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第三十九話 還都

にぎやかな帝都に到着したアーデルハイド少佐とシュヴァルツ大尉。大尉が駐車した軍用車両から下車すると二人っきりで街を散策した。


人通りの多い歩道を歩いているとすれ違った一人の少女が新聞を持って折り返してきて声をかけてきた。


「あの…!シュヴァルツ大尉ですよね…!」


突然のことで思わず(ども)ってしまうが、紙面に載せられた白黒の彼女の写真を視認すると自分のファンなのだと考え少し落ち着いた。


「そうだが…」


「握手お願いします!」


「いいぜ、ほれ」


手を差し出すと握力が強い両手に包まれて上でに激しくゆすられた。


「ありがとうございます!シュヴァルツ大尉!」


「んじゃあな、バイバイ」


にこやかな笑顔の少女に手を振ると彼女はスタスタと去っていった。


「人気者だな、大尉」


「ったく、軍人はアイドルじゃねーんだぞ。さっさと党大会とやらに行こうぜ」


歩みを進めていくと今度はさっきの少女と正反対の背広を着た男が声をかけてきた。


「お前がシュヴァルツだな、ちょっといいか」


「子供の次は野郎か、なんだ」


「まさか…あの話を忘れたわけじゃあるまい」


何やらきな臭そうな予感がした。シュヴァルツは怪しみながらも自分と関係があると考え適当に相槌を打った。


「おいシュヴァルツ、知り合いか?どこ行くんだ?」


「ここで面倒事起こすのは気が引ける。俺が行ってすぐ終わらせるから待っていてくれ。じゃあなー!少佐!この無敵の大尉様がとっとと片付けてくるぜ!」


「馬鹿ッ!階級を言うな…!」


大尉と男は少佐をその場に残して何処かへ行ってしまった。


「あの女の子、大尉のなりで少佐にタメきいてた……」


「少佐舐められてるのかな、だとしたら可愛そう」


話を聞いてしまった人々が聞こえる程度の噂話をする。少佐は無数の視線を感じながら少し顔を赤らめた。


「あいつ…特例ということを忘れているなぁ〜…ぐぬぬ…」


少佐を置いていった大尉はあるきながら詳しく話を聞く。


「なんの用事だ」


「とぼけるな。『陸軍司令部』、『経理部』、『金』…この単語でわかるだろう?」


「(全くわかんねぇ…もしかして俺が転生する前のシュヴァルツと関係する話か…?だとしてもいい話じゃなさそうだ)

ここじゃ言えない話か?」


「当然だ」


細い裏路地に連れて行かれるとそこから2階へつながる外階段を登って荒涼としたコンクリ造りの部屋に案内された。


「シュヴァルツを連れてきた。バックレたかと思ったがそうじゃなかったみたいだ」


目の前には軍服姿の恰幅のいい禿頭の男がソファに収まっていた。そばには複数のチンピラみたいな服装の男たちが(たか)っている。


「シュヴァルツ大尉、例の話はどうなった?」


男が口を動かす。


「例の話?なんのことだ」


「とぼけるな、我々経理部への贈賄(ぞうわい)で融通を通してくれっていうお願いの話しはどうなったんだ?一向に連絡してくれないから皆しびれを切らしているぞ、お前が横領した軍備費の修正、バレないように計らうのも苦労しているんだ。今日こそお金払ってもらうぞ」


「あ、ああ……その件か。(知らねぇ…シュヴァルツが愚将と呼ばれる理由の一つがこれか…)」


身に覚えがある分けなかった。当然、転生前のシュヴァルツの悪行であり、それを押し付けられる形になってしまっているわけだ。

大尉が答えると、彼は手に持っていた煙草を口にくわえた。


「すまない、気が変わった、金は渡せねぇ。あのときはどうかしてたな。すべて忘れてくれ」


「…そうか、名将と(はや)されて浮かれたか」


「俺は変わったんだ、金輪際、もう関わりを持つのはやめよう」


「それは残念だ。君は名将かもしれないが、今の行いは賢くない」


男が指を鳴らすとナイフを取り出した男たちが続々と大尉を取り囲んだ。


「愚行好きな男どもだ、俺に勝てると思っているのか」


「勝てると思わなければこんなことはしないさ。感謝料払えないって言うならその身体、もらうぞ」


「やってみろ!」


大尉が腰のワルサーに手をかけた瞬間、男が襲ってきた。


大尉はとっさに銃を抜き応戦する。まずは迫りくるナイフを手で素早く払い落とし、次に正面の男のみぞおちに肘鉄を食らわせる。そして怯んだ隙に男の頭を掴んで壁に叩きつけると男は意識を失い倒れ込んだ。


「弾数と敵数の数がちょっとぴったりだ、ラッキー」


男を含めて敵数は9人。気絶した男を抜いて全員射殺するという大尉なりの死刑宣告なのだ。


「黙って死ね!」


一人の男が叫びながら突進してくる。それをかわすと大尉はすかさず発砲した。

パンッという乾いた音とともに、その男は地面に倒れた。


「まずは一人目、俺に勝てるやつはいないのか?」


あれから5分が経過しただろうか。男たちの声は全く聞こえない。

大尉は鮮血の池に空薬莢が浮かぶ部屋のソファでひと息ついていたのだ。


「ひ、ひぃ…!こっ…殺さないでくれ!俺は経理部副長だぞ!」


「副長か…ぎりぎり新聞一面を飾れるかどうかの立ち位置だな、『軍の最高総司令部経理部副長、謎の死』って具合かな」


「わかった…!金はいい…!この話は無しにしよう!それで円満で終わろうじゃないか!な?なっ?」


「そろそろ通報されてそうだしトンズラしてぇ。俺は円満で終わりたいが、贈賄は軍歴に傷がつくし、それを知ってる人物が目の前にいる。薬室に残った一発、くれてやろうか」


「ふざけるなッ!お前の持ち出した話に乗った俺等が死んで、なんでお前は無罪放免で終わるんだ!納得できない!」


「俺だって納得してないぜぇ?いきなり見ず知らずの極悪軍人に転生させられてそいつが残した面倒事に巻き込まれるなんてよぉ」


「な、何の話をして…ッ!」


「納得してないなりに俺は立ち回っただけって話」


額に向けた銃口。引き金を引くと冷や汗を滴らせている軍人は壁に赤い()()を張りぐったりとして汗のかわりに血潮を垂らした。


大尉は自分の右手を見つめる。そこにはべっとりと赤い血が付着していた。


「……人を殺してもなんとも思わなくなってしまった…俺も幾分か狂ったな。

この前、心まで怪物になるんだろうか……」


深刻そうな表情でうつむく彼女、しばらく考え込むと顔を上げた。


「ま!難しいこと考えなくていっか!

嫌なこと考えるとまともになる、まともじゃあ全体が狂った時代を生き抜けねぇ。経理部副長さんよ、そのうち地獄行くから数年だけ待っててくれよな」


時代だらけの部屋を出ると足早に犯行現場から引き上げた。


「遅いぞシュヴァルツ!話は終わったのか?」


「ああ、なんか前に財布奪ったスリに似てたらしくて勘違いでリンチされそうになったけどちょっと暴れたら返してもらったわ」


「斬新な弁明だな。随分とフローラルな匂いがするが風呂でも入ったのか?」


「血ィついたまんまだと失礼かなって思って」


「失礼だと思える心があるならまず私に敬語を使え」


「別いいぜ…いや……コホン、エー承知しましター少佐ー」


「…やっぱりいいや、君に敬語は似合わない」


「よっし」


「それに…そのほうが距離感じなくて私は好きだぞ」


若干顔を赤らめて視線を外す少佐に大尉は何かを感じ取った。


「えっ…あ、あぁ…うん…そっそうか…」


大尉も照れくさそうに頬を掻くと二人並んで党大会の会場へと向かった。


結束党の大会演説に呼ばれたシュヴァルツは一階の一番前の席に案内された。

ホールにはたくさんの人々がひしめき合い、ざわめく声が聞こえる。


大きな演壇には祝い花の色とりどりの花束が飾られ、その前に並んでいるのは警備の兵士だろうか。同じ国家黒十字軍の軍服を着てシュタールヘルムを被る兵士が横一列に整列していた。

演壇の背後には黒逸第三帝国の国旗と結束党の党旗の懸垂幕が交互に飾られて静かに揺れている。


軍旗を持った軍楽隊のオーケストラが終わると、大きな拍手とともに襟を正しながら台に登ってきた総司令官ベッケンバウアーだった。


彼女は一本の前に立つと腕を組んで歓声が止むのを待ち、静かに話し始めた。


「今日お集まり頂いたのはほかでもない、これから話すのは単なる余興だ、どうかゆっくりしていってほしい。まずは巷間(こうかん)に流布している結束党の悪評の是正を話そうと思う。

反結束党の新聞社たちは、今日開かれる党大会の資金の出処(でどころ)を疑っている。だが言っておこう、貴様たちを潰す金なら十二分にあると」


そう話すとホールに少し笑い声が起きた。


「最近、北ナ連でとある思想家が刺されて殺されたらしい、奴らはそれを我々黒逸の人間の仕業ではないかと疑っている」


「デタラメだ!」と擁護の声がどこからか飛んでくるが、彼女はそれを手で抑えるような仕草をして話を続ける。


「なに、簡単な話さ。その思想家の死因はそいつの逃げる足が『死ぬほど』遅かったのだ」


拍手とともに笑い声が起こる中、シュヴァルツはじっと総司令官を疑い深い目で見ていた。


「閣下の準備が整ったようだ。ここからは民族指導者、偉大なる党首であり首相である最高指導者の祝詞(のりと)(たま)わろう」


総司令官が一歩引いて離れると、背後からゆっくりと総統閣下が現れる。


制帽を被り、牙を向く銀色の蛇の横顔の帽章を光らせて、党旗の腕章のある左腕を挙げ手を振りながら悠々と階段を登り姿を表したのは真っ黒な専用の軍服に身を包んだヘルダーリン総統の姿だった。

評価、ブクマ、感想などいただけると大変励みになります…!ぜひ…!╰(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)╯




【補足】


この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。


登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨

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