。私は嫌です」
もう1人の星花が近づいてきて星花と一体化した。
「私は私。全てを統べるもの。私が世界」
星花は意識が朦朧としてきた。
「あれ?どうしてだろう、右手が温かい」
冷たい世界でそこだけが熱を持っている。
「星花!星花!なぜ耳を貸さぬのか?なにに気を取られておる?」
お鏡さまの焦る声が響く。
この右手の温もりが本物。周囲の全てが紛い物。私はこの右手の温もりを信じる。
お鏡さまの呪詛のような声がひっきりなしに聞こえていたが、星花は右手に集中して耳を貸さなかった。
「誰かが手を繋いでくれている」
「だからどうした」
「これは信じられる唯一のもの」
「星花、星花。私と一緒になってその力を貸してくれ。うつわを渡せ!」
かっ!
ものすごい勢いで火球が星花の心臓に飛んできた。しかし、星花の魂の本体はそこにはなかった。
「くそう、どこにおる」
「お鏡さまどうかご理解ください。私にはまだ手放せないものとやらなければならないことがございます。どうか、解放してください」
「私は私」
そして、あなたと私は別の存在!
星花はお鏡さまに打ち勝った。