第五話 ミリオタ、本領発揮
廃村周辺を野営地としている第206歩兵連隊の大隊を率いるアーデルハイト少佐とその中隊を率いるシュヴァルツ大尉と中隊の小隊を率いるバウムガルトナー少尉の3人は村の2階建ての納屋へと赴いた。
もうすぐ実行される作戦とやらの説明を受けるためだ。
近くには干し草の山が積まれ、あたりにステンレスの空のミルク缶が転がっている。
「来い、今から私たちが執行しようとしている作戦の最終確認を行う」
少佐は納屋の入口の木の扉を蹴っ飛ばすと2人を誘い込み、階段を上がらせて2階へと導いた。
2階の外壁の一部は崩れて骨組みの木がむき出しになっている。
少佐が指を指した方向の木の窓枠だけの窓からシュヴァルツは顔を覗かせる。
廃村の周りは低木や藪に囲まれているが、その先に開けた草原が見える。
そのさらに先に針葉樹林がどこまでも広がっていた。
「とりあえずアーデルハイト少佐、作戦を教えてくれ」
「大尉、敬語はどうした」
「あ、すいません…」
少佐は呆れ顔で大尉に憐れみの目を向ける。
「フッ、まぁ仕方ないな。君はまともな教育を受けてこなっかそうじゃないか、そんなヤツに敬語を使えなんて無理な話だ」
「いや使えますよ少佐、敬語は得意ですから」
「得意なのは今みたいなホラじゃないのか?
別にいいさ。君みたいなどうしようもないヤツに敬語で慕われる方がむしろ私は不愉快だ。
私に対してはタメ口でいいぞ、ただし対等だなんて思うなよ」
少佐が意地悪そうにケタケタ笑う。
「そうかよ、じゃあ遠慮なく使わないぜ」
大尉の反撃に、二人はしばらく鋭い目つきで睨みつけたまま動かなかった。
一悶着あり、上官に対して敬語ナシという異例を当てはめられた大尉、これも大尉が軍人として論外の位置にいる愚将だからこその措置なのだろう。
そんな状況を打破してくれたのはバウムガルトナーだった。
「す、ストーップ!少佐!意地悪はやめてください!大尉!敬語じゃなくても上官には敬意を持ってください!」
割って入っきた彼女のお陰でとりあえずその場での衝突は避けられた。
少佐は気を取り直し説明を始める。
「まずあそこは山と山の間に広がる盆地だ、左右の山々には敵の山岳部隊が強固なトーチカを築いていて攻め入ることは無理だった。
そこで私達黒逸軍はここに目をつけた。
盆地には針葉樹林が広がっていて視界が悪い、敵兵が潜伏するのにはもってこいだ。
あそこには相当数の敵兵が潜んでいると思われる。
奴らはまだこちら側の動きには気づいていない。
そこで生み出した作戦が『シュプリューレーゲン作戦』、つまり『霧雨作戦』だ」
決め顔で語る少佐。
彼女に代わって今度はバウムガルトナー少尉が語る。
「後方の8.8cmFlaK高射砲陣地から森を砲撃し、兵数を減らし、焦って突撃してきたところを第31戦車連隊と前線構築物を破壊してくれる第13工兵連隊から抜粋した中隊、そして私達第206歩兵連隊で殲滅するんです。
アーデルハイト少佐の原案なんですよ、それに作戦参謀本部が少し手を加えて今に至ります」
するとシュヴァルツ大尉私はわかりやすく呆れたようなため息をついた。
「…せっかくの戦車を歩兵砲みたいに扱ってもらっては困る。
古い、古いぜ全く。
お前はこの戦争を前時代的な塹壕戦かなにかと勘違いしているんじゃないか?
戦車をもっと前線に出して有効しようぜ、そのための兵器だろ?アレ」
そんな不遜な態度が気に食わなかったのか、アーデルハイト少佐は少し語気を強めて食って掛かる。
「何だと!良くも私に対してはそんな口をッ!敬語は使わなくていいといったがそういう口は論外だ!
それに戦車は高いんだ、一輌ウン億の贅沢品だ!
そんなポンポン対戦車弾飛び交う前線に出せるかッ!」
戦の場に及んでもな保守的な事を言う少佐。
ミリオタとして、そして戦争の歴史を知っているシュヴァルツ、ともい宅朗は説く。
戦争で勝つには何が必要なのかを。
「黙れッ!!
戦争はルール遵守のお遊びじゃないんだぞッ!
お貴族様のスポーツじゃないんだぞッ!!
たった一つのを命を賭けてする殺し合いだ!!
軍には常に最先端が求められるんだ、兵器は国の置物じゃない、保守的な考えじゃだめだ!軍人最大の敵は有能な敵兵より無能な味方、そしてそれよりも『伝統』だッ!
伝統をありがたがるのは平和主義者のすることだ!命をかけて戦う俺のたちには常に時代の最先端が必要なんだ!
なんのための装甲だ、なんのための回転砲塔だ、なんのためのキャタピラだ!戦車のもつ機動力を最大限に活かせずして何が装甲師団だッ!」
「た、大尉…ッ!言い過ぎですよ…!」
このままでは怒鳴り合いに発展してしまうと判断したのだろう、バウムガルトナー少尉が素早く静止に入る。
「よくも…私にそんな口を…!」
だが意外なことに、少佐もなにか思うことがあるらしく特に反論したりはしてこなかった。
落ち着きを取り戻した大尉は少佐へ謝罪する。
「…少し言い過ぎた、申し訳ございません」
「…いや叱りすぎた、本当は耳が痛いよ。君の言っている事は正論だ。
霧雨作戦の原案はたしかに私だが、君の言うような作戦もいくつか出しては見たが、やはり上層部は保守的でね、なんとか受けて入れてもらおうと功績を急ぐあまりこんな古い作戦しか提出できなくなってしまったんだ、むしろ私の心の内を代弁してくれて嬉しい」
意外な言葉が飛び出してきた。
少佐の少し弱々しい声色を聞くと彼女が王室復興のため、奮励努力しているのだとひしひしと感じ取れた。
シュヴァルツは彼女の心の内を察すると、探るようなこともせず、話を作戦へと戻す。
「…ところで、制空権は確保できているのか?」
「あぁ、ありがたいことに黒逸空軍は優秀なエースパイロットが多くてね、おかげて連日、爆弾一つ降ってこないいい天気さ」
その言葉を聞くとシュヴァルツはニヤリと白い歯を見せて笑った。
「ならやることは一つだ。
アーデルハイト少佐、俺のいう作戦内容に変更しろと作戦参謀本部に伝えろ。
まず急降下爆撃機を以て森を素早く爆撃し、敵軍の指揮系統と現場の混乱を招く。
そこに戦車連隊と工兵中隊、歩兵連隊が電撃的に進軍、敵陣の混乱の中を突っ切り背後へ回って分散させ各個撃破する。
これが本当の『シュプリューレーゲン作戦』だと伝えろ。
霧雨の如く現れて霧雨の如く敵を霧散する。
少佐、これが真の軍略だ」
その説明を受け、少佐と少尉はしばらく固まってシュヴァルツの誇らしげにドヤ顔を見つめ直す。
(『戦略ストラテジーゲームの廃人(自称)』の名は飾りじゃねえぜ、こんなに本格的な軍略、楽しまなきゃ損ってことよ)
「なるほど…たしかに、背後に回ったほうが被害は少なくてもすみますね…でもそれまでの過程が強引すぎませんか…?もう少し慎重に…」
バウムガルトナーの言葉を遮って少佐は言う。
「…いいだろう、なかなか面白い案だ。作戦参謀に説得して見る」
「えっ…!少佐ッ!?」
「いいじゃないかバウムガルトナー、個人的に気に入ったんだ、私もこういう作戦を指揮したい。
だが大尉、そんな防衛をかなぐり捨てての決死的な作戦は前例がなく、本部を納得させるのに少し手こずるだろう。
一応君の名前を原案者としては出すが、もし失敗すれば、ただでさえ愚将の君は二度と払拭できない汚名を彫りつけられる。
それでもいいな?覚悟の準備はできているんだな?」
脅しっぽくも取れる少佐の文言を大尉は余裕そうに突っぱねる。
「なるほど、相当な責任を要するんだな?つまり成功すれば汚名返上と言うわけだ。
前例がない作戦を立案してそれを成功させて見せたんだからな。
いいだろう、俺は信じている。
空軍と陸軍の連携こそが電撃的な攻撃を可能にできると」
あまりに堂々としているシュヴァルツに気圧されたのか、バウムガルトナーもアーデルハイトも何も言えずだんまりを決め込んでしまった。
「…受諾されれば伝える。
それまで君は中隊の部下を労ってやれ」
少佐は2人を納屋の2階に残したまま、その場を去っていった。
「…随分強気でしたね、そんなに自信があるんですか?」
心配そうに大尉の顔を伺う少尉。
だがその心配事を吹き飛ばすかのように、自信満々に笑って答えた。
「言っただろ?俺は戦争を知っているって。
任せろ、必ず俺が戦争を勝利に導いてやる。
さぁ!俺の本隊はどこだ?部下の顔は見ておかないとな!バウムガルトナー!」
「…もう、また根拠のないことを…」
深いため息をついて困ったように笑う少女を連れたシュヴァルツは納屋をあとにする。
季節は10月ぐらいだろうか、冷たい空っ風が大地を撫でる。
シュヴァルツは風に飛ばされぬよう、頭の制帽を抑えながら野営地へと帰った。
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【補足】
この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。
登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨




