装束
白衣に緋袴の衣装に着替えて、星花は以前お姉さんたちと暮らしていた日々を思い出していた。
「馬子にも衣装だな。いくぞ」
間者が障子を開けて言った。
星花は間者の後について長い廊下を歩いて行った。
「聞こえる」
「なにが?」
「誰かが、ここから出してって何度も何度も言ってるの」
「そうか」
それから、拓が。少し距離を置いてついてきている。星花はほっとした。
建物の中央部に位置する少し広めの部屋へ通された。
ゆらゆら揺れる蝋燭の灯り。
「星花」
「星史郎さん。無事だった」
「お前も」
これが、お鏡さま。
五色の糸、白い紙。
3人の巫女たちが古い丸い鏡を玉串で祓っている。
「さあ、お鏡さまにお顔を見せて」
言われるまま、星花は鏡を覗き込んだ。
ぼんやりと自分が映っている。
それはニヤリ、と嗤った。
よく来た。私の新しいいれもの。
きゃー。
星花は叫んで倒れ込んだ。
もがき、苦しんでいる。
「星史郎!星花はどうすれば助けられる?」
乗り込んできた拓が聞いた。
「懐のものを」
「これ?」
黒い鯉のウロコ一枚。
「すまんが墨と筆を」
巫女たちは顔を見合わせて、星史郎の言う通りにした。
「己」
そう一文字だけ書くと、星花の額にウロコを貼り付けた。
「星花、お前次第だ」
星史郎は印を結んだ。
星花は大人しくなり、その場に横たわっている。
拓が星花の右手をしっかりと握りしめた。
「初めて会った時からずいぶんと時が経ったな」
星花の装束姿を見て、拓がつぶやいた。