第三話 戦線復帰
シュヴァルツ大尉とバウムガルトナー少尉は2人仲良く軍医のいる部屋へと赴いた。
部屋には腰掛け椅子に収まった白衣を着た少し恰幅のいい男が丸メガネの奥の瞼を細めて彼女たちを見た。
「ほう、シュヴァルツ大尉かね?
よく回復したなぁ、正直言って回復の見込みがないと思っていたから。
…君は運がいいぞ、もしこの大規模な戦闘が始まって野戦病院に負傷兵が押し寄せてきてしまったら君は野外に放置されていたかもしれないんだからな、はっはっはっ」
「は、はぁ…(何笑ってるんだ…ッ!笑えねぇぞ…ッ!)」
右の襟には国家黒十字軍軍旗である白い背景に銀色のS字の蛇が描かれた襟章がある。
この軍医の階級である中佐を表す左の襟章、肩章、袖章にナチスドイツで医療を表す兵科色であるコーンフラワーブルーフィールドグレーのラインが描かれたM40野戦服、その上から少しシワのついた白衣を着込んだ彼はシュヴァルツを手前の丸椅子に座るよう促すと瞼を指で開かせて小さな懐中電灯を光らせ眼球運動を観察する。
「はい次、舌出して」
「べえ゛ぇ゛〜〜〜……」
「…はい閉じてよし。
う〜ん、異常はないね、もう戦線に復帰して軍務を再開してもいいと思うよ」
懐中電灯の明かりを消した軍医はそう言うと無言で机に向き合ってしまい、それっきり彼女たちと会話を交わすことはなかった。
「ありがとうございました〜」
一礼して部屋を出ると2人は看護婦たちとすれ違いながら野戦病院の廊下を歩いて外へと向かう。
「そういえば俺の持つ第54歩兵中隊とやらは今何してるんだ?」
「そうですね…貴方の中隊は第206歩兵連隊として、敵の防衛戦を破るべく準備しているところですよ」
「確かその連隊を抱えているのは第1装甲師団だって聞いた。
とすると戦車を持っているのか…?」
するとバウムガルトナーは少し怪訝な顔で大尉を見つめた。
「…?当たり前じゃないですか」
「ほほう…そうか」
すました顔でいたシュヴァルツだったが、心に住むミリオタとしての宅朗は暴れまわっていた。
(マジかッ!!ナチスドイツの戦車ッ!!実物があるのかッ!!みたいぞ!早く大地を駆け抜ける『虎戦車』を見てみたいッ!!)
虎戦車とはナチスドイツの戦車、VI号戦車のティーガーIの事である。
ゲームや小説の中で決まって描かれるドイツ軍の戦車といえばこれだ。
宅朗はそんな戦車がいつの日か見れるのかとワクワクしていると、いつの間にか野外にでた。
高い山々が囲む盆地のような景色が視界いっぱいに広がる。
木造平屋建ての大きな野戦病院の他に、横に並んだテントが風に吹かれて波打っている。
「さぁ行きましょう、こっちです」
大尉に案内されテントの間を抜けるとそこに安置されていたのは、またもシュヴァルツ、いや宅朗の目を輝かせ心を躍らせるものだった。
「これは…ケッテンクラートじゃないかッ!」
「…?そんなに驚くことですか?」
「うっひょぉ〜ッ!」
シュヴァルツは一台の半装軌車に駆け寄ってボディを優しく触る。
前輪が一輪、そして後輪がキャタピラのオートバイを半装軌車、またはハーフトラックと呼ぶ。
ケッテンクラートはドイツ軍の半装軌車の1つだ。
「おおっ…これが…夢にまで見たケッテンクラート…惚れ惚れするなぁ」
「なーにやってるんですか早く後席に乗ってくださいよ、そこに歩兵装備がありますから」
呆れているように半目で言う少尉に従って後席を覗き込むとそこに長寸型の肩がけのガスマスクケース、サスペンダーで提げた腰のベルトの全部の左右着いている小銃用の弾薬ポーチと拳銃のホルスター、ベルト後部に雑嚢、水筒、飯盒、折りたたみ式の陣地構築用スコップが装着されているモノが置かれていた。
バウムガルトナーと同じ装備だ。
というか、野戦病院付近でたむろっている歩兵たちを見ると同じ装備をして知るため、歩兵のを標準的な装備なのだろう。
シュヴァルツは興奮冷めやらぬといった具合で頬を紅潮させながらもはや泣き出しそうな位には感動していた。
「間違いない…ドイツ軍の歩兵装備だ…嬉しい…こんなところで本物が一式揃ったのを見られるなんて…」
「…なんか、大尉、人が変わりました…?」
バウムガルトナーは操縦席単座に跨るとハンドルを掴んだ。
「行きますよー、しっかり座っておいてくださいねーッ!」
「はーい!」
歩兵装備を身に着け後席にすっぽり収まって背中を向けていたシュヴァルツは元気よく返事を返すとケッテンクラートはガタガタとエンジン音を鳴らしながら揺れ始め、そして突然走り始めた。
「うおっッ!速い速いッ!さすがだなバウムガルトナーッ!!やはりドイツの科学力は世界一だ!」
「…全く何を分けのわからないことを言っているんだか…」
バウムガルトナーは呆れながらも子供のようにはしゃぐシュヴァルツ大尉を見て不思議と笑みが溢れた。
「これは…ワルサーP38か、ドイツ軍の主力拳銃の1つだな、ほほぉ〜実物はやはりうっとり惚れそうな出来だ…ゲーム内でこれ使って切り込んで無双するのが楽しかったなぁ…」
ホルスターから取り出したワルサーP38を隅から隅まで眺め、遠い過去の出来事のように思える前世の宅朗のFPSのプレイを思い返しながら、大尉を乗せたケッテンクラートは野戦病院を離れ、大地を滑りながら戦場へと向かう。
空は眩しいほど青く、そして白い綿雲が悠々と風に流れていく。
シュヴァルツは尋ねた。
「戦場か…そこで俺たちは何をするんだ?」
すると少し顔を上げたバウムガルトナーはやや深刻そうな表情を見せた。
「…これから向かうのはとある少佐が原案の作戦を実行するために待機している我らが第1装甲師団の野営場です。
そこで北ナ連…つまり紅旗軍の前線を破るんです、今敵軍は破竹の勢い、飛ぶ鳥を落とす勢いで攻め込んできています。
なんとか戦況を打破しなければ…」
バウムガルトナーのハンドルを握る手をギュッと締める。
「散発的な攻撃を続けてはいますが未だ大きな戦果は挙げられずにいます。
早くしなければ敵はいずれ攻めてくる…」
するとシュヴァルツは1人密かにほくそ笑む。
(なるほど…面白くなってきたぜ。
リアルな戦略ストラテジーゲームってわけだ。
俺の不得手じゃない、どんな作戦なのかその少佐とかいうやつに直接聞いてやる。
そこで俺の真価を発揮するんだ。
現実世界じゃ何一つ役立たなかったストラテジーゲームで培った軍略能力を、この戦時下で遺憾なく発揮してやろうじゃないかッ!!フッフッフッ…!)
1人で静かに笑っているシュヴァルツを不気味がりながらだバウムガルトナーはケッテンクラートの速度を上げた。
かくしてシュヴァルツはまだ見ぬ地獄へと向かうのであった。
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【補足】
この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。
登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨




