ドブネズミ
それは、残り物となって消えて行く。
ここはどこだろうか? 暗い闇の中。真っ暗な空間。
「ボクは?」
そっと光が指す。窓に掛かっているカーテンを開けた時に入ってくるように。眩しく、明るい光が指す。ゆっくりと、穏やかに、優しく、光が指す。気づけばその光に近づいていた。ぼやける視界を払うために、瞼を擦る。
「誰だろうか?」
そう言って外に出た。
「クソッタレガ。クソッ! パンの一つぐらいいいじゃねぇか。盗んだってよ」
クソクソクソ、あ~ムシャクシャする。
「チッ!」
舌打ちをする。
「あ~あ。オレみたいなドブネズミは目もくれないだろうよ。王族さんわ」
そう言いながら、オレは、城を見る。何が平和だ。こっちは生きるのに大変だってのに。あ~あ。そうですよ。そうですよ。ドブネズミはその辺で死ねってことだろう? チゲぇ~かよ。ボロボロの服着て食べ物は盗みまくって薄汚れていて伸びきった髪、汚ねぇ~よ。オレはよ。
<グ~>
腹がなる。昨日からなんにも食ってない。路地裏に来る。右を見る。ゴミ箱。まだ腐ってない。食える。手を汚し、汚くて、なんの食べ物かも分からない食べ物を口に突っ込む。こう言うのをしてるから、汚くなって行くんだろうな。
「食った。これで今日は生き残れる。ケッ! こんなことして腹壊さねぇかなぁ? マッ大丈夫だろ。壊したの五回ぐらいだしな」
腹がなる。これは、腹が減ってなるヤツじゃない。あ~あ。クソだな。今日は。後ろが光る。振り向くとそこには、
「なんだ花火かよ」
どこからか声が聞こえる。耳を傾ける。
「今日は、国の祭典。そして、」
「王女様のお見えだ」
「噂によれば、どの国の王女様よりもお儀礼用だとか?」
「ああ、けれどそれよりも綺麗なのは?」
『第二王女!』
ああ、そういうことね。今日は国の祭典か、それで、盛り上がっていると。なるほどね。マッオレには縁もねぇ話だな、、、いや、あるな。祭典ってことは上手いもんが売り出されるよな? そしたら、腹を壊さなくてもいいよな? じゃあそれを盗めばいいのか。はぁ~ん。なるほどね。縁はあるみてぇだな。そのためにさっきは盗めなかったのかもな。王女の方はどうでもいいが、祭典、様様だな。ついてるねぇ~オレ。
「クソッ! 失敗した! あ~もう! ってもそうだよなぁ。そこら辺に警備兵がいてもおかしくはないよなぁ? ッたく、オレとしたことが」
結果は失敗。肉の串焼きを盗ろうとしたが、警備兵に見つかった。まぁなんとか逃げれたけど、念のためしばらくは派手に行動しない方がいいよな。それに、どうやらいろんな国から人が来てるみたいだし、オレみたいなドブネズミは見られたくないのかもな。
「ア?」
そんなことを思っていたら、見てしまった。ダルいな。そこには、一人の女が五人の警備兵に走って追われていた。いや、あれは、騎士団か? となると相当の罪人か?
「あの! 助けてくれませんか! そこに立っている、ワッ!」
転けかけてんじゃん。どうする? 助けてもなんの意味もないしな、、、ん? 待てよ、もしだぞ。もしあいつが金を持っていたら。
「フッ。まぁ念のため聞いておくか。オイ! 金は持ってるか?」
「ハァハァハァ。はい! 金貨を五枚ほど」
金貨が五枚か、、、ん? 何! 金貨だと! 金貨ってあのか! 五枚もあれば高級ホテルに一ヶ月は住めるぞ! おいおいマジかよ。でも、そんなことを言われたらな~イヤイヤイヤ、待て待て、嘘かもしれないだろオレ!
「見せろ!」
「え? はい」
本物だった。クソッ! やるしかねぇ~か。こちとら一応いろんな死線を潜ってきたんだ。騎士団ぐらい余裕だ。しかも、まだ緑だしな。
「ホイッ、まずは一人~」
オレはすぐに騎士団の一人を蹴り飛ばした。
「なっなんだ! 貴様!」
「ドブネズミだよ。ほら、お前、行くぞ」
オレはその女の右手を引っ張り走る。
「あっあの。どこに行くんですか?」
「ア? 知るか。テメェが決めろ」
「え~とじゃあ港まで」
港か。なんだ? 海を渡って別の国に行くのか? 一応オレはまだこの国に居たいんだけどな。
「おい、先払いだ。ほら、出せよ。金貨」
「どうぞ。私も五枚しかないので二枚だけですけど」
二枚もあれば十分だよ。なんだ、この女は。金銭感覚がおかしいんじゃねぇ~の?
「おい、見えてきたぞ。ってもまだ追われてんだよな。撒くか。おい、スピード上げるぞ」
そう言ってオレは左に見える路地裏に入り、その女をごみ袋の山に突っ込ませる。オレは、そのまま先に走る。そして、騎士団が路地裏に入ったらところで。
「おい! さっさと行け!」
ヨシ。これでオレ一人だと思わせ。全員倒す。
「クッ。この薄汚れたガキが」
「ほら、来いよ」
オレは、わざとらしく手をクイクイとさせ挑発をする。
「このバカが。ガキ一人で何ができる」
そう言って一人が走ってくる。持っている槍で突き刺してきた。オレは、それをギリギリでかわし、無防備になった顔面に蹴りを入れる。
「あと、三人。よっわ!」
「なめるなよ!」
三人が一斉に掛かってくる。一人が槍を突きだす。オレは、それをジャンプしてかわす。だがそこに槍を突きだしてきた。空中じゃあかわせないだろってか? 残念だな。ここは路地裏だよ。壁と壁の間なんてそうあるもんじゃない。オレは、右の壁を蹴り、まだ何もしていないヤツの首に向かって蹴りを入れる。というか蹴り落とす。あと二人。手前のヤツの頭を持ち奥にいるヤツの顔面に蹴りを入れ、その反復で最後のヤツの顔面に踵をぶちこむ。
「終わり。意外と弱かったな。こんなもんなのか? 騎士団ってのはよ。ってもまぁ緑だしな。こんなもんか」
「イヤイヤイヤ、あなたが強すぎるだけでしょ」
ごみ袋の山なら体を出し手を降りなからそう言う。なんだ。まだいたんだ。
「お前、船に乗るんじゃねぇ~の? 早く行けよ」
「そうですけども、あの、私が第二王女だっていったらどうします?」
「、、、あっそ。あんまり興味ねぇんだわ。そういうの。それに金ももらったことだしオレ達の関係は終わり。それに、あんたのことは黙っとくよ。言ったら言ったでめんどくさそうだしな。じゃあな」
「あの。あなたはお強いですね?」
「ア? まぁいろいろとあるんだ」
「そうですか」
あんまり聞くな。喋らなくていいことだからな。オレは、そう付け加えた。
「分かりました。聞きません。けれど、良ければ私の護衛として一緒に来ていただけませんか? もちろん。報酬は出しますよ」
「はぁ。本当、何でこんなことになっちまったんだろうな」
「まぁ乗ってしまった物は仕方のないことだと思いますけど? それに悔やむんなら、お金に釣られた自分を恨むことですよ」
オレは今、船に乗っている。理由? 椅子に座って優雅に紅茶を飲んでいるこの第二王女様のいった通りだ。オレは、≪報酬≫ とやらでバカなことをしてしまった。目が眩んだ。王女だから、きっと宝石類とか、金貨を百枚とか、家とか、つまり、オレに有意義な物がきっと ≪報酬≫ なのだと思ってしまったのだ。けど、今考えたら、コイツ、家出という名の脱走であって、国のヤツらからすれば誘拐なんだよな。これじゃあ帰っても捕まって殺されるだけ、か。
「あんまり暗い顔をしないでください。せっかくの家出が台無しです」
「んなこと言われてもな、オレはもう犯罪者なんだよ」
「では、帰らなかったらいいのです」
「はぁ。じゃあオレは残りの人生を逃亡者として過ごせと? 王女様」
「いえ、私の護衛として一生側にいればいいじゃないですか? それに、王女様とは言わないでください。名前で呼んでください」
「はぁ? それは、流石にできないお願いだな。オレは、ドブネズミだが立場はわきまえるぜ? それにアンタは一応国の第二王女なんだからな、名前で呼んだら殺されっちまう。ほら、よくあるじゃん? 〔あの方は高貴な御方だぁ~名前で呼ぶなんてもっての他、死刑に値する~] なんて言われて殺されるなんて御免だ」
「そのわりには、あなた、タメ口なのね」
グッ、痛いところをつかれた。
「それは、ほら、あれだ、あれ。その~」
「もう一度言うわ、私の名前は、プレタイ・アサヒ ほら、呼びなさい。アサヒで良いわ。」
「、、、分かった。分かった。プレタイ様。オレの、ドブネズミの名前は、クラシック・ナイト だ」
「だから、もう、良いわ、それで。それにしても珍しいわね。名字があるなんて」
それは、はたしてドブネズミだからなのろうか? それとも、単に平民でも名字は付けれないからだろうか? まぁどちらにせよオレには関係のない話なのだが答えは向こうから言った。
「平民ってあまり名字は付けれないはず。もしかして、別の国から来たの?」
「、、、違う」
「じゃあ、親がお偉いさんだとか?」
「違う」
「じゃあ」
「この話は終わりだ」
少し無理矢理だったか? まぁいい。あまりこの話はしたくないのでな。
「そう。悪かったわね。嫌な思いさせちゃた?」
「いいよ。ってもオレがアンタに許すなんて言える立場じゃねぇけどな」
事実そうなのだ。オレは、このコイツに言える立場じゃない。
「そう。でも、今の立場は一緒だと思うけど?」
「何で?」
「何でって。そりゃあ決まってるじゃない。タメなんでしょ? 友達だと思うけど?」
「それは、違うね。オレとアンタは契約上対等なだけだ。そこに友達とかは関係ない」
「結構固いのね。あなたって」
「分かった。分かった。もう、アンタの好きにしろ。めんどくせぇ~」
「そうなら、友達ね。あっ、そうだ。あなたってどうしてそんなに強いの?」
「ア? 強くねぇよ。あいつらが弱かっただけだ」
「イヤイヤイヤ。それは、無理があるわよ!」
そう言って机を強く叩きながら立ち上がる。ティーカップに入った紅茶が少し飛び出す。
「あっ勿体無い。まぁ今はそんなことより、相手は緑よ! 緑と言えばそんな簡単に馴れるものじゃないの!」
その後オレはコイツの説明を聞かされどうしてこんなにも気になっているのかが分かった。騎士団には、色によって順位が分かれると言うことはオレも知っていた。そして、肝心の色なんだが、白➡黄色➡赤➡緑➡青 の順番らしい。と言うことはオレは上から二つ目を簡単に馴れる倒してしまったと言える。
「はぁ。本当、あなたって世間知らずなのね。困るわ」
「しかたねぇだろ、知らなかったんだからさ」
「まぁいいわ、今知ったんならそれで、いい」
優しいなコイツ。そりゃ
「綺麗って言われるか」
「いきなり誉めても何も出ないわよ」
どうやら口に出てたらしい。オレとしたことが。
「今日は寝るわ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
そう言って各自の部屋に入っていった。と言ってもこの部屋あいつがお金出したんだよな。本気で家出するらしいな。りゆうは明日にでも聞けばいい、とにかく今日は疲れた。色々ありすぎだぁ
「ボクは、ボクハ、ボグバ!」
「チッ! 久々に夢を見たらこれだ。クソッ! もっとましな夢をみせろっつの」
そう思いつつオレは、食堂に出る。そこには、あいつが居た。なんならもう、朝食をとってた。
「遅かったわね。ん? 窶れてるわよ? 悪い夢でも見た? 髪も乱れてるし、あっ先に食べてるわよ」
コイツ。本当ぶれないな。
「いいよ」
「パンたべる?」
「食べる」
「正直ね」
オレは、食パンを口に頬張りつつ聞いてみる。
「アンタ、どうして家出なんてしたんだ? ほら、王女だけで旨いものとか食えるし、夜はベッドで寝れるだろ?」
「今の付け足しであなたの生活がカツカツってことは分かったわ」
「分からなくていい」
「簡単な話、飽きちゃたの生活に」
「贅沢な話で悩みだな」
「まぁね、けれどもう嫌なのよ。姉に比べられて王女ってだけで清楚な感じにしなきゃいけないし、それに私なんて第二よ。第二。親からの愛情なんて感じたことが無いわ。姉ばかりよ、だから私はもういいかなって、生きてる理由なんてないし、でも追われるってことは愛情があるってことじゃないのよ? 形だけ、他の国に魅せるため。だからいっそのことどっかで死んじゃえって思ったの、だからそうね。死に場所を探してるってこと。分かった?」
「、、、ああ、分かった。アンタの気持ちはよくな。けど、死んじゃ終わりだぜ? つ~か。アンタは知らなさすぎる、オレが言えたことじゃないが世界ってのは広いぜ? オレは、アンタの友達だ。アンタの悩み、半分受け持ってやるぜ? ≪報酬≫ はアンタが生きる理由を見つけることだ。調度オレも暇してたとこだ、付き合ってやるよ。探して見つけようぜ、生きる理由それに、運命は変えられないけど、未来は変えることができる。なんて言葉もあるんだぜ?」
「、、、アッハッハッハッハ! あ~面白い。分かったわ。報酬はそれでいきましょう。それにしても友達って認めちゃたわね。私はね、あまり手放さないの。死ぬまで友達よ」
「オレの前で素で笑ったのこれで初めてだろ? 良いもん見れたよ」
「あら、気づいてたの?」
「いろいろとあったんだよこっちもな」
「そう」
「うん」
「もうすぐつくわよ」
つく? どこに?
「躍りの国、バラエに」
「確かに、いろんなところで踊ってる」
読んで字のごとし。躍りの国って感じがする。至るところで踊ってやがる。それに、リズムのいい音も聞こえてきやがる。これは、ヴァイオリンか?
「きれいな音ね。あなたも聞こえる? このきれいな音。心が揺れるわ」
耳に手を添えながら言う。よく見ると足がリズムを刻んでやがる。
「踊らない? ね? ね? ね?」
オレの鼻がコイツの鼻に当たりそうなぐらい近づく。距離感がつかめねぇ~
「なに、その、ひきつった顔? そんなに嫌? 私と踊るの?」
「違う。そういうことじゃなくてだな、その、近いんだよ、鼻が当たりそうだったろ」
「あら、小さなことを気にするのね。それで踊るの? 踊らないの?」
なぜ、コイツがこんなにも踊るのを推してくるのかは分からないが踊らないと後でなにされるかわからない。クソッ!
「分かった。分かった。踊りゃあいいんだろう? けど、オレは、踊りなんてしたことがない、だから、その、あの」
「舞踏会で何度か踊ったことがあるの。大丈夫よ? 身を私に委ねなさい。そうしたら、踊れるわ」
その言葉信じるぞ。オレは、そっと右手を出す。握られる。少し、冷たかった
「左手も」
言われるがままに左手も出す。左手も握られる。顔を見る。笑っていた。
「じゃあいくわよ?」
「あれで疲れるなんて、あなたって意外と体力ないのね。あんなに強いのに」
「躍りと、戦闘は違う、それに、アンタがとばしすぎたんだよ。オレは、踊れないって言っただろう。それなのに」
「はいはい、分かったわ。ついつい、いつもの癖で、ね?」
ね? じゃねぇ~よ! こっちは振り回されたんだぞ。
「でも、踊れないって言ってたけど、踊れてたじゃない。上手かったわよ」
「それは、アンタのリードが上手かっただけだ。オレは、上手くない」
「、、、あなたってかわいいわね」
「、、、ア? どうなったらそうなるんだ?」
本当に理解できない。別に失言をしたわけでもないと思うんだがな。
「いいわよ、あなたはそのままで。この気持ちは私だけが分かればいいから」
何が何だかオレにはさっぱりだな。
「あっそうだ! この国ドレスが有名なのよね。買ってきてもいい? もちろんあなたも行くんだけど。護衛だし。そうね、あなたにも何か服を買ってあげましょうか? ほら、ずっとその服でしょ?」
え? オレ別に服とかはどうでもいいんだよな。それに、動きやすいし。
「たぶんだけどあなたがその服をずっと着ている理由って動きやすいからでしょ? もちろんその事も考えて買ってあげるわ。ほら、そうと決まれば行きましょう!」
「え? ちょっと待て。あの、ちょっと足が速いような気がするけど? あとあんまり引っ張らないで。右腕消えちゃうから。あの~」
そして、オレは、今店の近くにあるベンチに座っている。なぜ店に入らないのか。それは、オレがこんな薄汚い服を着ているからだ。この事は王女様にも言ってあるし、〔分かったわ。じゃあそこのベンチに座っておいてくれない? 良さそうな服があれば買ってくるから。私が何を買ってくるのかも考えといて。〕と言われたし考えとくか。意外とちゃんとした服を買ってくる。いや、ダサイ服を買ってくることも、でもなぁその場合オレ何にも言えないんだよなぁ。買ってもらう身だし。
「ちょっとそこの君いいかな?」
そんなことを考えていたら、一人の男が話しかけてきた。少し、高貴な服? 腰には剣。何より青いローブ。もしかして、コイツ騎士団か? さて、どうしたもんか。
「隣いいかな? ほら、君腕を広げているだろう? だから」
「ああ、いいっすよ? すいませんね、手間かけちゃて」
笑う。たぶん苦笑いになっている。向こうは完璧な笑顔。これも騎士団の力か? なんて考えているうちに座りやがった。そして、剣を抜きオレの首もとに向ける。少しでも、下を向けば喉を斬りそうだ。
「お前が、第二王女を誘拐したドブネズミか?」
明らかに違う口調。さっきまでは営業か?
「違いますよ! 服がボロボロなのは力仕事をしていましてね」
少し、不自然か?
「嘘はよくないなぁ。ドブネズミが。貴様なんぞに黙られると、本気で思っているのか?」
「チッ。バレてんなら最初からこうしれゃ良かったろ? なぁアンタ。少し、訂正するなら誘拐じゃなくて、アイツからすれば家出らしいぜ?」
「そうか。だが今更国民を騙す必要はあるか? 貴様のようなドブネズミは駆除しなくてはいけないだろう?」
「おいおい。ここで殺す気か? まずは捕まえてからだろう? 違うか?」
「特例だ。見つけしだい殺せとな」
さて、どうしたもんか。下手に動けば斬り殺され、話してもコイツがムキになるだけ。不味いな、方法が一つしか思い浮かばない。けど、これがコイツに通用するかどうかが問題なんだよな。
「言い残すことは?」
「どうして、ここに居ると分かった?」
「貴様が第二王女と踊っていると情報がな」
アレのせいかい! 踊らなきゃ良かった。
「死刑執行だ」
「それは、無理だ」
オレは、そう言いつつベンチをひっくり返した。そして、すぐさま体勢を取り直し一定の距離を保つ。もちろんそんなことをしている間にアイツが立ち上がる。
「最後の足掻きか?」
「じゃあその、最後の足掻きは通用しなかったみたいだな」
オレの頬から血が流れる。クソッ! 明らかに向こうの方が強い。それに、国のなかでもトップだぞ。どうしたもんかね。
<パチン>
大きな音が鳴った。王女様がビンタしてやがった。
「ローブ・アドレイ この方を傷つけることは私が許しません。ほら、行きますよ。ナイト」
オレの名を呼びそして、左手を取り引っ張る。さっきより力強い気がした。
「お待ち下さい! その男はあなた様を誘拐したのですよ! なぜ庇うのです!」
そう言いながら追い付かれる。と言うか先を越される。
「今は亡き父上様と母上様が泣いておりますよ」
「喜んでいますよ。私が居なくなって、姉だけになってね。いいですか? これは、私の家出です。あなたには、関係ありません」
強く、傷つけるように言った。
「なぁアンタ。さすがに言い過ぎたと思うぜ。そこの人はアンタを心配してくれてんだからさ」
「あなたは優しいんですね。自分が殺されそうになっているのに。けれど、その優しいところに惹かれたんでしょうけど」
そして、そのまま進んで行く。
「それで、どうするんだ? コイツ」
円の形をした机。そこに置かれた三つの椅子とそれに座る三人。
「ええ。本当ですよ、私の家出が台無しです。ローブのせいで」
「すいません。けれど、一応青の騎士団です。御守りぐらいはしないと」
あのあと、結局どこまでもついてくるこの男に王女様は疲れ、小さな店に入ってこの状況。
「私はね、この人と ≪二人≫ で家出したいんです! 正直言うと邪魔です。帰ってください」
おい、妙なところでアクセントをつけるな。勘違いするだろう。
「第二王女様! いつそんな男と!」
「そんな男とはなんですか! 彼、結構かわいいんですよ!」
「ちょっと待て。勘違いするな。オレとコイツは友達だ」
「なんだ友達なんですか」
「友達って認めましたね? あなたの口からそんなことが聞くことができるなんてね。ローブよくやったわ。」
「え? 何がです?」
もう、オレいらないんじゃね? この、ローブとか言うやつと家出すればいいんじゃね?
「おや、ダメですよ? まだ ≪報酬≫ を渡していないでしょう? 逃がしませんよ?」
オレが考えていることがわかるなんてな。エスパーか? コイツ。
「はいはい。逃げませんよぉ」
「ここは?」
緑いっぱいの空間。静かな風だけが吹いている。
「最近多いな、この夢」
昨日オレ達はあの、小さな店で二人の昔話を聞かされその後宿に入りベッドで寝た。どうやら、あの二人は小さいときからの関係らしく、まぁ今と変わらない立場だったらしい。さて、どうしたもんか。オレの横のベッドにはローブが寝ている。起こすか? イヤでも、面倒だな。
「おはようございます。ほら、行きますよ。ローブが寝ているうちに」
コイツ。懲りないな。
「はいはい。分かりましたよ、行けばいいんだろ?」
そして、また港に行き船に乗る。一応その事は置き手紙に書いておいたから、恐らく分かるだろうと思って出航したわけだが。
「次の目的地はですね、そうですねどこに行きましょうか?」
なんて言って、この後のことを考えている。まぁオレは、どこに行こうと口出しはできないのでここでは黙っておく。
「近くの町に行き、昼食をとるのも良さそうですね。うん。そうしましょう。いいですか?」
「ん? そういうのはアンタに任せる」
三十分もすればついた。さっきの国から差ほど遠くでない町に着いた。オレ達は港の近くにあるレストランで昼食をとり考える。次は何処に行くか。
「あなたはどこか行きたいところはないのですか?」
「オレに聞くのは間違いだぞ」
「そうですか。なら、私が行きたいところでいいですね?」
「いいよ」
「素直ですね」
実際オレは、そういうのには疎いんだ。
「では、この草原に行きたいですね。少し、静かなところに行きたいですし。ピクニックをしましょう」
そして、また船に乗る。一日で何回乗ればいいんだ? そう思いながら、横で海を眺めている王女様を見る。
「なんですか?」
バレた。海を見てたはずなんだけどな
「あっそういえば服買うの忘れてましたね」
今更かよ。おせぇ~よ。
「綺麗ですね。私は好きですよ、海。あなたはどうですか?」
「確かに、綺麗だとは思うぜ。心が落ち着くと言うかなんと言うか」
表せない。言葉では表すことができない。それほど綺麗だとは思っている。
「青は好きですか?」
「ん?」
「青色ですよ。ほら、海も青い」
そして、こちらを向く。オレは、王女様を横目で見る。
「あなたの目も青いですね」
「アンタは赤いな」
「はい。赤いです」
海の音だけが聞こえる。いや、なにこの空気。
「雨ですね。中に入りましょうか」
ポツポツと降ってくる。オレと王女様は船の中に入る。
「着きました~! ここが、緑の国ユウヒナです!」
あれから、雨はすぐに止み、順調に海を渡り目的地に着いた。
「さぁいきますよ! ピクニックです!」
今までになかったテンション。そんなに楽しみなのかピクニック。
「では、まずパンを買いましょう。それから、紅茶も買いましょう。あなたはなにか要りますか?」
「アンタが決めてくれ。オレは、荷物持ちになるかさ」
なんとなく。なんとくなだがそう言った。ここ最近働いてばっかだな。そのためのピクニックか? いや、まさかな。王女様がそんなとこできるはずがないからな。淡い希望は捨てておこう。
結局の話。オレは、自分でもいった通り荷物持ちだった。まぁオレが言ったことだから文句は言えないが、躊躇いがなかった。買いまくってた。パンに紅茶、お菓子にチーズ。それに付け加えシートも買っていた。さすがに地べたに座るのは嫌だったのだろう。
「着きました! この辺で昼食をしましょう。あの、木の下なんてどうですか? 木陰もあって良さそうです」
そう言って指を指す。オレは、ハイハイとだけ言ってついて行く。少し、坂になっていたので足場に気を付けつつ到着する。
「では、シートを引いて食べましょう。たくさん買いましたからどんどん食べてくださいね。いいですか?」
「分かった、分かった」
シートに座り昼食をとる。パンは食パンだった。もう、察したかもしれないがそうだ。チーズを上にのせ食べた。紅茶を飲みながらお菓子も食べる。ドブネズミにしては贅沢な昼食だ。そんなときだった。矢が飛んできた。オレは、かわせず左目に刺さる。クソッ! 視界が悪くなる。いや、矢だけじゃない。煙幕だ。これじゃあ何も目えねぇ~
「キャ!」
王女様の声が聞こえた。今の声襲われたのか。クソッ。どうなってやがる。まさか国の騎士団か? 最悪の展開が頭に過る。オレは、走って声のする方に行く。煙幕から抜けた。
「マジかよ。そんなのありか?」
五人の青の騎士団。ローブはいない。つまり、事情を知らないやつら。しかもやつら、馬を連れてきていた。走り出す。速い。けれど、オレも追い付こうと、必死に走る。けれど、追い付けない。馬には勝てない。その時だった。死角から一人の男がこちらに歩いてきた。服はボロボロで、フラフラしている。その男はローブだった。だが気づいたときには遅かった。ローブは倒れていた。
「ローブ!」
オレは、名を叫びながらローブの元に向かう。
「この声、貴様か。俺としたことが、まさか王女様の秘密がバレていたなんて」
秘密? そんなことよりまずはコイツの応急処置だ。つってもオレは、応急処置のおのじも分からねぇド素人。勘でやる!
「待て、貴様は第二王女様を追え」
「今はお前だ! ローブ!」
「秘密を教える! 第二王女様の秘密を。それはな、体の中に星が入っていることだ。その星はな、今は亡き国王夫妻の遺品であり呪いだ。ゴミのように扱われた第二王女様に埋め込んだ、星。この世を引っくり返すほどの力を持つ。その力はな、陸を焼き焦がし、海を蒸発させる力。その星はな、太陽のカケラなんだ。そして、それを今、俺以外の騎士と貴族は狙っている。第一王女様を幽閉してまでな。だから、貴様は俺なんぞより第二王女様を追え! いいな!」
「、、、戻ってくる。王女様を取り戻す。だから、辛抱しろよ。ローブ」
「容易いな。クラシック」
オレは、すぐさま馬の足跡を頼りに走る。アイツを助けるために。
「あなた達は青の騎士団。こんな廃屋に連れてきて、何をするつもりですか?」
「あなた様の中にある、星を取る。それさえあればこの世を全て手に入れることができるからな。それに、あなた様は第二王女だ。別に死んだって用はない」
「それであなた達はいきなり私を襲ったのですね?」
「ああ、他に理由があると?」
「私の体の中に星のカケラがあることを誰に?」
「誰だろうなぁ?」
五人は満面の笑みを浮かべる。だが、その笑みはすぐに潰れるだろうな。なぜなら、オレが潰すからな。
「なぜ! お前がここに! 速すぎる!」
どうやったかなんてこの際どうでもいい。今はテメェラを潰すことだけだ。
「ナイト、容赦なくやっちゃてください」
「おうよ、分かったぜ。王女様」
走る。まずは王女に一番近いやつを蹴り飛ばす。すぐさま剣を構えたやつに向かう。回し蹴りを喰らわし、王女様の近くに下がる。あと、三人。剣を奮ってくる。髪が切れた。けど、コイツは大振りだ。だから、隙が生まれる。そこに蹴りと拳を入れる。残りは二人。クッ視界が、血が入りすぎた。一瞬の隙。流石と言うべきか、オレは、右腕を斬られた。落ちる、右腕。痛みを我慢しつつ、斬ったやつに近づき蹴りを入れる。あと一人、
「ゼェゼェ、ハァ、ふぅ~」
呼吸が苦しくなってきた。するだけで肺に血が溜まる。オレは、力を振り絞り一人を蹴り飛ばす。
「大丈夫ですか! 今、応急処置を!」
オレは、残った左腕で手を振る。震えている。立っているだけで充分だ。けど、オレより先に手当てをするやつがいる。そいつは
「グボォ」
コイツにローブのことを言おうとしたときだった。オレは、口から大量の血を吐いていた。
「ナイト!」
どうやらオレは、腹を剣で突き刺されたみたいだ。左腕がダランと垂れる。オレは、そっと後ろを向く。オレを突き刺した相手を見るために。
「ローブ?」
なぜかそこには、ローブがいた。理解できなかった。けれど、ローブの手元を見て分かった。コイツがオレを突き刺した。
「これで邪魔者はいない。星の力は俺の物だ」
クズだな。オレ以上だ。
「ナイト? あっ、あっ、ああ」
泣きそうな目でこちらを見る。まだ死んでねぇのによ。
「実はな、アンタにオレの過去を話してやるよ。だから、それまでは死なないよ」
話すために、お前だけは邪魔だ。ローブ! オレは、もう一度左腕に力を込め、振り向く。腹に刺さったままの剣のせいで腹が斬れる。それでも、吹き飛ばす!
「ヤメロッ!」
廃屋の屋根が崩れる。耐えきれなかったみたいだ。
「ナイト! 目を開けてください!」
「ん? アア、屋根が崩れたのによく生きてな」
「あなたが話したいことを、過去を話すまでは死にませんよ」
そうか、なら、心おきなく話せるな。オレの過去を。
「ボクは? ここは? 広い。草原?」
眩しい。光? 違う。星だ。
『俺は、月だ。月であり、闇だ。お前は俺だ。俺は、お前だ。俺とお前は一緒なんだよ。いつか、俺の対になる存在。太陽であり光の存在と、会うために。俺は、お前を器にする。と言っても俺は星のカケラだ。そこまで力はない。だから、俺ではなくお前が決めろ。こっちじゃなくてそっちが決めろ。いつか、対に会ったとき、お前が決めるためにな。俺達の主を守るために、な』
そして、オレは、混じった。今のオレは、アイツでありオレである。不完全な状態で完全な状態になった。そして、オレは、旅をした。強大な闇の力で邪魔する者は退けた。だが、唯一退けれない物があった。それが太陽だった。体が拒んだ。太陽は危険だと。そして、それと同時に気付いた。オレは、太陽の元ではなにもできないと。袋のネズミだと。そして、オレは、ドブに浸かってしまった。何も求めなくなった。そんなある日だった。太陽が光った。その光は地を突き付け、真っ赤に光った。その瞬間オレは、感じた。これがオレの対になる存在だと。そして、オレは、また旅に出た。
「これがオレの過去だ。面白い話だろ? アンタの秘密を聞いたときにな、もしかしてって思ったんだ」
「恐らくそれは、私のことかと」
「そうだろう。それでな、思ったんだ。アンタは光だ。世界を終わらせるようなやつじゃねぇよ。だから、自信持てよ。それだけだ」
そして、そっと目を閉じる。もう限界だ。最後は笑っていきたいな。
「ダメですよ。死んだら。≪報酬≫ 渡せないじゃないですか。一人にしないで下さいよ。初めての友達なんだから」
涙を落とす。光は全てを包み飲み込む。太陽は全てを照らす。なら、照らすために命さえも、死さえも、理さえも、凌駕する。そして、
「格好よく死んだつもりなんだけどな」
「生きてる? 生きてる。生きてる、、、生きてる!」
驚くなこっちが驚きたい。それにアンタの力だろうが。
「良かった。生きてて! 生き返って! 一人になるところだった。良かった」
泣いてやがる。クソッ、んなことされたら、貰い泣きしちまうだろうがよ。
「泣いてますよ」
「アンタにだけは言われたくない」
本当にアンタにだけは言われたくない。
「良かったですね? 生き返れて。泣くほど嬉しいんでしょ?」
「本当アンタには勝てないよ」
「はい、勝てません」
そう言って顔を近づける。オレは、顔を少し、後ろに下げる。が許されなかった。手を回され頭を抱えられる。そして、無理矢理近付けられる。口と口が重なる。
「ファーストですよ?」
「アンタそういうのは止めた方がいいぞ」
「あなたにだけですよ。ナイト」
「オレもファーストだよ。アサヒ様」
「まだ様付けなんだ」
「癖だ。オレは、ドブネズミなんでね。王族だがなんだが知らないが立場は弁えるんだよ。オレは」
二人で笑う。笑い合う。涙を流すほど、と言うか実際流してた。それぐらい嬉しく、楽しかった。
『フッなかなか良かったぜ。まさか、対とこうなっちまうなんてな。思いもしなかったが。まぁいいだろう。彼奴が嬉しいならな。フッ』
その後オレ達は、国に帰り、王女様は国民に真実を話。オレは、ドブネズミとなった。なに、元に戻っただけだし。何も変わらない。ただ静かになっただけだ。旅の目的はもうない。なら、何をしようか? クソッまた盗みでもやるか。なんて思っていたら現れやがった。アンタはいつも突然だな。
「アサヒ」
「ナイト」
『次はどこに行こうか?』
物語りは残り物となって消えない。有り続けるから。現代も昔も有り続けるから。
あと、一つ短編小説を作る。
連載もがんばる