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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

春の葬式

掲載日:2022/03/22

春は首を吊って死んだ。16歳だった。


ドアノブと縄さえあれば人は簡単に死ねるという事を、

春は最期に教えてくれた。


冷たくなった春をどうしていいか分からなくて、俺は救急車を呼んだ。

もちろん俺たちに救いなんかなかった。春は病院についた時にはもうとっくに死んでいた。


病院の霊安室に運ばれて、苦しそうな顔のまま硬直して死んでいる春を見て、

俺はそっと顔に手をあてて、まぶたを閉じてやった。それしか出来なかった。


その後しばらくしたら病院指定の葬儀屋とかいうのが来て、

後から来た父親と金勘定をし始めた。


そして、何日か経って春の葬式が始まった。


葬儀代を父親にケチられて、結局春は火葬だけしかしてもらえなかった。

ひどい話だ。棺桶に入れるものや花も、俺が全部用意した。


死化粧をされた春はとても綺麗な顔をしていて、

いつもの様に笑顔で、俺に話しかけてくれるんじゃないかって期待した。


遺書は俺の布団の下にあった。父親に見られるのは春も嫌だろうと思って、

全部読んでからこっそり俺の机に入れた。返事は棺桶の中に手紙で入れておいた。


春は葬式の時も安いボロボロの服だった。

憧れてたワンピース、生きてるうちに買ってやれなくてごめんな。


お前に笑ってほしかった。お前に幸せになってほしかった。

お前に安心できる居場所を与えてやりたかった。


お前と、一緒に幸せになれるもんだとばかり思ってたんだ。春。


  

  *



春は気弱だったけど、とっても優しい子だった。

困ってるおじいちゃんおばあちゃんを見つけたらすぐ手伝うし、子供にも優しかった。


なぜか兄の俺にまで優しくて、よくマンガを貸してくれたりおやつを分けてくれたりした。


服はボロボロだし、父親によく酒瓶で殴られてたから身体はアザだらけだったけど、

それでも可愛いと思えるくらい、春は整った顔立ちをしてた。


そのせいで学校の女子からいじめられてたんだけどな。

学校から帰ってきた後は、よく泣きながら俺の部屋に駆け込んで来てた。


正直、俺なんかよりずっとつらい思いをしてたと思う。

それでも春は明るく振舞ってた。健気だった。


一回、なんでそんなに明るくいられるのか聞いてみたことがある。


そしたら、


「お兄のおかげだよ」


と帰ってきた。その時は嬉しかった。

今思えば馬鹿な話だ。春は俺の前で無理してただけだったのに。


つらい事もたくさんあったけど、楽しい思い出もたまにあった。


例えば、父親がたまたまパチンコで家にいなかった時に、二人で一緒の布団に入った事。

家族と呼べるのがお互いだけだった俺たちには、そのぬくもりが心地よかった。


あとは暴れた父親から逃げ出して、二人で家出をした事。

深夜でもやってるゲーセンで、貯めた少ないお金を使って遊んだな。


休日は家にいてもろくな事がないから、二人で公園に行って鳩を眺めてた。

春の作った卵焼きが美味しかったのを今でも覚えている。


服屋さんに行ったときには、桜色のワンピースが欲しいって言ってたよな。

春によく似合ってたし、お金があれば買ってやりたかった。


……今思えば、春はずっと逃げたかったんだと思う。


いじめが起こる学校から。

暴力を振るう父親から。

そして、この世界から。


春は優しすぎて、人の悪意にやられてしまっていたんだと思う。

でも俺に心配をかけたくないから、ひたすら耐えてたんだ。


今言っても本当にどうしようもない事だけど、家族の俺をもっと頼ってほしかった。

苦しみも悲しみも、俺にも背負わせてほしかった。


もう一度お前に会えたら、ごめんなって謝りたい。

不甲斐ない兄貴でごめん。



  *


拝啓 お兄へ 


私は学が無いから、遺書に拝啓ってつけるのかわからないけど、

大事なお手紙なので一応つけておきます。


多分これを読んでいる頃には私はこの世にはいません。

後遺症とか残って生きてるかもしれないけど、その時は私を殺して下さい。


ちょっと死ぬのが怖いし、お兄と会えなくなるのはとても怖いので、

泣きながら文章を書いてます。支離滅裂だったらごめんね。



まず伝えたいのは、感謝です。


私が生きて来た16年間、つらい事や苦しい事はたくさんありました。

それこそ、数えきれないほどに。


でも、それでも生きてこられたのは、お兄がそばにいてくれたからです。

本当に今までありがとう。あなたのおかげで、私にはたくさんの思い出が出来ました。


ずっとそばにいるって言ってくれたの、忘れないよ。


次に伝えるのは、気にすんなって事です。


私が死んでも、お兄の人生は続きます。

だから、私の事で思い悩まなくていいよ。お兄のせいじゃないよ。


一人にしてごめんね。私の分まで幸せになってね。


最後に。

愛してるよ。ずっと。


  

春より 



  *


俺は幸せになろうと頑張った。

生きられなかった春の分まで背負うと決めたからだ。


頑張って勉強して、バイトと奨学金で大学に入って、まともな会社に就職した。

上司に叱られたり、仕事での失敗もたくさんあったけど、

春がいなくなった時のつらさよりずっとましだった。


いい服を着て、それなりにおいしい物を食べて、安心できる居場所があって。

少なくとも春がいた頃よりかはいい生活が出来るようになった。


俺は幸せ……なんだと信じたい。春が安心して眠れるくらいには。


  *


「春」


俺は、春の眠るお墓に向かって話しかけた。


お前の好きだった桜が満開だぞ。

今日はいい天気だよ。風も強くないし、日差しも温かい。


俺がおにぎりを作って、お前がおかずを作って、ピクニックに行きたかったな。


「まあでも、これで勘弁な」


俺はそう言って、お墓の前におにぎりを置いた。


今日は春の十三回忌だった。


「俺はもうとっくに大人になっちまったよ」


今の俺を見たら、春はなんて言うだろうか。

「幸せになったね」なんて笑ってくれるだろうか。


「今日は来れて良かった」


春も、この満開の桜を眺めているのだろうか。

そうだったらいいな、と思った。


「俺がそっちに行ったら、今度こそ二人でピクニックしような」


失った季節は戻らない。死んだ人も帰ってこない。

それでも人は進まなきゃいけない。いろんなものを置き去りにして。


「また来るからな、春」


俺は、春のお墓を撫でてやった。




読んで頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 心にグサリと突き刺さり夜中に読みながら涙が出てきました。 [一言] 幸せになって欲しかった。けどどうしようもないものもありますよね。
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