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終章



 世界を作る、それが私の役割。……でも、私が今までしてきたことはどうだろうか。バッドエンドを避けるための多くの体験をするために、滅茶苦茶な設定を加えてハチャメチャな世界を作ってしまったのではないだろうか?


 私は、目先のバッドエンドにとらわれすぎなのではないか。私は目先のバッドエンドを避けるために奇妙な特徴を持つ生物を作り出していった。たとえその時にハッピーエンドを迎えることが出来たとしても、その奇妙な生物に対しての責任を私は取ることが出来ない。……私には、きちんとした世界を作る義務があるのではないか。



「……どうやら深く悩んでいるようだな。さすがに2連続のバッドエンドはつらかったか」

「いえ、それもあるんですけど……」

「どうしたんだい?」


 神様は首を傾けながらこちらをまっすぐ見つめる。私の心を探るように。


「本当に、私がしていることが正しいのかと思って……」

「フン、何だ、そんなことか」


 神様は、力の抜けた顔でこちらをまっすぐ見つめる。私の悩みをからかうかのように。


「神様は自分の好きなように世界を作る存在じゃ。好きな世界を作り出し、気に入らないものが発生したらそれを自由に消せばいい。……神様に責任なんていらないんじゃよ」


 とぼけた顔をしながら、神様は私の肩に手を置く。


「……そんなもんですかねぇ」

「ああ、そんなものだ。お前の自由にやるといい。これから作られるのはお前の世界なのだからな。自分の気に入るようにするのが一番じゃ。……そろそろ十分経過だな。ただいま673文字。このペースならハッピーエンドを目指せるぞ。残り50分でお前の理想を作り上げるのじゃ」

「はい、じゃあそうしてみます」


 再び神様が消え、私は違う場所へと飛ばされた。……これから、私の世界創造が始まる。




 私はあまり頭がよくない。複雑な設定を一時間という制限時間の中で作り上げることはできないだろう。……それでも、出来るだけ趣のある世界を作ってみたい。バッドエンドも避けたいし、ハッピーエンドを目指したい。それに、面白い世界も作りたい。今度こそは、完全に成功させなくっちゃ!



 私は妖精さんと塩レモンの世界を作る前と同じような状態になっている。妖精の世界はどうなったのだろうか。多分、妖精の森から遠く離れた場所をこれから私が作るのだろう。そこにはまだ何も設定されていないはず。



 私が作り上げた妖精の森では、ハチャメチャな設定を持った生き物たちを作ってきた。……なら今度は、正統派の世界だ。剣や魔法でモンスターと戦う……でもそれじゃ、バランスを取るのは難しいか。私は世界創造のプロでもないし、まずは危険性の少ない世界を作り上げよう。楽しいことが多くて、でも深さもある、そんな趣深い世界を作り上げたいな。



 でも剣と魔法は捨てがたい。魔法は何も攻撃魔法を作る必要はない。面白くて安全な、誰もが楽しめる世界の要素として作り上げたい。


 でも剣は戦うための道具だ。殺し合いが発生するような世界のバランスを取るのは私には無理なので、剣での戦いは遊びとして取り入れてみるのも面白いかもしれない。



 ただいま20分経過で1300字 ペースが落ちてしまっているぞ。ここで踏ん張らなければバッドエンドになってしまうぞ。



 もうそんなに時間がたってしまったのか。……でも、しっかりとした世界を作り上げたい。まず最初に剣と魔法の設定をして安全性を確かめてから生物を作りだそう。殺し合いを排した結果、食肉という概念はなくして、とりあえず成長の早い植物のみを食料として作り出すんだ。


 まずは魔法から手を付けよう。やっぱり飛行魔法が楽しそう。飛行魔法を作ります。……名前は、素直にフライでいいか。



「フライ」


 私が呪文を唱えると、私の体は宙に浮かぶ。……ただ、浮かんだ状態で自由に動くことが出来ない。呪文を作るためには細かいイメージが必要なようだね。


 体全体がふわふわした感覚に包まれる。これが宙に浮かぶ感覚なのか。これはこれで楽しいけれど、やっぱり自由に動き回れる魔法がいい。……良し、浮かんでいる間はゆっくりと移動することが出きる、という概念をこの魔法に追加しよう。


「フライ」


 一度地面に降りてから再び飛行の呪文を使う。先ほどと同じように体がふわふわと浮かんだ。けれどさっきと違うのは体を自由に動かせること。これにより楽しい動きが可能となる。


 まずは試しに上へと進む。体中を包むふわふわとした感覚が強まり、とても幸福感を感じることが出来る。この魔法は素晴らしい。


 ……ただ、今私が行わなければならないことはこの魔法の安全性を確かめること。この呪文が原因で事故につながるようなことがあってはならない。


 ……まず、この場所のもととなる風景を作り上げよう。森は前に作ったから、今度は街かな? 人が生まれる前から町が存在するのはちょっと変な感じだけれど、そんな些細なことはどうでもいい。早速街を作り上げよう。



 31分経過 ただいま2000字。このペースで行けばハッピーエンドが見えてきます。




 できました。きれいな街並みが出来ました。趣深さを感じさせる全体的に薄い茶色の石造りの家。それらが無数に発生する。その場にいるだけで、どこか遠くの町を探検しているような気分になれる。


 それから空も作ろう。この力は案外万能で、空についての知識があまりない私でも、現代社会のような性質を持つ空を作り上げることが出来るのだ。重力とかにはあまり詳しくないので、地球と同じにしておこう。もし私が重力に詳しい人だったなら、より安全を突き詰めた重力設定とかにできたのかもしれないが、ないものねだりしてもしょうがない。とりあえずこの設定で行こう。


 フライで上を目指して浮かんでいる間、私はとても気持ちい感覚を感じることが出来る。もし『フライ』の魔法がある事が当然の世界を作り上げることが出来たのなら、きっとその世界の人たちは『フライ』の魔法が存在しない世界の事なんか考えれない状態になるのだろうな。……なんだか、凄いことをしている気分。


 お、そろそろ空が暗みを増してきた。そうだな、とりあえずこの位置から落ちてみよう。『フライ』で遊んでいたらうまく使いこなせなくて落下死してしまうなんてことはあってほしくないからね。とりあえず落下。


 気持ちいいほどの青さを誇る空の中、私は生命の危機を感じた。その怖さは、私が今まで詠唱してから使っていた『フライ』の魔法を、詠唱なしで瞬時に唱えるほどだ。



 40分経過 ただいま2700字 




 うん、フライの魔法は生命の危機を感じたときに瞬時に発生させることが出来たね。落下死については深く考えなくてもよさそうかな。……でも、念のため、自電車のヘルメットのような、『フライ』の魔法を使うときに装着しなければならないパラシュートのようなものも作ることにするか。万が一があったら怖いからね。


 次は衝突死について考えよう。フライを使って移動するときはゆっくり動くように設定したけれど、フライを使っていない時の自由落下を楽しむときに、生物と生物がぶつかって大けがが発生する事も避けなければならない。


 ……これは、フライの解除条件に、自分が落下していくことの出来る範囲内に危険なものがない時、という制約をつけることにしよう。さすがにフライを解除できなくてケガになりましたなんてことにはならないだろう。


 

 となると次は剣だね。剣を作るとなると、安全を考慮しなければならない。剣を柔らかくするか、人を固くするかだけど……


 正直、生物の体を強くする方がいいんじゃないかと思う。人がケガするメリットなんてほとんどないんだし、だったらケガしないくらい強い体にすればいいんじゃないか。


 ……となると、さっきは何のために『フライ』の安全性について考えていたんだろう。最初から生物の体を強くするだけでよかったのに。


 まあいいや。剣では切り傷をつけることが出来ず、目を潰すことも出来ない、それくらい頑丈な人間を作るようにしよう。実験をするためにも、まずは一人だけ作ろう。


 せっかくの最初の人間なのだから、可愛らしい見た目の特別な子を作りたい。……ペン怪盗のことは例外という事にして。




 50分経過 3400字 残り10分で600字でバッドエンドを回避できるのじゃ。




「私があなたのマスターですか?」


 ツインテールによって作られた二つの髪の束は、まるで細長い宝石のよう。彼女の大きく開いた目をじっと見つめていると吸い込まれてしまいそうな気持になる。……この子が、最初の人間、名前は……時間がない、後回しだ。


 それにしても困った、時間のお知らせを聞いて焦ってしまった。ちょっと設定がおかしくなっちゃったな。……でも、まあいいや。とりあえずこの子で実験してみよう。



「まあ、そんなものかな。ちょっとこの剣で私の手を切ってくれない?」


 私がお願いすると、ツインテールの少女は驚いたような表情になり、私から距離を離す。


「え、ちょっと……いきなりそんなことを言われても。私にはできません」



 ……断られてしまった。こうなったらもう一人作り出すしか……



「よお、お前が俺のマスターだな。剣のけいこがしたいのか。良し、付き合ってあげよう」


 かっこいいお兄さんが私に向かい剣を突き出してくる。これで実験ができそうだ。



「それじゃ、遠慮はしないぜ」

「ええ戦うのですか……」


 やる気満々のイケメンと、少々引き気味の少女。二人は同じ美形だけれども、全然思想が違う。……何で私は戦い嫌いの子を作り出して自分を切らせようとしたのだろうか。急いでいる人は何をするのか分からないな。まあ、自分の事なんだけれど。


「それじゃ、行くぜ。俺の全力を受けてみな」


 瞬間、彼の姿は残像となり、一瞬の間に私の目の前に彼がやってくる。もしこれが地球でのまともな戦いだったのなら私の命はもうなかっただろう。


 私の腕に、鋭い痛みが……ない。



 1時間経過。ただいまの文字数4190。4000字を越えたためハッピーエンドに進むことが出来ます。










「ふう、俺の渾身の攻撃も、お前の体に傷一つつけることが出来ないなんてな」

「せっかく自由に世界を作ることが出来るのだから、殺しという概念がない世界にしようと思ってね」

「……殺し合いのない世界、なんて素敵な響きなのでしょうか」


 自分の攻撃が通用しなくて少しだけ悔しそうなイケメンの子と、殺し合いのない世界という言葉にうっとりしているツインテールの子。……何だろう、この幸せな空間は。二人とも特に私を好きになるようには設定してないけれど、一緒にいるとすごく楽しい。


「でも、剣術の試合では俺は負けなしだったぜ。勝つってすごく気持ちいいんだな」

「私もマスターに一度だけ勝利することが出来ました。その時はすごく楽しかったです」


 二人とも、凄くきれいな笑顔で楽しそうにベンチに座っている。この構図はすごく絵になるな。


「それにしてもひどいぜ。作り出してくれたのは良かったんだが、まさか名前を付けてくれないなんてな」

「そうですよ。なんで名前を付けることを放棄したのですか。ちょっと寂しかったです」

「……うん、ごめん。あの時は、正直考えている時間がなかったんだよね。でも、今ならつけることが出来るよ」


 二人の冷めた視線が私の心にいたい。二人にはちょっと酷いことをしちゃったかな?



「もういいや。自分でつけるぜ。……俺の名前はケンシ。うん、良い名前だ。そう呼んでくれると嬉しいぜ」

「じゃあ、私の名前はライアね。可愛い名前でしょう」



 ……何なんだろう、この感覚は



「それじゃ、俺たち三人でこの世界を作っていこう。きっと楽しいぞ」

「ええ、三人で力を合わせれば、素敵な世界を作ることが出来るに違いありません」


 笑顔でこれからについて話す二人。


「あ、そのことについて何だけれど……私、もう行かなくちゃいけないの。いったん神様のところへ行って今度は何年か後の世界を作り出さなきゃいけないんだ。だから、もう二人とは会えないかも」


 神様のもとへ帰る時間が来てしまった。体が、少しずつ消えていくのを感じる。……やだな、二人と別れるのは。この感覚は、何だろう。


「ああ、そのことなんだが……」

「心配はいりませんよ」


 ケンシは意味ありげな顔を、ライアは純粋な笑顔をこちらに向けてくる。……一体、どうしたのだろうか?



「次元干渉斬!」


 ケンシが凄いオーラを剣にまとわせ、それを私にぶつける。すさまじい音はしたものの、私の体は彼の攻撃をいともたやすく受け止めた。……あれ、体が消えていく感覚が収まった?



「神族干渉鏡!」


 ライアは鏡を取り出し、彼女の持つエネルギーをそれにぶつける。……あれ? 神様が映ってる。


 

「あんたは俺を、凄い剣術が使える戦闘狂として作り出した。だから俺は戦闘狂になった。……だが、この技はあんたに設定されたものじゃない。俺が自分で考えて作り上げた技だ」


「私のも似たようなものです。……正直、驚きましたよね」


 二人は怪しげな笑顔をこちらに向ける。……そうだ、私が求めていたのはこれだ。私の作り上げた存在、それらが私のつけた設定を上回る。私は、最初からこれを求めていたのかもしれない。



「やあ君か。まさか帰還を拒むとは予想外だったのじゃ。どうした、何か知りたいことがあるのかな?」

「え、ええっと……」

「冗談じゃ。どうやらお前の求めるものが見つかったようじゃな。これからは好きにするといい」

「ええ……いいのですか」

「神様に責任なんてないのじゃからな。自由に生きることこそ神様の義務じゃ」

「は、はぁ……」



「それじゃ、行こうか。俺たちの冒険へ」

「ふふふ、楽しみですよ」

「……二人といると、退屈しなくて良さそうだな」







 あれから数年後、三人は誰も争うことのない平和な世界を作り上げることが出来ました。人間達と妖精たちはお互いの長所を生かし、創造主の創造をも超える発展をすることになりました。


 めでたしめでたし。









「さあ、ペンはいただくぞ。持っている筆箱を全て差し出すのだ」


「そ、それだけはご勘ペンよ。ペンはオペンたちのオアシスの様なものだペン」


「黙れえっ、ペンは全て俺たちのものだ~」

「そうよ。ペンは私たちの物なんだから~」


「そ、そんなぁっ!」



 人間と妖精の平和のうらで、怪盗とペンの化け物との戦いはずっと続いていくのだった。


 

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