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終わらない搾取



「どうやらバッドエンドに突入してしまったようだな。まあ、最初だからしょうがない。……それにしても、まさか自分を犠牲にするとは思わなかったぞ。お前の行動はその世界に永遠に残されることになるだろう」

「いえ、妖精さんたちが絶滅しなかっただけでも良かったです。塩レモンもなくならずに済んだみたいですし」

「ずいぶんな自己犠牲だな。嫌いではないが、あまり自分を犠牲にしすぎるなよ」

「ええ、出来るだけハッピーエンドを目指すようにしたいと思います」


 妖精たちとの出会いの後、私は再び神様のいる空間へと送られてきました。


「お前の活躍によって、妖精たちの文化が作られた。世界が一つだけ発展したようだな」

「……正直、ほとんど活躍した覚えがないのですが」

「何を言う。お前は一つの文明を作り出したんだぞ。もっと誇るがいい」

「は、ははは」


 神様は真剣な表情に変わり、重要な話を始める。


「まず、妖精たちの文化が作られた。しばらくの間は放っておいても妖精と猫の文化が発達していくだろう。……お前には、その50年後の世界を作ってもらいたい。これからお前をあの時の50年後に送る。文化を進めるためにも新しいものを取り入れる必要があるだろうそれじゃ、さらばだ。……ちなみにもうすでに10分経過しているぞ。残りの五十分だ」


 神様との会話が終わると、私は深い森の中へと送られた。



 森の中に来たけど、どうしようか。妖精たちの様子を見てもいいし、全く新しい文明を作り出すのもよさそうだ。


 ……とりあえず、妖精たちの様子を見てみよう。果たして、どうなっているのか



 見渡す限りの緑、緑、緑。どうやらどこにもキノコが生えていないようだ。塩レモンも見当たらない。妖精もどこにもいない。


 ……しょうがない、何かを発生させて物語を作ろう。バッドエンドで悲惨なことにならないようにするためにも、ここは強引に攻める必要がある。


 私は、前回のバッドエンドにより、悪い方向で有名になる未来が確定してしまった。せっかく世界を作ったのに、それじゃ残念だ。……ここは、私の印象を少しでもマシにするために、私が活躍できる世界にしてみることにしよう。


 私が活躍できる世界、私が活躍できる世界……そう、小説の主人公のように私が活躍できる世界を作ることが出来れば、私の汚名挽回も出来るかもしれない。


 小説の主人公は、悪い敵を倒してそいつらに苦しめられていた人たちに好印象を持たれる。ならば、悪人とそれに苦しめられる存在を作ればいいのではないか。


 ……でも、妖精さんたちに言われたんだよな。自分で敵を用意してそれを倒してヒーローになるなんてダサいって。敵と被害者を作るようなことはもうやめよう。




 ただいま、21分経過で1100字です。このペースでは一時間で3300字にしかなりません。バッドエンドを避けるためにも、もう少し多くの体験をしましょう。




 神様からのお知らせが届いた。とりあえず、バッドエンドを避けることが最優先だ。私の活躍はその次。


 何を作れば物語が発生するのか、何も思い浮かばない。……こうなったら、思い浮かんだ単語を使おう。


 私がふと思い浮かんだもの、それは……『ペンケース』



 この緑あふれる自然とペンケース、かかわりを感じにくい。そもそもこの世界にはペンなんてまだないだろう。


 ペンケースを活躍させるためにはペンケースと深いかかわりを持つ存在を作り出す必要があるだろう。


 ペンケースと言えば入れ物。入れ物は何のためにある? そう、物をなくさないためだ。ペンをなくさないようにするためにペンケースが必要なのだ。


 つまり、ペンとかかわりの深い存在を作り出し、私はその存在にペンケースを与えればいい。ペンをよく無くして困っていた彼らに私がペンケースを与え、ハッピーエンドにすることが出来れば、私は良い存在として今後のこの世界に名前を残すことが出来るかもしれない。




 32分経過。残り2400字




 ヤバイ、考えているだけでもう半分時間を使ってしまった。もういいや、ペンを使う存在よ、現れろ!



 私が心の中で叫ぶと、森の中が光で満ちる。そしてその後、森の中に不思議な生命体が発生したのだ。


「ペンぺーん。ペンこそがすべて! ペンさえあれば幸福なのだ~!」

「ペンを制する者はペンを制するっ! ペンを、ペンを~」

「ペンをよく無くしてしまう俺は、全然ダメな奴だペン」


 ペンを巨大化して手足を生やして顔を付けたような生命体が、私の周りに集まっていた。……私はとにかくペンと関わりのある生物を作ろうとしたけれど、その生物がペンを使う理由を考えている時間がなかったため、とにかくペンが好きな変な生き物を作り出してしまったのだ。



「お、お前はペンじゃないな? ペンになってみる気はないかペン?」

「あなたはペンについて詳しいのかペン?」

「おペンにペンをなくさない方法を教えてほしいペン」


 なんだかすごく目立ってしまったようだ。


 40分経過。ただいま2100字。このままではバッドエンドです。速やかに濃密な冒険をしててください。



 残り20分……そろそろやばいな。またバッドエンドになっちゃう。濃密な冒険を発生させるためには……


 妖精さんよ、すまない。やはり私には敵が必要なようだ。






「ペンのにおいを嗅ぎつけて

乾燥する前に駆け付ける一人の男

ペン怪盗、ペントリーダ参上!」


 目元に黒い何かをつけ、真っ赤なマントを付けた、無駄にイケメンな男性が私とペンたちのもとにやって来た。


「この俺が来たからには、全てのペンは俺の物になる。ペンバキュームよ、全てのペンを吸収しつくしてしまえ!」


 彼はマントの中から掃除機のような何かを取り出し、そのスイッチを入れる。コンセントは必要ないようで、スイッチを入れた瞬間に空気を吸いこみ始める。


「ああ、隠していたおいらのペンが~」

「どんどん吸われていくペン~」

「ああ……」


 森の中のあらゆるペンが宙を舞い、掃除機の口へと向かっていく。その様子はまるで……ダメだ、何もたとえが思いつかない。




 50分経過。ただいま2500字 残り10分で1500字分の冒険をしてください。



 ……ダメだ、もう、間に合わない。


 ……ちょっと待てよ、この展開のバッドエンドと言えば。


 とりあえず今は物語を進めよう。




「みんな、これを使って。これはペンケース。見たところ、あの掃除機はペンより重いものを吸うことが出来ないようだよ。ペンをこの中に入れれば掃除機に吸われずに済むんじゃないかな?」


 私の言葉を聞いたペンの生き物たちは、目を輝かせながら私からペンケースを受け取っていく。そして、お気に入りのペンをペンケースの中へと入れだした。



「凄いペン、凄いペン! ペンが吸われないペン! これはペン界の革命だペン!」

「これはすごいことになったペン! ペン界のルールが大きく変わる出来事だペン」

「……ちょっと待つペン。この中にペンを入れればなくしにくくなるのではないかペン?」

「お前は天才だペン。なくしたくない大切なペンはこの中に入れるようにするペン」


 ペンたちは回答の前で大はしゃぎ。ペンケースの出現は彼らにとっては大きすぎる出来事のようだ。……本当なら、もっとちゃんとした設定にしたかった。ペンはどのように作られていたのか、そういった物は一切設定していないため、この世界はペンが自然発生するような世界になってしまったのかもしれない。



 一時間経過 ただいま3100字です。 900字の不足により、これからバッドエンドへと移行します。





「おら、お前たち。ペンケースを渡すんだ。その中にアルペンは全てペントリーダ様のものだ」

「隠しても無駄だよ~私たちにはペンのにおいをかぎ取るペンノーズがあるからね♪」

「ははははっ、ペンは全て頂くぜ」


 二人の男の子と、一人の女の子。彼らはペンの化け物を追いかけまわし、ペンを搾取して回っている。


 ペンの怪盗、ペントリーダーはあの後妖精さんとの間に子供を作り、その子供たちに怪盗の仕事を覚えさせたのだ。



「は、はい。ペンケースを、差し出すペン……」

「おいお前、ペンを一つだけ隠しているだろう。それも差し出すんだ」

「ひいいいいっ、お勘弁を。この一本だけはどうか奪わないでください。これがなければおペンは……」

「知らんな。さあ、差し出すんだ!」

「あああああっ、ペエエエエエエエン……」



 ペントリーダーが死んだ後も、ペン怪盗は子供たちへと受け継がれていくだろう。……終わらない搾取が、この森の中で始まった。

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