都市伝説のトンネル
奇妙な世界へ………
俺は兵頭慈英。みそらテレビのカメラマンを務める男だ。
俺は子供の頃からこのみそらテレビを見ていて、迅速で完璧なニュース、笑えてずっと見ていられるバラエティ、面白く評価が高いドラマ。俺はこの3つを見て育ったようなものだ。
そして、俺は大学を卒業した後にみそらテレビに就職し、カメラマンになって今に至る。
このように俺は今、幸せな気持ちである。
ある日の夜。その日は不定期のホラーバラエティーのVTRを撮るために、某県の伎田トンネル前に来ている。
この伎田トンネルは90年代、ここで事故や殺人が沢山起こり、閉鎖してしまったトンネルである。ネットでは『このトンネルに入るとここで死んでしまった人の声が聞こえたり、幽霊が見える。ここに入った者は不幸な目に合う』等の都市伝説がある。
俺はその都市伝説を聞いたことがあるため、正直怖いと思っている。
「野崎さん」
「なんだ慈英」
「これ、撮っても大丈夫なやつですかね…?」
俺は思わずディレクターの野崎真澄さんに聞く。しかし野崎さんはこう答えた。
「いいんだよ。これぐらい。視聴者はこういう感じの物を求めてるんだ。まぁ、憑かれた時はお寺とかでお祓いとかすればいいし」
「ま、まぁ……そうですね!」
俺は飼われた大型犬のように答えた。
「お〜い!もうすぐ始めるぞ〜!」
「は、はい!」
俺達は、プロデューサーである中条慎吾の声が聞こえ、入口前に向かった。そして、撮影が始まった。
「どうも、みそらテレビ、アナウンサーの島袋早苗で〜す!」
「どうも、俳優の芳賀勝です!」
島袋早苗。みそらテレビのアナウンサー。23で美人でみそらテレビ1のホラー好き。色んな番組に出ており、今みそらテレビが一番推しているアナウンサーだ。
芳賀勝。御年60のベテラン俳優。若き頃からいろんなドラマに出ていて、『ベテラン俳優と言ったらこの人!』と言われる程。
どうやら、今回はこの二人がこのトンネルを歩くようだ。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい〜」
気が付くと、二人はトンネルの中に入っていた。俺達は、二人の後を追いかけた。
入って数分、最初は何も起こらなかったがカメラに何かが写った。
「ん?」
「どうした、慈英?」
「なにか、オーブらしき何かが」
「わかった。中条さん、ちょっといいですか?」
それからは、俺達は、カメラの映像を見た。そこには確かに、オーブが写っていた。
「嫌だ〜ホントに写ってますね」
「おいおい、もう出たのかよ」
「本当だ…」
俺達が怖かっている中、中条が、空気を読めない様な発言をした。
「へっ、まさか。たまたま虫が写っただけだろ」
俺達はムッとした。
「というよりね、俺はこう言う都市伝説とか信じないから。信じてんのは一部の馬鹿だけだから。さ、続けて続けて」
俺達は中条の言動にムカつきつつ、歩き続けた。
中条のネチネチとした言動は続いた。声が聞こえたら『鳥の鳴き声』、長い髪の女が通り過ぎたら『たまたま肝試しに来てるだけの奴』と言っていた。
中条の言動に耐え続け、折り返し地点まで来た。
「ふう〜何が都市伝説のトンネルだよ。なんにも怖くねぇじゃねぇか。ハハハ」
中条は笑い飛ばし、俺達のイライラはもっと増えた。
「じゃあ、また行きますか。おい慈英、カメラ回せ」
「はい…」
俺はイライラしつつも、カメラの電源を入れた。
数分後、俺達はトンネルの出口直前まで来た。
「いや〜驚くほど何も無かったですね〜」
「そうですね〜」
俺は2人の演技に何か、悲しくなっていた。
その時だ。
「タスケテ…タスケテ…タスケテ…」
何か、人の声が聞こえた。
「な、何だ!」
野崎さんと俺は驚いたが、中条は笑い飛ばした。
「ハハハ、今のは肝試しに来た奴の声だろう」
「いや、でも…」
すると、今まで演技をしていた芳賀さんが口を開いた。
「あの……実は私、霊感というものがあるのです」
「霊感?」
「はい。今の『助けて』という声も、幽霊の声です」
「はぁ?幽霊?そんなわけ無いだろ!いい加減にしろ!」
「いえ、これが本当…なんです」
芳賀さんが淡々と話すあまり、中条以外は全員信じ切った。
「ケテ…ケテ…ケテ…タスケテ…」
「ほら!今の!」
「そ、そんなわ…なんだ、こいつら…」
中条の方を見ると、そこには夫婦とその子供らしき幽霊がいた。
「カジョウ…ナカジョウ…」
「な、中条?」
芳賀さんがその夫婦の幽霊の近くに行く。
「ナカジョウシンゴ!」
「うわっ!」
俺達は、幽霊の叫びに驚いた。
「ナカジョウシンゴ!ワタシタチハオマエヲユルサナイ!イツカ、ココニイルヤツゼンインニ……………フコウヲ」
そう言うと、幽霊は消えた。
「中条さん」
「わ、わ、わ、わかった、わかった!話す!話す!」
中条は怯えながら昔のことを語り始めた。
「俺が若い頃、親父からもらった高級車でこのトンネルを走ってたんだ。すると前にいた車にぶつかっちまったんだ。事故ったときにその相手の車を見ると凹んでて、更に乗ってたやつは当たりどころが悪かったのか、全員死んでいた!俺はまずいと思い、ここから逃げたんだ。いわゆる当て逃げってやつだよ」
「中条さん…」
俺達は、中条の肩を担いで出口まで行った。
そして、中条は警察に捕まることになった。そして、あのカメラで撮った映像はお蔵入りとなった。
しかし、パトカーでの護送の時にパトカーがトラックにぶつかり、中条は死んだ。
更に、あの時にいた人達にも不幸が訪れた。芳賀さんは階段から転び、島袋アナはテレビ局に行く途中に骨を何本か折る程の事故に遭い、野崎さんは特に運が悪く、トラックにぶつかって植物人間状態になってしまった。
俺はテレビの機材が爆発し、体の数箇所に痕が残る怪我を負い、みそらテレビを辞めて今では地元の農家になっている。
中条や芳賀さん、島袋アナ、野崎さん、そして、俺の事故はもしかして、あの幽霊家族の仕業かもしれないと俺は思っている。
せめて、あの家族が成仏してくれたら………………俺は雲がひとつも無い青い空を見上げてそう思った。
読んでいただきありがとうございました…




