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敗将が死んだ日 ~帝国最悪の愚将に転生したミリオタ、地獄の戦場で成り上がれ~  作者: 万田 カフエ
第一章 はぐれ者の異世界戦争
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第一話 愚将転生

ヒルデガルト・シュヴァルツ大尉と呼ばれる少女兵へと転生を果たしてしまった宅朗。


その場を離れた看護婦に聞きたいことが山程あったが、喉まで出かかってそれ以上出ては来なかった。


仕方なく隣のベッドで上半身裸の金髪オールバックの男に話しかけてみる。


「な、なぁ…その…肩大丈夫か?」


「肩に弾を受けてしまってな…。

俺はシュトロハイム、今は筋が切れて腕が上がらず木偶坊さ」


筋肉質な胸板に包帯が脇下と肩をグルグルと巻かれた若そうな青年は快くシュヴァルツと言葉を交わした。


しかしそれ以上会話は続かなかった。


(やべぇ〜…久しぶりに人と会話したわ。

このあと何話せばいいんだ?

…とりあえず、色々聞いて見るか)


「あの…ここはどこなんだ…?

信じてくれないとは思うが俺は日本の古森宅朗っていう引きこもりなんだ…それがいつの間にかこんな少女の身体に…」


「ここは戦場の後方の野戦病院だ。

たしか君は頭に砲弾の破片を受けているんだったな、やっぱり少し記憶が混濁しているみたいだから安静にしたほうがいいぞ」


(そうだよな…やっぱ信じてくれないよな…)


そう肩を落とすシュヴァルツだったが、男の次の言葉を聞いた瞬間、彼女の目つきは変わった。


「…?日本…?日本ってなんだ?」


「え…?知らないのか?JAPANだよJAPAN」


「聞いたことないな、それはどんなモノなんだ」


シュヴァルツはベッドから身を乗り出して食いつくように質問の雨を浴びせた。


「国であることさえ知らないのかッ!

じゃあこの軍服はなんだ!これはナチスドイツのM40野戦服じゃないのか!!」


しかし彼はまるで関わってはいけない人と会話しているそうな顔をして言う。


「なちす…?なんの話をしているんだ…?

これは黒逸(くろいつ)第三帝国の国家黒十字軍の軍服だが…」


シュヴァルツはますます混乱する。

自分の知っているのはどう見てもナチスドイツのフィールドグレーの野戦服。

だが目の前のこの男は聞き慣れない帝国の名前を出して来たのだ。


(く、黒逸第三帝国だとぉ〜ッ!?聞いたこともない…まさか…この世界はパラレルワールドなのか…!ここは異世界だが、野戦服はナチスのモノ…やばい、混乱してきた…落ち着け…一回俺が記憶喪失なのを利用して説明してもらおう)


高鳴る心臓を抑えるように胸に手を当ててわざとらしく息を吐くと静かに口を動かす。


「悪い、俺は記憶が曖昧なんだ。

ここではっきり説明してほしい。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


するとシュトロハイムは少女に配慮するように優しく語り始める。


「…そうだな、いいだろう、語ってやろう。


我が祖国、大陸に広がる『黒逸第三帝国』は没落国家であった。


政府と皇帝陛下は文化と民族の保護を理由に鎖国政策を実行していたが、産業、技術、経済は低下の一途を辿っていたためだ。


これに不満を持った政党の1つ、『結束党』は国民からの支持を受け勢力を拡大。

ついに選挙戦にて党の総統が国の首相となり国の全権を掌握、独裁体制を樹立させた。


総統は政府の鎖国政策を直ちに中止し、他国の領土を侵略して資源や領土の確保に邁進。

着々と周辺国を支配すべく、そして国民を統べるべく帝国主義、民族主義、国家主義、全体主義を掲げた。

 

しかし我が帝国が『北ナジェージダ社会主義共和国連邦』の同盟国に侵攻したため北ナ連は黒逸へ宣戦布告。

黒逸は一旦その同盟国への侵攻を中止し、広大な領土を持つ雪国の北ナ連との戦争を開始したんだ。


…そしてそれからやく6年後、両国は徹底した総力戦を展開し、お互い国力を削ぎながら膠着した戦線にて戦っていた。


しかし北ナ連による人海戦術が功を奏し、黒逸第三帝国を着々と疲弊し、敗色が色濃くなり始めた。


帝国内の生産量は初戦の数年はうなぎのぼりだったもののすぐに低下、総人口の30%の男が戦死したとも言われている。

そこで前線の兵力不足を補うために動員されたのが君のような少女たちだ。

二十歳にも満たない少女を男と同等に前線に投入し始めた、そのうちの1人が君なんだ。


君は機械化歩兵と装甲部隊を抱える第1装甲軍団。

第206歩兵連隊、第15砲兵連隊、第13工兵連隊、第31戦車連隊。

その他、第8偵察大隊、第2通信大隊からなる第1装甲師団所属。


その第206歩兵連隊の第20歩兵大隊の第54歩兵中隊を指揮する大尉なんだ君は」


長々と丁寧に説明してくれたシュトロハイムは一息ついて聞き入っていたシュヴァルツに一言、「これから慣れていけばいいさ」


そう言って彼は身体を横にしてシュヴァルツには背を向けた。


(異世界だ…これは…もしや第二次世界大戦時のパラレルワールド…!軍服はナチスドイツそのままで…国だけが違う異世界だ…!

間違いない…!俺が画面や書籍の中でしか見えなかった世界が…ここにあるッ!!)


よく見ると野戦服の左腕の部分に銀の一本の剣とその左右に剣にしっぽを絡めた対称の蛇が向かい合っている刺繍が施されている。


「この左腕の刺繍は何だ?」


するとそっぽを向いたままのシュトロハイムは答える。


「それは結束党の党旗さ。

腕章の変わりにすべての軍服に縫い付けられている」


(なるほど…党旗が違うだけで軍服も階級を表す襟章も肩章も袖章も兵科色もナチスと同一か…ますます奇妙だな)


するとシュヴァルツは枕の側に置かれていた制帽を見つけた。


制帽には帽章である牙を向く蛇の横顔と制帽の天張りに党旗の一本の剣とその左右に剣にしっぽを絡めた対称の蛇が向かい合っている銀の刺繍。


顎紐は銀色であり、天張りの縁のラインには白い色が引かれていた。


(確か…史実では制帽の顎紐は将校が銀のアルミモールを使用して兵士・下士官は革の物を使用したんだったな。

間違いなく俺は大尉ってわけか…

襟章、制帽や肩章の縁取りにもちゃんと兵科色で歩兵を表す白いラインが引かれている…)


彼女は口角をニヤッと釣り上げて笑うとその制帽を黒髪の映える頭部に被せた。


(おもしれぇ…ッ!俺は異世界で実質ナチス軍人になったってわけか…!おもしれぇッ!!)


1人、脳内でぶつくさ言っていると彼女のもとへテンポの早い足音が聞こえてきた。


「お…遅れて申し分けございません…!

意識が回復したと聞いて軍務を放り急いで駆けつけた次第ですッ!!」


シュヴァルツの足先で軍靴の踵を揃えて敬礼をしたのは1人少女だった。


髪色は深い紫色。

短冊のようなぱっつんの毛束が集まったようなボブとくすんだ黄緑色の目が特徴的だ。


階級はナチスドイツの少尉を表す襟章、肩章、袖章のついた野戦服を着用し、シュタールヘルムと呼ばれるドイツ軍を象徴するヘルメットを被っていた。


フィールドグレーのM40野戦服の上から標準的な歩兵装備に筒型マフラーとグローブを嵌めた格好をした少女はシュヴァルツを前にして言う。


「第206歩兵連隊、第20歩兵大隊、第54歩兵中隊所属…!ツェツィーリエ・ブリギッタ・バウムガルトナー少尉でありますッ!!」


なんと自分の指揮するらしい第54歩兵中隊所属の少尉を名乗る少女が現れたのだ。


つまりこの子がシュヴァルツの部下と言うことになる。


(この子が俺の部下…?)


だがシュヴァルツはすぐに気がついた。


その少女がシュヴァルツ大尉に対しやけに下手(したて)に、そして怯えるような目つきをしていることに。

黒逸第三帝国


首都ハイフェンブルグ


大陸における政治的・経済的な主要国であり、歴史上、多くの文化・科学・技術分野における重要な指導国。

君主制の国だが結束党の権利のほうが大きい。


シュータートピア(シュータート+トピア、国家郷)実現の為、選挙によって総統が国家の全権を掌握、結束党による一党独裁体制が敷かれている。

最も優れた人間が世界を支配すべきという独特の思想が存在する。

優秀な人間で溢れ、優秀な国家のみで作られた世界のことをシュータートピア、即ち国家郷と呼んでいる。 

そして覇権黒逸を標語にしている。

一人の指導者に被指導者層が従う、つまり民族の指導者である結束党、その指導者に民族すべてが従うという指導者原理は、政治分野だけでなく経済や市民生活全てに適用された。


政府から国家代理官や国家弁務官が送り込まれ、政府の権限が強化され、また結束党の「地方組織大管区」が実質的な地方区分となり、大管区指導者が地方の支配者となった。


他国との戦闘に参加するのは厳しい規則や訓練などを叩き込まれた結束党の軍隊であり国軍の国家黒十字軍である。



国旗  白い背景に金の一本の剣とその左右に剣にしっぽを絡めた対称の蛇が向かい合っている。


党旗  国旗と同じ構図だが、剣と二匹の蛇の色は銀になっている。


国家黒十字軍軍旗  白い背景に銀色のS字の蛇。


識別マーク  戦車や航空機に描かれる。

銀色で描かれたルーン文字のS。


帽章  牙を向く銀色の蛇の横顔。


階級やそれを表す襟章、肩章、袖章、兵科色はナチス親衛隊の軍と全く同じ。

兵器や装備はナチスドイツの国防軍や親衛隊と同じ。



戦場の兵士たち。

ドイツ軍のフィールドグレーのM40野戦服と同じ。

将校も下士官も戦場ではこれを着る。

腕章の代わりに左腕の部分に党旗と同じ蛇の章が刺繍されることとなった。

ヘルメットはシュタールヘルム、略帽としては帽章のついた規格帽。


制帽には帽章である牙を向く蛇の横顔と制帽の天張りに党旗の一本の剣とその左右に剣にしっぽを絡めた対称の蛇が向かい合っている銀の刺繍。

顎紐は将官が金、将校が銀のアルミモールを使用し、兵士・下士官は革の物を使用した。

襟章、制帽や肩章の縁取りには兵科色で歩兵を表す白いラインが引かれている。


黒色勤務服。

ナチスの黒色勤務服と同じ。

戦場に出ない高級将校たちが着る服。

黒いネクタイをつけた白いシャツの上に黒い開襟のスーツを着用する。

黒服に飾緒や礼装ベルトをつけて礼服として着用、左腕に党旗の腕章を装着している。


制帽は先述した制帽の黒色バージョン。


歩兵の装備は長寸型の肩がけのガスマスクケース、サスペンダーで提げた腰のベルトの全部の左右に小銃用の弾薬ポーチとワルサーP38の入った拳銃のホルスター、後部に雑嚢、水筒、飯盒、折りたたみ式の陣地構築用スコップ。履物はブーツ。

ベルトにM24型柄付手榴弾。

防寒具としては筒型マフラーやグローブ、黒革のジャケットヴィンターアンツークと呼ばれる防寒野戦服は反転着用が可能で、表は迷彩柄、裏が真っ白な雪中迷彩。これを着るとき、サスペンダーとベルトは表面に着用する。

またはフィールドグレー色のオーバーコートを着込む。


国家黒十字軍には銀色のルーン文字のSを象った勲章が存在する。

級が上がるにつれ装飾が豪華になる。

勇敢な行為や戦闘、任務などを遂行すると与えられる二級騎士勲章の略章は第二ボタンホールに留める二級勲章のリボンに付け、さらに優れた軍功を残すと一級騎士勲章の略章は左胸に付けるのが一般的である。

さらに全軍で最も勇敢な軍人に与えられる上位の帝国騎士勲章は首元に着ける。

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