第二十話 帝都空襲の罪科
爆撃を敢行する爆撃機を直掩していたYak-1の編隊は遠くから飛来してくる黒逸の国家黒十字空軍の編隊に気がついた。
「10時の方向に機影ッ!機種はBf109と新型機!爆撃機の高度をあげさせろ!奴らを寄せつかせるな!!」
編隊長が叫ぶと、僚機が一斉に散開して迎撃態勢を取る。しかし、その時にはすでに彼の乗る機体に敵弾が迫っていた。
「敵機直上!右翼被弾!墜落しますッ!!」
悲鳴のような声を上げて僚機は回避行動をとるが間に合わない。機体後部に敵の放った爆弾が命中し、爆発した。
彼はそのまま錐揉み状態になり、バラバラの破片となって墜ちていく。
「アイザックッ!!そっちには対空砲火があるぞ!!」
「対空砲火なんか当たるかよ!日和ったら負けだ!!」
機体の近くで対空砲火が次々と炸裂し、黒い煙があたりに広がる、砲弾はことごとく外れていった。
アイザックと呼ばれる男は高度計を見つめながらニヤリと笑う。
「へっ……こんなもん楽勝じゃねぇか」
彼の機体はそのまま急降下を続け、ついに目標地点へと到達する。
そして、照準眼鏡越しにターゲットを確認すると、機銃発射ボタンを力強く押し込んだ。
「喰らいな!北ナ連の最新型戦闘機の実力ってヤツを見せてやるぜ!」
しかしその瞬間、後方から猛スピードで片翼を失った黒逸軍機が差し迫ってきた。
「アイザック!後ろだ!」
「何だとッ!?」
軍機はぐんぐんと勢いを衰えさせることなく攻撃もせずに突っ込んでくる。
「クソッタレめぇええ!!」
慌てて操縦桿を引き上昇しようとするが、時すでに遅しだった。
「うぉおおおああああっ!!」
次の瞬間、無名の黒逸軍用機はアイザックの機体に衝突し凄まじい衝撃とともにバラバラになった。
高度を上げて敵機を近寄せまいとしていた北ナ連の爆撃隊は未知の新型機に苦戦していた。
「何だあの機体は!?レシプロ戦闘機じゃない!ジェットエンジンを持っているぞ!!」
銃座の声虚しく、急降下して機銃で攻撃しながら抜き去っていくのはMe262と呼ばれるジェットエンジンを搭載した戦闘機だ。
その後は編隊を崩した黒逸軍と共に空中でのドックファイトが数十分間続いた。
紅旗軍の軍用機は対空砲と迎撃隊の猛攻撃を受け、爆撃機は途中で離脱し、戦闘機も追い払うと残った黒逸空軍機の迎撃隊も撤退していく。
無惨にも迎撃隊によって落とされた無数の敵機は首都近くに撃墜していった。
そんな激しい空の攻防戦の翌日、号外新聞が各地で出回った。
「号外だよーッ!号外!」
キャスケット帽を被った新聞の販売員が新聞をばらまきながら歩道を練り歩くと人々はそれを拾い上げて目を通す。
そこには昨日の空襲について書かれていた。
「なんて書いてあるんだ?」
「ええっと、『去る昨日、2時25分頃、帝都上空を強襲せしめ、学校、病院さえ爆撃する鬼畜の如き敵機、必死の空襲を敢行。非人道的な虐殺飛行部隊は市民や守備隊とも手伝って熾烈なる対空砲火を浴び、勇猛果敢なる迎撃部隊により狼狽する軍用機をたちまち撃墜せしめたり』………」
「『また、前線から少し離れて帰京していた国家黒十字軍の若き乙女の陸軍大尉、ヒルデガルト・シュヴァルツが挺身して地上にて応戦したる予備軍や市民らの指揮を執り敵爆撃機を撃墜せしめた。これは女性でも祖国の為に奉公できる国母であり一般女性も同じように………』」
それ以降は典型的なプロパガンダのような文言が書き連なっていた。
そんな新聞をため息交じりで読んでいたのは他でもない、シュヴァルツ大尉である。
「全く、人をプロパガンダに利用しないでほしいよな、対空砲がそう簡単に当たるかよ」
「あれって要は射線からはずさせたり編隊を崩したりするためで被弾は二の次ですからね、抑止力みたいなもんですし。でも大尉の指揮のおかげで迎撃隊が活躍できたんだからいいんじゃないですか?」
宿を確保しベットの上で一夜を過ごした少尉と大尉は隣り合って新聞を見つめる。
「昨日の指揮、お見事でした」
「やめろよ照れるなぁ、俺は軍人として当たり前のことをしただけさ」
昨日の空襲を受けた後、大尉は近くの高射砲のある砲台にて敵機の迎撃をその場で指揮していたのだ。
撃墜数はそこまで多くはなかったものの、新聞紙にには高射砲の効果を大々的に報じていた。
「この調子でこれからも祖国を守りましょうね!昨晩の…あの夜の約束に誓って…♡」
「んなもんないだろ」
「えぇ〜…ノッてくださいよ〜」
二人は戦時下であることなど忘れてその時間を楽しんでいた。
その一方、昼過ぎ頃、都市フンドールを敵から奪還するべくして立てられたツァーンラント作戦を滞りなく遂行するため、前線にいるアーデルハイド少佐やハーン曹長は忙しい日々を送っていた。
しかも視察の為、ベッケンバウアー総司令官もいる。
「なぜ総統があの都市に固執するのかがわかるか?あの街にはヘルダーリン家の生家があるんだ、自分の生まれた家、そしてその街はどんな状態だろうと取り戻したんだ。
だから頼む、敵の殲滅よりまず都市の奪還だ。シュヴァルツの奴が殲滅殲滅うるさいんだ、貴様からもなんとか言ってやってくれ」
隣にいる総司令官が苦言を呈すが、少佐はそれを突っぱねる。
「そうか、それはいい愛郷心だな。
だが戦略の前では無意味だ」
「貴様…この話を聞いてなんとも思わないのか!!」
「思うさ、だが私情と事情とは話が別だ、今の私は人情派じゃない、そう言う話は子供にするもんだ。私が望むのは敵の絶滅だ、相手を追い出して奪還だとか、押し返すとかそんな生易しいものじゃない、全滅だ。それに前提としてコストに見合っていない。犠牲と兵力を尽くして奪還しても今や都市になんの価値もない」
きっぱりと言い切ると、あの強気な総司令官も少し引き下がる。
「ほう…ウチに逆らうとは…さては家族の命が惜しくないな?、ウチの権限でいつでも……」
「今の君には無理だ、君だってわかっているんだろう?あの都市の奪還に意味がないことを。だが総統の言いなりになるしかない、太鼓持ちじゃなきゃいけない、そうしなければ今の地位が危うくなる、そうだろ?」
「き、貴様……ッ!二度とそんな口を…ッ!!」
ベッケンバウアーは一瞬、少佐の軍服に掴みかかったがすぐに手をほどき、ゆっくりを下げた。
「…貴様の言うとおり今のウチは犬だ、食いっぱぐれないよう虎の威を借りることしかできない犬だ。シュヴァルツも、貴様もそう言うんじゃ仕方がない、ツァーンラント作戦は都市奪還ではなく敵の掃討殲滅に重きを置いて再考するとしよう」
「ほう、随分物わかりが良くなったな総司令官、どういった風の吹き回しだ?」
「黙れ!ウチはアーデルハイド、貴様に負けたわけじゃないぞ!妥協してやったんだ!忘れるなよ!!」
怒りに任せた捨て台詞を吐くと総司令官はその場から立ち去った。
「やれやれ、気難しいな彼女は。
…さてと、予行演習もバッチリ、後は作戦実行日まで待つのみ、か」
その日の晩、休暇も最終日となったシュヴァルツとバウムガルトナーは平穏の夜を過ごしていた。
「あ、もうこんな時間ですね」
「ん…そうだな」
「いっぱい観光できて楽しかったですよ私」
すると少尉は壁にかかる時計を見てつぶやいた。
「そういえばお風呂入れますよ」
「え…ッ!?本当か!?」
大尉は顔を近づけて嬉しそうに言う。
「えぇ…昨日は空襲の影響で水が出ませんでしたけど、宿屋さんが早急に復旧してくれたおかげで湯船に浸かれます」
「マジか!?よっしゃーぁ!久しぶりの入浴だ!!戦場の汚れを落とすぞぉぉ!!」
無駄にテンションが上がる大尉だったが、少尉の一言で冷静、というよりは驚いて固まってしまう。
「あの、その…大尉がよろしければ話なんですけどお風呂、一緒に入ります…?」
「な……ッ!?い、いや!それはまずい!俺はおとk…」
「?女の子同士の何がまずいんですか…?」
「あっ、そっかぁ…」
自分が女の子になっていることなどすっかり忘れてしまっていた。とは言え中身は三十路近いミリオタの童貞、実質女子と混浴するようなものだ。やましい気持ちになるのも仕方ない。
「さ、早く入りましょう」
「お、おい…!ここで脱ぐなよ!せめて脱衣所で…」
少尉が背を向けて野戦服の上衣のボタンを外して脱ぐと下着の白色よれたキャミソールがあらわになる。
だが、大尉はそれを見て興奮よりも驚愕の気持ちが勝った。
「お前…それは…」
それを見て絶句した。
果たして、彼女を驚かせたものとは……?
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【補足】
この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。
登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨




