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星の願い  作者: ミケ
第三章 這い寄る星々
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93.幻影と魔帝

サングレーザーから少し離れた道に一人の少女と一人の男が歩いていた。

少女が前へ足を出す度に銀色の長髪がふわっと揺られる。

「良い空気だね~」

空を見上げながら独り言のように呟く。

「ね、そう思わない?」

男の顔を下から覗き込むように前屈みになる。


「……」

しかし、男は何も反応を示さず真っ直ぐと見ていた。

「あ〜、無視〜?」

頬少し膨らませて、文句を言いたげそうにする。

すると、男はようやく口を開き出した。

「俺達は観光にしに来た訳じゃない」

「つれないな〜」

姿勢を戻して辺りの景色を見る。


サングレーザーからは少し距離があるせいか、誰もおらず閑散とした空気が流れる。

道草が茂っており、隣には何本かの木が不規則に並んでいた。

「………」

互いが無言になり小鳥の鳴き声や、ザッザッと土を踏む音がよく聞こえていた。

「歓迎されてるね」

少女がうっすらと笑みをこぼし呟くと、彼らの前方から呼び止める声が届いた。


「止まれ!」

声とともに二人も歩みを止める。

「…………」

黙ったまま声の主を見る。

そこには軍服のような格好をしたアクエリアスと金髪碧眼の男、レグレスの姿だった。

「何やら僕達と同じ気配を感じたから…来てみれば」

男を睨み据える。

「まさか君だったとはね。ベリス…!」

ベリスと呼ばれた男は視線を僅かに動かす。

「お久しぶりです…アルバさん。あの時と比べて大きくなりましたね」


優しい口調だが、彼の威圧な気配がそれを相殺させていた。

「いや、今は水瓶座アクエリアスさんと呼んだほうが正しいか」

続いてレグレスの方に視線を移す。

「初めまして…貴方が獅子座レオの眷属、レグレスさんですね」

「……貴様が…同胞殺しのベリス…!」

「そして隣に居るのは…メル…という奴かな?」


アクエリアスに言い当てられて嬉しいのかニヤつく。

「へー、私のこと知ってるんだ。何処で知ったのかな~?」

「僕達の情報網を甘く見ないほうが良い。それよりも」

相手に隙を与えないように構える。

「何しに来た…!」

「貴方達には関係の無いことです」

相変わらず淡々とした声で答える。

七星人の一人であるメルに加えて、裏切り者と呼ばれたベリス…この様子を見るからにして彼も星導光惑星エーテルプラネットのメンバーなのだろうか?


もしそうならば、一つだけ思い当たる節がある。

「……七星人か?」

「………」

七星人の一人ユーピテルのことだ。

「あらあら、バレちゃってるじゃん。どうするの?殺す?」

可愛らしく不穏な言葉を吐く。

「いや」

ベリスは目を細めて顔を少しだけ引く。

「俺達は戦いに来たわけではない。無用な戦闘はナンセンスだ」


「貴様がそうでも、俺達が通す理由にはならん」

珍しくレグレスが感情にまかせて言い放つ。

「貴様がやった行為、忘れたとは言わせんぞ」

大剣に片手に取り刃先を向ける。

「人間に手を貸し欲に溺れ数多くの同胞を手にかけたことをな!」

「うるさいな…イライラしてきたよ…やっちゃっていい?」

メルの不満そうな声にベリスが反応する。

「分かった」


「よし!じゃあ」

「俺がやろう」

「え〜!?今の流れでそうなるの〜!?」

「お前の能力は手加減に向いてない」

「むう…」

空気の抜けた風船のように萎れる。

「それに…俺ならすぐに終わらす事が出来る」

「あっそ、じゃあいいよ。勝手にすれば?」

今度はムッと頬を膨らませて、近くの木陰に足を運ぶ。

「ここで見てるから早く済ませてよね!」

拗ねた子どものようにちょこんと座る。


(なんだか知らないがアイツ一人で戦ってくれるみたいだ)

アクエリアスは警戒を緩ませず、彼女の方を見る。

プルートの情報ではメルという人間はかなりのやり手らしいからな…正直なところ助かる)

メル…あの見た目で七星人と呼ばれるくらいの力がある。それに加えてベリスもいる。

彼の情報は数少ないものの最低限の事は知っていた。

(レグレスと連携を上手く取れば……勝てない相手ではない)


2対2なら確実に殺される。だが、2対1の今なら…勝機はある。

「どう攻める?」

視線をベリスに向けたままレグレスが尋ねてきた。

「僕が陽動に出る。君はその隙を狙って奴に攻撃してくれ」

冷や汗をかきながら続ける。

「だが、一つだけ注意点がある。奴に対して術式を見せてはならない」


魔術も武術も全ての術を発動する際に術式が空間に浮かび上がる。たとえ無詠唱で発動したとしても変わらない。

術式を見せるな、それは術の使用を禁ずる事を指す。

「なぜだ?」

当然その疑問は出てくる。

ベリスという得体のしれない敵を相手をしなければならない。

術を使わずに戦うのは自殺行為とも捉えられる。

術式操術じゅつしきそうじゅつという一度見た術式を分析し、遠隔で相手の術式を操れる能力を持っているからだよ」


彼の言葉に反応しピクリと微動する。

「俺の能力を知っているんですね。誰から聞いたのですか?」

「キャンサーだよ。彼からは戦わず逃げろと忠告してくれたけどね」

「そうか…彼が……」

思いふけるように視線を落とすが、すぐに二人に視線を戻す。


「ですが、残念です。俺の能力を知っていようが貴方では勝ち目はない」

僅かだがベリスの左手がピクリと動く。

「…っ!?」

アクエリアスはその異常に気付き、自身の周りに水の壁を打ち出す。

壁が出来た時には既に茨のトゲがアクエリアスを囲むように貫こうとしていた。

茨が一斉に飛び出し水壁に鈍い音が広がる。瞬く間に壁は瓦解していった。


レグレスは一歩遅れてアクエリアスの方に顔を向ける。

(コイツ…!魔術を発動させたのか!?)

ゆっくりとした動作でアクエリアスに指をさす。

「咄嗟に使ってしまいましたね」

「ちっ」

術を使わされた以上、何を仕掛けてくるか分からない。

星水鎧アクアアーマーを施し短期決戦にでる。


アクエリアスが一歩前へ出たタイミングで星水鎧アクアアーマーが霧のように消えていった。

その瞬間、彼の周りに爆発が起きた。

「………?」

レグレスは最初なにが起きたのか理解できなかった。

眼の前に居たアクエリアスが小規模の水爆を起こし倒れたからだ。

「アクエリアス…?」


思考が僅かに停止し呆然としているとベリスが音もなく接近していた。

そのままベリスは強烈な蹴りを入れ込む。

「ぐっ!」

瞬時に大剣を盾にして相手からの攻撃を防ぐ。

鉄と鉄がぶつかりあったように重くのしかかる。

恐らく彼の身体能力を引き上げて蹴りを繰り出してきたのだろう。


ベリスは押し込むように蹴り飛ばす。

ザーッと地面に大剣を刺して減速をさせる。

止まる寸前にレグレスが様子をうかがうため顔を上げると、ベリスの魔術と思われる雷撃が近くまで来ていた。

「はあぁぁぁぁぁぁ!」

この距離で避けきることは不可能、大剣をひと回り振り、辺りに氷の結晶を作り出す。

雷撃が近づくと一つ一つに枝分かれを起こし雷を分散させる。


この結晶…隙間があるように見えるが、見えない壁が阻みレグレスを守っていた。

だが、結晶が雷撃に耐え切れず崩されてしまう。

咄嗟に大剣を盾にして何とか防御をする。

凄まじい衝撃が走り、地面をえぐり出す。

「あ〜あ」

木陰で見ていたメルがつまらなそうにしていた。


「せっかく、アク…何とかが説明してくれたのに…」

(奴が何か仕掛ける前に行動を―――)

グサッ!

レグレスの思考は痛みにより停止する。

彼の体から氷柱が突き刺さっていた。

「がはっ!」

いつの間に術を…!?

奴が術を仕掛ける仕草なんて無かったはず…ましてや術式すら見当たらなかった。


貫いた氷がピキピキと音を立てて粉雪のように細く砕かれた。

「ぐはっ!?」

突き刺さっていた氷柱が砕かれた事により、血が吹き出しレグレスは倒れる。

「…………」

雑魚を相手をするかのように素早く淡々と終わらせた。


「術式の強制行使」

木陰から移動してベリスに近付く。

「一度見た術式の構造を理解して、対象の術式に自身の生命エネルギーを潜ませる。そのエネルギーを使って術式の強制解除、行使をすることが出来る」

アクエリアスを通り過ぎて、彼の隣に行く。

「ベリ君のもつ術式操術と冷静な解析能力があってのこと…恐ろしい術ね」


倒れたレグレスを見ながら尋ねる。

「それでどうするの?」

「俺達の目的に関係ない。放って置く」

ゆっくりとした足取りで歩き出し、目的地のサングレーザーへと目指す。




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